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東京の空の下で  作者: 早瀬 薫
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第三話 1

 うちの店には従業員が十四人いる。僕が休みのときに店長代わりになってくれる三十三歳独身池上君、店を開いたときから勤めてくれている六十歳の美津子おばちゃん、バツイチ四十歳の香苗さん、普通の主婦四十五歳の真知子さん、主婦ではあるが旦那さんを亡くしている四十八歳の玲子さん。後、中国人留学生の王君、李君、劉君、周さん、韓国人元留学生の崔さん、あと日本人の大学生、花園さん、武智さん、藤田さん。それと僕。そしておまけの佐都子。佐都子は、誰かが病気になって急に休むこともあったりするので、緊急事態要員としてストックされていた。


 飲食店を経営していると、避けて通れないのが雇用問題である。うちみたいに小さな店は特に大変であることは言うまでもない。佐都子の高校時代の同級生は、契約社員で大企業に勤めているらしいが、二百人くらい働いているフロアに、正社員はたったの八人で、残り百九十二人が契約社員か派遣社員だそうである。しかも月給ではなく、時給千三百円のアルバイト並の給料で、あれこれ天引きされて手取りで月額十六、七万円にしかならないそうである。ボーナスはあるにはあるけど、スズメの涙だだそう。

 それで、部長や課長の月給は当然、四、五十万円で、ボーナスは三ヶ月分だそうだから、正社員は子分から搾取するヤクザの総元締めみたいだと佐都子が言っていた。僕が「スズメの涙ってどれくらい?」と訊いたら佐都子は「五万円くらい」と言っていた。これ、大きな声では言えないが、一部上場の超優良企業の話である。とにかく、優良企業がこんな状態だから、うちみたいな店が大変なのは当たり前の話なのである。


 しかし、高知の田舎から東京に初めて上京してきてびっくりしたのが、スーパーのレジや深夜営業のコンビニのレジに、当たり前のように五十代くらいの働き盛りの男性が大勢就いていること。最初に深夜のコンビニで初老の男性を見たときは、この男性はオーナーなのかなと思ったが、横を見ても似たような年齢の男の人がレジに入っていたし、いくらなんでも、三つレジがあって、三人が三人とも店のオーナーであるわけがないから、雇われた人たちなんだろうなと思った。

 こういう事態は田舎では考えられないことだった。だって、田舎では、レジと言えばおばちゃんの仕事、と相場が決まっている。でも、そのくらいの年代の男性って、田舎じゃどんな仕事に就いているんだろうと考えてみたけど、全然想像がつかない。やっぱり、建設業の土方などのもっと男っぽい力仕事をやってたりするんだろうか? 

 でも、多分、これは僕の想像でしかないが、田舎ではどうにかこうにか二度目の務めでも会社勤めが出来ているんだろうなと思う。とにかく、東京は人口が多くて、職も多いけど職を求める人も多くて、住みづらいってことなんだろう。


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