最終話 1
「く、苦しい……、助けてくれ……息が出来ない……」
「大丈夫。もうすぐ苦しみは終わるから」
「もうすぐ終わる?」
「ええ」
「本当に?」
「私が取り除いてあげる」
「君が? 見ず知らずの君が?」
「見ず知らずじゃないでしょ? よく知っているはずよ!」
「そう言われれば、どこかで見た覚えが……」
「どこかで見た覚えが……って、私の顔を忘れたのっ!」
「どうして急に怒るの?」
「怒って当たり前じゃないの! どこの世界に妻に向かって『見ず知らずの君』なんて言う夫がいるのよ! これでも食らえっ!」
「はぁあああ?????」
目の前の美女は、目にも止まらぬ早さで、僕の身体のあちこちに鉄拳を食らわし、僕は衝撃と痛みで呻いた。ふと気付いて辺りを見回すと、僕の周囲に、子供が数人転がっていた。輝と黎と爾と光だった。輝と黎と爾はゲラゲラと笑い、光は何故だか大泣きしていた。
「あ~あ、急に飛び起きるから、光が泣いちゃったじゃん」
澪が、この惨状を冷静に見つめながら、僕の布団のすぐ横で仁王立ちしていた。
「お父ちゃん、すごい苦しかったんでしょ? ずっと、うんうん言ってたもん」
「うん……」
「顔の上に光が乗っかってたからね。光が泣くから、動かせなかったんだけど。でも結局、コイツらがお父ちゃんに飛び乗っちゃったし、光も起きちゃったね」
寝ぼけながら澪の言葉を聞いていたが、「お願いだから、休みの日ぐらい死ぬほどゆっくり寝かせてくれ……」と思っていた。台所では、佐都子が朝ご飯を作っているのか、味噌汁のいい匂いが立ち込めていた。佐都子は台所から僕に「何の夢を見てたのーっ?」と訊いてきたが、僕は「忘れたー」とはぐらかした。佐都子が僕に殴りかかる夢を見ていたなんて、死んでも言えるわけがない。




