第二話 2
一応、店のオーナーをやっているし、「お客様は神様である」というのは頭に叩き込んでいるつもりだし、ほとんどの客は大抵いい人で普通の人だったが、それでも「え? なんで?」と思うような客もいる。
例えば、トマトの厚切りが自慢のトマトバーガーの「トマトを抜いてほしい」と言う客。全然摂生する気がなく、ハンバーガー三個とチキン二本とフライドポテトの大とパフェとメロンソーダを注文して、しかも毎日のように来るのにいつも同じメニューで何の仕事をしているのかさっぱり分からない超太った男性客。かと思えば、ハンバーガー一個とサラダとウーロン茶と、これまた毎回同じ注文する健康志向の一人暮らしの行き遅れと見られるスレンダーなオフィスガールの客。そしてこの二人は大抵同じ時間帯に現れる。余計なお世話だと十分分かっているのだが、痩せてる人ほどこういう風に食に気を付けているんだってことを、この太った男性客に説教したい気分に毎回駆られる。その葛藤は、日増しに大きくなっていく。
うちはファストフード店ではあるが、グラスや陶器の食器でジュースやコーヒーを出しているのが売りなのだが、一応紙コップも用意している。紙コップは客が多すぎてグラスが足りなくなったときや客が子供連れのときなどに使用することが多い。それとジュースやシェークの大を注文されたとき。グラスのサイズは小と中だけで大がないので、当然紙コップで提供することになる。それなのに、「なんでグラスじゃないんだ!」と騒ぎまくる客もいる。グラスであることがそんなに重要なことなんだとこの客を通じて初めて知った。やっぱり、本社の言う通り、グラスにしている意義ってものはあるのだな……。
それと、一人で十時間粘って店で勉強している大学生。しかも時間が経つに連れ、友達を呼びつけてどんどん人数がふえるのに、金がないせいか全然注文しない客。ウィークディの空いてるときは別にいいんだけどね。
それと、これは余計なお世話だと思うが、最新式の極薄タブレットをいじり倒しているサラリーマンの客。タブレットを持っている人はどんな使い方をしているんだろう?、気分転換にオフィスじゃなくて外で仕事の資料作りをしているのか、それともネットやメールをしてるのかとかいろいろ気になっていたので、テーブルをダスターで拭いて周るフリをして覗きに行ったら、Windowsが発売になってからずっとサービスでついてきていたゲームソフト「ソリティア」をしていて、それを見たときは愕然とした。本当に余計なお世話だが、お願いだから別のことをして見せて欲しい、と心からそう思った。
それと、ごく普通のアベックの客もやって来る。しかし、うちに来るアベックは年齢層が高めで物静かな人たちが多い。なんでだか理由は分からないが……。
あと、大学が近いせいか普通の日本人大学生に加えて、外国人の留学生がよくやってくる。日本語で喋っているらしいが、何を話しているのか全然理解できないので、こっちが気を遣って英語で話そうとすると、それを断固拒否して日本語で話し続けようとする外国人。炭火焼チキンを「たんかやきちきん」と大声で注文する外国人。漢字が読めるということを自慢したいのか、従業員の名札を大声で全部読み上げていく外国人。
宗教的なことがあるのか牛も豚も鶏もダメだけどハンバーガーが食べたいと言い張る外国人(時間がかかりすぎるので最初から出来ればエビとか魚とかが食べたいと決まり文句を自分で決めておいてほしい)。自分が単に外国人にいつまで経っても慣れないだけなのかもしれないが、本当に変わっている外国人がやって来る。でも、この人たちよりも、もっとびっくりする客が来ることもある。
自分でへたくそな絵を黒マジックで描いたTシャツを着てくる若い男性客。テーブルの下に靴を揃えて置いて帰る男性客(どうやって帰ったか分からない)。どう見ても中年の綺麗な女性なのにちょっとした拍子に気が抜けたのか、いきなり低い声になってしまって慌てふためくお姉キャラの客。毎回、肉抜きのパンだけのハンバーガーを注文する年配の男性客。事故の怪我かなんかで両手がカチコチになって動かない男性客。寒くても薄着をして籐の買い物かごを下げて裸足でやってくる若い女性客。それと、いつも旦那さんと二人で来る顔面大火傷の痕がある中年の女性客。
いろんな客が来るけれど、実を言うと僕はこの顔面大火傷の痕の中年の女性のお客さんにすごく好感を持っていた。だって、彼女はいつも店に来るたびに、「ありがとうございます」、「ごめんなさいね」、「すみませんがお願いします」と、客なんだからそんなに丁寧に言わなくてもいいのにというくらいの気遣いの出来る人だったから。彼女と釣り合うくらいの年齢の男性といつもお店に来てくれるので、僕は彼のことを彼女の旦那さんだと勝手に決めてかかっていたのだが、旦那さんは奥さんと違って本当に綺麗な顔の人だった。勿論、奥さんは髪型も今風でお化粧もして、爪も綺麗に手入れしていたし、服装もセンスのあるものを身に着けていたが、でもやっぱり、この対照的な二人が仲良し夫婦でいつも気遣い合っているという事実が、僕としては本当に「人間、こうありたい」と思えるような光景だったのである。




