第三話 3
ある日の夕方、シフトが僕と池上君になっていた。池上君の肩書は、副店長で、彼は月給だったし、僕の経営する会社の正社員扱いになっていた。僕も、いずれは店舗を増やしたいと考えていたし、そのときは、池上君に店長になってもらいたいと思っていた。
「池上君は、結婚とか考えていないの?」
僕がそう言うと、彼は度肝を抜かれたような表情になった。
「えっ? 何か悪いことを言った?」
「いや、そうじゃないですけど、今まで店長にそんなことを訊かれたことがなかったから、正直びっくりしました……」
「じゃあ、この話題はやめようかな……」
「や、やめなくていいです!」
慌ててそういう池上君の顔を見ていて、今度はこっちがちょっとびっくりしたが、多分彼は話題にしてほしいんだなと思った僕は話を続けた。
「付き合ってる子はいるの?」
「いないです」
「好きな人は?」
「いるにはいるけど、望み薄です」
「じゃあ、佐都子に頼んで、誰かいい人を紹介してもらおうか?」
「えっ、ほんとですか!」
池上君の顔が急に輝いた。
「奥さんは僕より年上だけど、すごくお綺麗だし、奥さんのお友達なら大歓迎です!」
僕は、家の中ですっぴんで分厚い眼鏡をかけて、女性とは思えないような恰好をしている普段の佐都子が頭の中に浮かんで、池上君の「お綺麗だし」という言葉に、ぷっと吹き出しそうになった。その顔を見て、池上君が「何か変なことを言いましたか?」と言ったけど、僕は「いや、別に言ってないよ」と言うしかなかった。確かに、佐都子はうちの従業員の前では、化粧はしてるし、いい人ではあるなと思う。この間なんか、友達にもらったお土産の温泉まんじゅうを大盤振る舞いしていたし……。
とかなんとか店が暇だったので、二人で話し込んでいたら、事務所のドアをガラッと開けて勝手に入って来た不届き者がいて、「何事っ!?」と思ってびっくりした。
「赤サイバーレンジャー参上!」
「青サイバーレンジャー参上!」
「黄サイバーレンジャー参上!」
縁日で買ったお面を付けたうちの三バカ息子の登場だった。この間の神社のお祭りで佐都子に買ってもらったお面が、子供にとってそんなにテンションを上げるものなのか、作った人はさぞ嬉しかろうなと思った。「こらーっ!」と怒鳴ると、すぐに「さらばじゃ!」と言って、去っては行ったが……。でも最近じゃ賢くなったというか、ちゃんとシフト表を見て、僕と池上くんだから、ちょっとくらいいたずらしてもいいかなと思って来たんだろうなと思う。
「ごめんね。いつも騒がしくて」
「いやー、全然いいですよ。男の子は元気な方がいいじゃないですか。店長が羨ましいですよ」
池上君は笑顔で言った。




