第二話 5
爾は三男で、澪がいるから上から四番目だが、この間、光が生まれてくるまで末っ子だったせいで、輝と黎に比べてずっとおっとりしている性格をしていた。まぁ、僕と佐都子が甘やかせて育てたせいもあるのだとは思うが……。
とにかく、この子は兄弟の中で一番素直で、一番僕に懐いていた。店と家が同じ建物の中にあるせいか、僕が家に帰ったところで、家族はさして感動も何もないみたいだが、爾だけは違った。いつも「お父ちゃん、お帰りっ!」とニコニコしながら飛びついてきた。それにこの間の土曜日の昼飯にと思って、僕が家族全員のハンバーガーを作って持って上がったら、爾は「お父ちゃんのハンバーガーが世界で一番だーい好き!」と言ってすぐに美味しそうに全部たいらげてくれた。こういうことをしてくれるから父親になってよかったと爾のおかげでいつも実感している。ところがだ! 他のやつらは「え~、またハンバーガー?」とか「今日のお昼は、他所に食べに連れて行ってくれるって言ってたじゃん」とか「もっとあっさりしたものがいい!」とかお終いには「ラーメンがいい!」とか言って、佐都子と一緒にラーメン屋に行ってしまった。
残ったハンバーガーは仕方がないので、従業員の昼飯になった。まったく、僕がハンバーガーショップをやっている意味がないってことではないか! これだけ頻繁に肉を食べることが出来ているのに、彼らには感謝の気持ちが全然ないのだった。
それはさておき、僕は爾を連れて店を出た。通りに沿って南に向かって、真っ直ぐに歩いていた。
「ここを真っ直ぐでいいの?」
「うん」
「それで?」
「もうちょっと行って、ポストのところを曲がるの」
「そう」
しばらく歩いてポストに到着したので、爾に言われるままにポストを右に曲がった。
「爾、保育園は楽しい?」
「楽しいよ」
「嘘つけ! いっつも泣いてたじゃん」
「あれは最初だけ。今はもう泣いてないよ」
「そっか、えらいね」
「うん」
「仲良しの子はいるの?」
「いるよ。いっぱい!」
「ふーん、それは良かったね」
「好きな女の子はいるの?」
「いるよ」
「えっ? だれ?」
「やだ、教えない」
「えー、そんなこと言わないで教えてよ。あー、分かった。この間、参観日に保育園に行ったときに見たけど、すごい可愛い子がいたよね?」
「だれ?」
「えっと、たしか莉子ちゃん! 名前も可愛かった」
「えーっ? 大っ嫌い!」
物凄い嫌そうな顔をしながら爾が言った。
「えっ? なんで?」
「だって、すごい意地悪だよ!」
「そ、そ、そうなの……」
普段はおっとりしているのに、こういうことだけは凄いはっきり言うなと思いながら、「じゃあ、誰が好きなの?」と訊いたら「美夕ちゃん!」と元気よく即答した。
美夕ちゃんと言えば、文房具屋の坂本の娘ではないか! そりゃ、あそこの奥さんは気立てのいい人だと思うよ。でも旦那さんも奥さんもお世辞にも見栄えのいい人じゃないよねとか思い浮かべながら、「美夕ちゃんは優しいの?」と訊いたら、爾は物凄く嬉しそうに「うん! 大好き!」と答えた。爾は、若干六歳にして聡明でよく出来た人間だなと、自分の子供ながら感心した。君の人生は、きっとこの先も安泰だろう。




