最終話 3
それから一週間後、またウィークデーに休みがあったが、生憎その日は爾の保育園の用事で佐都子は出掛けていたので、今度は光と二人で、ファストフードのライバル店の新商品のハンバーガーを食べに行った。光はもちろんハンバーガーを食べられるわけじゃなくて、持参したリンゴと蒸しパンを食べていたのだが……。しかし、光は僕達夫婦に似ているのか、食に対する執着心が強く、今回もぎゃーぎゃー言いながら、自分でリンゴを掴んで食べていたので、僕は少々辟易していたのだが、周囲の人はそれが可笑しいらしく、クスクス笑いながらこちらを見ていた。初めての子育てなら、僕も恥ずかしいと思うのだろうけど、さすがに五人目ともなると、そんなことを気にしていられるわけもなく、僕も周囲の人と一緒になって吹き出しながら、濡れたガーゼで口の周りや手を拭いたりして光の世話をしていた。
しかし、周りを見回すと、物凄く遠くの席の人までこっちに注目しているのに気付いて、次第に恥ずかしさが込み上げてきた。だから、僕も新商品のハンバーガーを口にねじ込み、それでも今回の和風仕立てのソースは酸味が効いていて玉ねぎのスライスとなかなか相性がいいなとか思いつつ、急いで飲み下して席を立った。そしてまた遠くの席の人を振り返って見たら、ある男性と目が合った。その男性も光を見てニコニコしていた。なんだか見たことがある人だなと思ったけれど、顔見知りではなかったので、そのときは別に気に留めていなかった。
それでまた一週間経って僕の休みの日になり、今度は佐都子のほうがお待ちかねだったらしく、彼女は上野のガード下にオープンした店をすでにリサーチしていて、そこに行こうと誘ってきた。もちろん僕が断るわけがなく、また三人で出掛けて行ってランチを食べた。佐都子はヒラメのムニエルランチを食べていたが、またもや僕はハンバーグランチを食べていた。
「一樹も一樹だけど、日本の洋食屋も洋食屋よね。だって、絶対メニューにハンバーグランチがあるんだもん」
「ハンバーグは人気メニューってことなんじゃないの?」
「ま、私もそうだとは思うけど」
そんな会話をしながら、光にも食べられるパンとかカボチャとかを食べさせながら、最後にまたもや持参してきたリンゴを与えて、てんやわんやのランチを終えて、支払いのレジに立っていたら、どこからともなくやって来る視線を感じたので、ぐるりと辺りを見回してみたら、すぐ近くの席に、この間、ファストフードの店でも見掛けたような気がする男性と目が合った。その人はニコニコしながら僕に目礼してくれた。僕も思わず目礼したけど、なんだか不思議な気持ちだった。見たことがあるのに、一回も喋ったことのない全然知らない人だった。知り合いじゃないんだから、別に気にする必要もないんだろうけど、その後、家に帰って、佐都子と二人で夕飯の鯖の味噌煮を作りながらも、その男性のことが気になって仕方がなかった。彼のことを思い浮かべると、なんだか懐かしいような感情が込み上げてくるのである。昔、どこかでとても親しかった人のような気がしてならなかった。もしかして、幼い頃、よく遊んでくれた近所のお兄ちゃんなんじゃないんだろうか? いや、そんなはずはない。だって、ここは高知じゃなくて東京だし、もしそうだとしても、あの人のほうが僕より年上で記憶だって確かだろうし、僕だと分かった時点で声を掛けてくれるだろうから。「久しぶりだね! 元気にしてたか?」みたいに……。それなのに、彼は僕に声を掛けることなく、ただニッコリして僕に目礼してくれただけだった。だから、訪れた店でよく出逢うものだから、彼もその偶然を面白がって挨拶してくれただけなんだろうと思う。




