第三話 6
それからしばらく経って、シフトが香苗さんと池上君と僕になっていたのだが、香苗さんは三十分後の午後五時で上がる予定だった。お客さんも丁度途切れたからなのかなんだか知らないけど、香苗さんが池上君に矢継早に質問をしていたので、僕は「なになに?」と訊いてみた。
「いえね、昨日のシフトで李君と一緒だったんだけど、李君に言われたんですよ」
「何を?」
「池上君は崔さんが本当は好きだから、香苗さんが取り持ってくれって」
「えーっ! ほんとにっ!」
「そうなの、ほんとなの。だからね、私は怖いものなしだから、崔さんにいろんなことを訊いてあげるから、何か質問したいことないか池上君に訊いてたんです。ね?」
そう言って香苗さんは池上君を見て笑った。池上君はなんだか照れ臭そうだったが、嬉しそうだった。その日はそれで終わったのだが、次の日のシフトが香苗さんと崔さんが一緒になっていたので、僕は夕方、香苗さんから話を聞くのを楽しみにしていた。
「崔さん、なんて言ってました?」
「それがねぇ、崔さん、付き合ってる人はいないんだけど、好きな人はいるんだって」
「えーっ? もしかして、前の会社で知り合った人とか?」
「うーん、そうかもしれないけど、大学のときの同級生じゃないかな」
「そうなんですか……」
「でもね、それとなく訊いてみたの。池上君なんかどうかな?って」
「うん、それで?」
「池上君はタイプじゃないって」
「……」
僕はがっくりしてため息を吐いた。
「ねー、がっくりよね。うまくいくんじゃないかと思ってたのに……」
「世の中、うまくいかないですね」
「そうですよねぇ。でもこればっかりはね、縁のものだから」
「そうですね……」
なーんだ、こっちも久しぶりに明るい話題ができて、なんだかワクワクしてたのに……。でも人を好きになるってことは強制されるものでもないし、自然発生的なものだから仕方ないよね、とは思ったのだった。




