第四話 4
高木のおじいちゃんの一件があってから、自動販売の横のゴミ箱を覗いて周る癖がついてしまって、今日もたばこ屋の前のゴミ箱を覗いてみたら、五分の一くらいしか入ってなかった。その隣りのパチンコ屋さんのゴミ箱も五分の一くらいだったから、ということは、昨日くらいに高木のおじいちゃんは順調に空き缶を集められたんだなと思って、ほっとした。時には、満タンになっているのに集めてないこともあるので、その場合は、こっちが先に集めてしまって、後で高木のおじいちゃんの家に持って行くようなことも最近ではするようになっていた。
取りあえず、さっき、店を出る前に輝に訊いたら、弁当屋の前で黎が捕まってたそうだから、弁当屋まで歩いていった。でも、黎には遭遇しなかった。もうちょっと先まで行こうかなと思ったけれど、鈴木のおじいちゃんの家は、弁当屋とうちの店の間にあるし、店まで引き返そうと思って歩いていて、ふとコンビニの中を覗いたら、なんと、中に鈴木のおじいちゃんと黎がいるではないか! 僕は慌ててコンビニの中に入った。
二人に近づいてみると、コンビニの中で本を立ち読みしながら雑談していた。鈴木のおじいちゃんは、輝が言っていた通り、パジャマを着ていた。周りの人は、さすがに奇妙な顔をして、おじいちゃんから距離を取っていた。僕はそっと黎の後ろに回り、耳元で「何をしているの?」と声を掛けたら、黎はびっくりしたのか「わっ!」と驚いていた。
「あー、びっくりした」
「びっくりしたって、こっちがびっくりするよ。なんでコンビニに、パジャマ姿の鈴木のおじいちゃんと一緒にいるんだよ」
「あー、あのね、学校から帰ってたらね、おじいちゃんが向こうから歩いて来て、『テレビがつかん』と言ってきたんだよ」
「はぁ?」
「だからね、もしかしたら、リモコンの電池が切れたのかなと思って、コンビニに買いに来たの」
「それで、買ったの?」
「うん」
「お金は?」
「コンビニの店長さんが、後でおじいちゃんの家にもらいに行くからいいって言ってくれた」
「ふーん。でも、鈴木のおじいちゃん、昨日はうちに食べに来てくれてたけど、今日みたいな感じじゃなかったよ。普通に喋ってたし」
「コンビニのおじさんも言ってたけど、ときどきおかしくなるって言ってた。毎日おかしいわけじゃないんだって」
「そうなんだ……」
「昨日だって、お父ちゃんは見てなかったのかもしれないけど、おじいちゃん、新聞を逆さまに読んでたよ。今も本を逆さまに読んでるけど」
そう言われて、おじいちゃんのほうを見たら、ほんとに雑誌を上下逆さまに持って読んでいた。
「でもさ、コンビニの中って寒いから、おじいちゃんを家まで連れて帰ってあげようよ。あんな恰好してたら風邪ひくよ」
「うん」
僕は鈴木のおじいちゃんに「リモコンがちゃんと直ったから、家に帰りましょう」と声を掛けると、おじいちゃんは「うん、そうかい」と言って、素直について来てくれた。
おじいちゃんの家に着いて玄関を開けると、中から人が慌てて飛び出て来てびっくりした。ヘルパーさんだった。ヘルパーさんは五十代半ばくらいの中年の女性だった。ヘルパーさんは「ああ、良かった、捜してたんですよ」と言っていた。家の中に入らせてもらって、さっそくリモコンの電池を取り換えると、ヘルパーさんがお茶を淹れて来てくれた。僕は「ありがとうございます」と言っていただいた。
「本当に助かりました! もうどうしようかと思ってました。いつもはすぐに帰ってくるんだけど、今日は全然帰ってこないので、どこかで事故にでも遭ってるんじゃないかと思って心配してました」
「鈴木さんは一人暮らしなんですか?」
「ええ、そうなんです。私がお昼ご飯と夜ご飯を作りに来てるんですけど、あと、お風呂も沸かしてあげるんですけど、それ以外は全部一人で出来るんですよ。だから、私がやることはそのくらいです」
「そうなんですか……。でも、今日みたいになったら、心配ですね」
「そうですね……」
「うちにもしょっちゅう来てくれてるんですけど、いつもテーブルに座って新聞か雑誌を読んでいるから、おじいちゃんがどこかおかしいってことに今まで気付いてませんでした。パジャマを着てきたら、そりゃ否が応でも気が付きますけどね」
「ふふ、そうですね。でもね、鈴木さん、結構、明るい方だからお世話しやすいですよ。なんでも喜んで食べてくれるし。でも、ご飯を食べてから、またハンバーガーを食べに行ってるんですかね?」
「そうかもしれないですね。だけど、鈴木さんは糖尿病じゃなかったですか?」
「そうです」
「うちに来て、薬も飲んでるけど、食べ過ぎですよね」
「そんなことをしてるのだったら、晩御飯の量を少し減らしますね」
「そのほうがいいですね」
そんな会話をして二人で笑った。なんで笑ったかというと、向こうの部屋で、鈴木のおじいちゃんと黎が何か内緒話をして二人でずっと笑っていたからだった。ことは深刻だと思うのに、なんでみんなで笑ってるんだろう、なんだか変な展開だなと思いながら、でも明るく楽しければいいかと思い、黎と僕は鈴木のおじいちゃんの家を後にしたのだった。




