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東京の空の下で  作者: 早瀬 薫
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第四話 2

 鈴木のおじいちゃんの他に店にやって来る常連の年配の客は、樋口のおばあちゃん、川上のおじいちゃん、土屋のおじいちゃんと阿部のおばあちゃん。


 まず、樋口のおばあちゃんから説明すると、彼女は毎回混雑する昼の時間帯に、スーパーで先に買い物を済ませて置いてからやって来る。しかも腰が曲がって歩きかねていて、だから彼女にとってババ車は必需品なのだろうが、そのババ車を大勢の人でごったがえしている狭い店の中に無理やりねじ込む。樋口のおばあちゃんは結構な歳だと思うのに、ちゃんと主婦をしているのか、毎回山ほど食料品を買い込み、うちの注文もハンバーガー一個ではなく、大体三個くらい注文し、必ずデザートも三個注文する。彼女の注文は毎回持ち帰りなので、デザート用のプラスティックのスプーンもつけるかどうか訊くのだが、彼女は毎回「ババだからそんな洒落たものは入りますまい」と断るのだった。

 うちのバイトの藤田さんは、かの有名な日本で最難関の国立大学に通っている女の子だが、杓子定規というか、応用がきかないというか、臨機応変にやってくれればいいのに、毎回毎回樋口のおばあちゃんと「スプーンを入れましょうか?」「ババだからそんな洒落たものは入りますまい」という同じ会話を繰り返していた。


 川上のおじいちゃんは、ちょっと気難しい人で、いつも物凄い横柄な態度を店員に対して取る人だった。このおじいちゃんも毎回家族分まで買って帰っているみたいだが、汁気のあるものは必ずビニール袋に入れろと言った。昨今では、リサイクルブームというかエコブームというか、もったいないからビニール袋に入れないで欲しいと言う人が多いのに、川上のおじいちゃんは毎回ビニール袋に入れろと言った。

 事情をよく分かっていない従業員がレジを担当して、ビニール袋に入れずにそのまま商品を紙袋に入れると、「あれだけ毎日言っているのに、この店の教育はなっとらん!」とぶつくさ文句を言った。他にも、小分けにしろだの、一まとめにしろだの、その日の気分で毎回何らかのいちゃもんをつけないと気が済まないみたいだった。だから、川上のおじいちゃんが店に入って来ただけで、今日は何を言われるんだろう?と従業員全員に緊張が走るのだった。


 土屋のおじいちゃんも川上のおじいちゃんと大して変わらない年齢だと思うが、この二人は本当に対照的だった。土屋のおじいちゃんは気さくで明るい人だった。いつも注文した商品の合計金額の計算を先に頭の中で済ませていて、会計と同時に「一二四〇円!」などと叫んだ。僕が「毎回すごいですね!」と言うと、「呆け防止にやってんだよ」と笑いながら言うのだった。

 こんな風に明るくて頭のいい人なのに、実は土屋のおじいちゃんは、幼い頃に小児麻痺を患ったのか肢体不自由らしく、財布の中から小銭を出すのに毎回苦労していた。指先を細かく動かす動作が苦手のようで、おまけに足もびっこをひいていた。それなのに、従業員にも元気をくれるような明るい受け答えをいつもしてくれる人だった。


 最後に、もう一人、阿部のおばあちゃん。彼女は、二十年前に旦那さんを亡くし、一人暮らしをしているらしい。阿部のおばあちゃんも他の年配のお客さん同様、僕が十年前に店を開いたときからの常連のお客さんだった。彼女はいつもほんの少し注文して、店で食べて帰ってくれるのだが、最近、注文途中で考え込むことが多くなり、「あれ? お金を払ったかしら?」と何回も言うようになった。

 何年か前はこんなことは全然なかった。少し心配だけど、彼女のこの変化は、誰にも止めようのない避けて通れないことなのかもしれないが、でもやっぱり、なんだか悲しかった。


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