第十話 9
話は、また十九年前から現在に戻る。
「それで、今うちがハンバーガーショップをやってるんだ」
澪が言った。
「そういうこと。元々澪の亡くなったお祖父ちゃんがここで洋食屋をやってたんだけど、すごい老朽化してたし、建て直そうかという話もあったんだけど、狭かったから同じ洋食屋をやるにしても儲けは期待できないだろうし、かといって高級レストランというわけにもいかないかなと思ってたんだよ。下町の駅前だから、みんなに気軽に来てもらえるカフェがいいかなと思ったりもしてた。でも、カフェはうちがやらなくても周りに結構あるしね。お父ちゃんがハンバーガー店で働いてたし、家が洋食屋だったから、私もハンバーガーが好きだったし、ピンときたのよ、調度いいじゃん!って」
「ふーん」
「それにね、お父ちゃんってやっぱりすごい優しかったんだよね。本当は自分の力で店を持ちたかったんだと思うけど、私が一人っ子だったから、気遣ってくれたんだと思うよ。うちの店をお父ちゃんが建て直したとき、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんもすごく喜んでくれてた。高知のお祖父ちゃんとお祖母ちゃんにもすごい感謝してるよ。だって、お父ちゃんが東京にいることを許してくれてるんだから」
「大人になるといろいろあるんだね。私は生まれたときからここにいるから、お父ちゃんがここにいて、ハンバーガーを作ってるのは当たり前のように思ってた」
「うん、当たり前なんかじゃないんだよ」
「そうなんだね」
「うん」
「あー、分かった! だからうちは五人兄弟なんだ! お母ちゃんが一人っ子で淋しかったからでしょ?」
「ばれたか」
「ばれるよ! 時々、滅茶苦茶うっとうしいけど、でも五人兄弟で良かったと私は思ってるよ」
澪がそう言うと、佐都子は満面の笑みになった。僕は対面キッチンのカウンター越しに二人の会話を聞きながら、温かい気持ちでいっぱいになっていた。




