第二話 7
それから数日して、三好さん夫婦が店に訪れた。僕は平謝りに謝った。そしたら、三好さんの旦那さんもニコニコして「そんなに謝らなくてもいいのに」と言ってくれたし、奥さんもいつものごとく丁寧に「そうですよ。そんなに大したことじゃありませんから」と言ってくれた。この世の中にはどうしてこんなにも優しいお客様がいるのだろう? そんなことを考えていたら胸が熱くなった。
三好さん夫婦に「よろしければ、違う商品を注文されてもいいですよ。その代わり、高い商品を注文してくださいね」と僕が言ったら、三好さんは「まぁ、なんてご親切に」と言ってくれたけれど、やっぱりいつものように、特性デミグラソースビーフバーガーとフィッシュバーガーとフライドポテトの小一つとコーヒー二つを注文した。それと今回も前回と同じように、特性デミグラソースビーフバーガーとフィッシュバーガーとフライドポテトの小一つを持ち帰りで注文してくれた。コーヒーはサービスさせてくれと三好さん夫婦にお願いした。
しかし、今回も三好さん夫婦はお持ち帰りを注文したので、なんだかちょっと緊張した。今回は何が何でも絶対に持って帰ってもらえるように、最新の注意を払わなければならない。僕はバイトの花園さんと李君にこの間の事の顛末を語り、「頼むよ!」と最後に二人に気合を入れたら、二人も「はいっ!」と大きな声で同時に返事をしてくれた。
けれども、やっぱり夕方のこの時間帯は混雑する。今日も会社帰りのたくさんの人で、店の中はごった返していた。僕は主に、調理を担当していて、レジスターはバイトの子たちに担当して貰っている。だから、店の奥まった厨房で仕事をしているので、客の出入りまで気を遣うことが出来にくかった。なので、バイトの二人に注意を払うようにお願いしたわけだが、それにしても今日は金曜日だったせいで、いつもよりも店は混雑していた。しかし、どうにかこうにか魔の時間帯を三人でこなし、ほっと一息ついていた。ところが、ポテトの横の商品を温めるウォーマーにふと目が行き、愕然とした。客は店の中にほとんどいないのに、そこに袋に入った商品が置いてあるではないか!
僕は恐る恐る花園さんに聞いた。
「あのぉ、その商品はなに?」
「え?」
「袋の中を見てみて」
花園さんは慌てて中を確かめてた。
「もしかして、デミグラとフィッシュとポテト?」
「は、はい……」
「喫煙ルームに三好さんはいる?」
「い、いません……」
僕は、休憩中の李君に「悪いけど休憩を切り上げてくれる? また後で、休憩をあげるから」と声掛けをして、僕は大慌てで二階に駆け上がり、佐都子に「ご飯はいるからっ!」と一言言って、忘れものを届けに出掛けた。店を出て二、三分走って、「あーっ、また携帯忘れた」と思い出し、店の事務所に取って返して携帯をズボンのポケットに入れて、慌てて玄関を出ようとしたら、何かに、ごんっと、思いきりぶつかった。何だろうと思って見たら、そこに爾が転がっていた。
「わぁー、ごめん。痛かった?」
「うん」
「何してるの? 夜なんだから、ウロウロしないで家の中に入ってなさい」
「僕も行く!」
「?」
「火傷のおばちゃんの家に行くんでしょ?」
「うん。でも急いでるからだめ」
「いやだ! 僕も行く!」
「だめ!」と僕が言ったら、爾は大声で泣き始めた。通りを行き交う人全員がこちらを窺っている。それなのに、爾はそんなことは知ってか知らずか、大音量で「ぎゃーっ」と泣いていた。「もう、ほんとにしょうがないな……。連れて行ってあげるから、泣くんじゃない」と言ったとたん、爾は笑顔になった。




