第三話 11
香苗さんと話をして、次のシフトから崔さんと池上君を一緒にしなくちゃなと、その夜、ニマニマしながら考え事をしていたら、佐都子に「気持ち悪い」と一言言われた。
「一樹って妻の私から見ても、すごく男前だと思うの」
「うん、ありがとう」
「でもね、ニマニマしてると気持ち悪い……」
「……」
全く、我が家の女性陣は僕に容赦がない。澪といい、佐都子といい。お願いだから、光だけはそうならないでくれ。
「それとね、言い忘れてたけど、ビッグニュースがあるの!」
「な、なに?」
「昨日ね、李君が熱出して休んだから、私が代わりにお店に出てたでしょ?」
「うん、ありがとう、助かったよ」
「そのときにね、崔さんが言ってたのよ」
「何を?」
「店を辞めるって」
「はあっ!? なにっ? どういうことっ?」
「だから、お店を辞めるのよ」
「な、なんでっ?」
「え? 困る?」
「当たり前でしょ? 崔さんはうちの店の重鎮なんだから」
「あ、そっか」
「でも、また、急な話だね……」
「あのね、崔さんて本当は韓国の大富豪のお嬢さんらしいの。でも、兄弟が妹しかいなくて、それでお父さんの会社を継ぐのは彼女しかいないらしいの」
「そ、それで? それで崔さんは会社を継ぐんだ……」
「まぁ、いずれはそうなるんだろうけど、そうじゃなくて……」
「なに?」
「お父さんは外食産業の会社を今度日本で作る予定なんだけど、崔さんに日本で修業させてたらしいのね。崔さんもそのつもりで日本に留学してたらしいんだけど、期が熟したっていうか……」
「ふんふん、それで」
「それで、もうすぐ会社が日本に出来るから、辞めなくちゃいけないらしいよ」
「そうなんだ……、大変だね……・」
「うん」
「でも、こっちも大変だよ。アルバイトの募集をしなくちゃ」
「そうだね」
「だけど、崔さんなら立派にやっていけるよ。だって、すごい真面目だもん」
「そうだね。頭もいいし人柄もいいし」
「うん」
「それでね、もう一つ、ビッグニュースがあるの」
「な、なに?」
「池上君も辞めるんだって」
「ええっ!? なんでっ!? なんで池上君も辞めるのっ!?」
「こ、困る?」
「当たり前でしょっ!」
「そう言うんじゃないかと思った……」
「なんで辞めるのっ! しかもいきなりっ!」
「なんでって言われてもしようがないじゃない、人の人生なんだから……」
「それはそうだけど……」
「だからね……」
「うん」
「だから……」
「だから、なにっ?」
「だから、崔さんの仕事を池上君が手伝うんだって」
「え……」
「がっくりした?」
僕はうんと無言で頷くと、がっくりしてうな垂れた。だって、彼には、お店を増やしたら店長になってもらおうと思っていたから。
「やっぱり、がっくりしたんだ……。でもね、私はなんだか嬉しかったんだ」
「なんで?」
「だって、結婚するんだもん!」
「はぁっ!? 誰がっ!?」
「崔さんと池上君……」
「……」
「一ヶ月後に結婚するんだって」
おい、どうして君は、いつも肝心なことを一番最初に言わないんだよ。もう君には、ほんとに毎回びっくりさせられるよ。でも、そうやって二人が結婚することを素直に喜んでいる君は、やっぱり素敵だと思うよ。うちの子供が、みんな間抜けだけど優しくて誠実なのは、きっと君に似てるんだろうな。
それから一ヶ月後、池上君と崔さんは本当に結婚してしまった。なんだか、幸せな気分だった。結局、恋愛なんて何がきっかけになるのか分かんないものだなと思った。「でもやっぱり、身近な人が幸せになるのは気分がいい」、僕がそう言ったら、佐都子は「でも澪のときは違うよね」と言った。
そりゃそうだけどね!




