第三話 7
それで、その晩、また佐都子と台所でその話題になったのだが、佐都子は「つまんなーい」と一言言った。つまるとかつまんないとかの問題ではないと思ったのだが、それを口にするとまた揉めそうなので、僕はその言葉をぐっと飲み込んだ。そして代わりに、この間からずっと気になってしようがなかった澪のデートのことを佐都子に訊いてみた。
「で、結局、澪は日曜日にデートをしたの?」
「あ、そうそう。あれね、すっぽかされたみたいよ」
「へー」
とか何とか言いながら、内心僕はほっとしていた。
「なんか、顔が笑ってるんだけど……」
「そりゃ、そうだよ。まだ小学五年生だよ? デートなんて早過ぎ!」
「まぁね、男親はそう思うだろうね。でもね、澪が楽しみにしてたから、なんだか可哀想だった」
「そうなんだ……。でもうちの娘をすっぽかすなんて不逞奴だな!」
「ねー、頭に来るでしょ。それでね、次の日、学校でそのことを言ったら、知らん顔されたんだって」
「ふーん。でも、まぁ、良かったんじゃないの。そんな奴と深く関わらなくて」
「そうだね」
「それでね、すっぽかされたから、その後、渋谷をぼんやり一人で歩いてたら、偶然、池上君に逢ったんだって」
「へー、あんなに人の多いところでよく出逢ったね」
「うん。それで、悟志君の代わりにデートに連れて行ってもらったって」
「はあっ?」
僕は悟志というガキの話のときより、バカでかい声でそう言ってしまった。そしたら、佐都子は僕のその様子を見て爆笑していた。あんまりずっと笑っているので、光が起きたみたいで、光まで「ぎゃーっ」と言って泣き出した。佐都子は「はいはい、今行きますよ」と言って光を抱っこして台所に戻ってくると、僕に光を渡し、ミルクを作り始めた。澪は今日は疲れているのか、爆睡しているみたいだった。ミルクをいっぱい飲んだ光は、この前と同じでご機嫌みたいで、にこにこしていた。僕は「ひかちゃん、べろべろばぁ!」と言ってあやすと、永遠に光が笑っているので、佐都子が「いい加減にしとかないと光が寝なくなるよ」と言ったので、いい加減にしておいたらすぐに寝てしまった。
「やっぱり、女の子って、男親にとったら心配でたまらないんだろうね」
「そりゃそうだよ。みんな光みたいに、赤ちゃんの頃からああやって大切に育ててるんだから」
「そうだね」
「でも、いくらなんでも池上君はないからね!」
「バカだねー」
「はー? なにがー?」
「本気でデートをしたと思ってるの?」
「い、いや、違うけど……」
「池上君、澪がしょんぼりしてたから、話を聞いてくれたみたい。買い物に付き合ってくれて、ピザ屋さんに行って、その後カフェにも行ったんだって」
「ねぇ、それって、澪が池上君を振り回してない?」
「そうかも」
「今度、彼にお礼を言っとかなくちゃな」
「うん。でもね、池上君、澪の話をすごく聞いてくれて、それで、すごく怒ってたって」
「ふーん、そうなんだ」
「池上君って、いい人だよね」
「そうだね……」
その晩の会話はそこで終わったのだった。




