第二話 3
ある日の夕方、その顔面大火傷の痕のある女性客が、いつものように旦那さんと二人でお店にやって来た。店には喫煙席があるので、大抵旦那さんは先にガラス張りの喫煙席の中へ一人で先に入ってしまい、彼女だけがカウンターで注文をする。今日の注文はいつもと同じように、特性デミグラソースビーフバーガーとフィッシュバーガーとフライドポテトの小一つとコーヒー二つ。夜のバイトの大学生の武智さんが、マイクで注文を読み上げた。僕は大急ぎで注文の品を作り始めた。常連の客は注文を受けてから作りはじめるということを知ってくれているとはいえ、ファストフードなのだから客をあまり待たせては申し訳ないからだった。それで彼女の注文は終わりだと思っていたのだが、今日はいつもと少し違っていた。彼女はいったん席に着いたものの、また舞い戻って来て言った。
「持ち帰りを注文してもいいでしょうか?」
「もちろんです。ありがとうございます。帰られる頃にちょうど出来上がるように、お作りいたしましょうか?」
「ええ、そうして下さったら嬉しいです。じゃあ、えーと、やっぱり、デミグラソースバーガーとフィッシュバーガーとポテトをお願いします。それと、さっき注文したコーヒーだけど、ミルクと砂糖はいらないですからね。だから、スプーンもいいです。洗うものが少しでも減ったほうがいいでしょうから」
「はい、お気遣いありがとうございます。出来上がりましたら、お席の方へお持ちします」
武智さんはそう言って、ポテトを冷凍庫から取り出し、重さを量って、タイマーを押し、ポテトを油の中へ投入した。そして、暫くして、ポテトに塩を振り、僕が作ったバーガー二つと、コーヒー二つをトレイにセットすると、彼女は喫煙ルームにそれらを運んだ。
いつも通りなら、一時間くらいは店にいるだろうから、もう少し時間をあけてから、持ち帰りの品を作ろうと思った。そしたら、そうこうしているうちに、急に店が混雑し始めた。でも、中国人留学生のアルバイトの周さんが休憩から帰ってきたし、ちょうど良かったと思って三人で働いていたのだが、やっとのことで、手が空いてきたので、お持ち帰りの品を作って袋詰めし、武智さんに「席まで持って行ってあげてください」と言った。その後、武智さんも喫煙席に慌てて向かったが、すぐにまた舞い戻って来た、商品を手に持ったままで……。彼女が青い顔をしているので「え? 何かあった?」と言ったら、「お客さんがいません……。帰られたみたいです……」としょんぼりして言った。当然、代金は先に済ませてあった。
ツケのきくような店で、客が顔見知りなら、そのまま、ま、いっかで済ませばいいのだろうが、うちの店は、全国チェーン店で本社はすぐ隣り町にあって、まさに御膝元状態にあった。しかもしょっちゅう本社の人間が視察にやって来ては、「うちは全国チェーンなんだから、一店舗が問題を起こしたら、すぐに全店舗の売り上げに影響するんだから、細心の注意を払ってください」と口を酸っぱくして言って帰るのが常だった。なので、こういう場合はどうするかというと、「自宅まで届ける」というのが当たり前の最善の策だった。周さんの次に休憩を取るのが僕だったので、僕が休憩時間に自宅まで届けることにした。
「あのお客さんの家って知ってる?」
武智さんと周さんに訊いてみた。二人とも「いいえ、知りません」と首を振った。




