第二話 11
三好さんの家には三十分ほどいさせてもらって、お暇した。なんだか、泣けて仕方がなかった。爾がいなかったら、僕は声を上げて泣いていただろう。旦那さんの言う通り、奥さんは世界一美しい女性だなと思った。
ぼんやりしながら、爾と二人で家路についているとお腹がぐうっと鳴った。よく考えたら、夕飯を食べていなかった。ケーキ一個じゃ、やっぱり足りないよな。帰ったらご飯をいっぱい食べよう。今日の夕飯は何だろう?
そんなことを考えながら、ふと脇を見ると、爾がいなかった。え?どこではぐれたんだろうと思いながら、走って通りを取って返してみたら、ポストのところに爾が突っ立っていた。爾の顔を覗き込んだら、憮然とした表情をしている。僕が物思いに耽って、爾の歩幅に合わせず、どんどん先を歩いて引き離したから、怒っているんだろうか?
「ごめん、ごめん」
そう言ったが、爾は怒ったままだった。
「そんなに怒らないでよ」
「別に! 怒ってないから!」
「怒ってるじゃん」
「お父ちゃんに怒ってるんじゃないもん!」
「え?」
爾の顔を眺めていたら、ずっと通りの向こう側を見つめたまま、目を逸らさないので、彼の視線の先に何があるんだろうと目を凝らしてみた。すると、そこに文房具屋の坂本があり、店の前に爾と同じような年頃の女の子がいた。けれども、彼女は一人ではなかった。なんだか、すごく楽しそうに、これまた爾と同じような年頃の男の子と遊んでいた。
「も、もしかして、美夕ちゃん?」
「うん」
「あの男の子は知ってる子?」
恐る恐る聞いてみた。
「うん」
「同じ組の子?」
「うん、同じ組の竜聖。あいつ、ぶっ殺す! 絶対ゆるさねぇ!」
まさかの爾がそうのたまった。
こらこら、さっき、いい話を聞いたばっかりじゃないか。人間、心が美しい人が一番美しいんだよ。人を見る目のある君の人生は安泰だと思っていたけど、その嫉妬深いところを直さないと前途多難だよ。ね、爾君。




