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東京の空の下で  作者: 早瀬 薫
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第一話 1

この小説は沢山のフィクションと少しのノンフィクションで出来上がっています。

私にこの小説を書かせたのは、すべてこのノンフィクションのおかげです。

大都会、東京で出逢った素敵な事実を皆さんにも知って頂きたかったのです。 

 僕は、妻一人、子供五人を持つ、三十八歳の男である。東京の下町で、ハンバーガーショップを営んでいる。趣味は料理、と言いたいところだが、実際は人間観察かもしれない。とにかく、僕の店にはいろんな人間が来る。その人たちを眺めているだけで、毎日飽きない。


 僕の家族をざっと紹介すると、専門学校時代の同級生の妻が佐都子で、小学五年生の長女の澪、三年生の長男の輝、二年生の次男の黎、保育園年長組の爾、六ヶ月の次女の光の七人家族である。一人でも子供を育てるのは大変なのに、なんでうちには五人も子供がいるのだろう? 気付けば、僕はいつの間にか五人の子供の父親になっていた。



 長女の澪が生まれたとき、僕は天にも昇る気持ちで、「この世でこんなに幸せな人間はいない」と自分のことを思っていた。しかも澪は良く寝て、あまり泣かない手のかからない子で、僕はミルクを飲ませたりオムツを替えたり抱っこしたりおんぶしたりとベロベロに可愛がっていた。メロメロという言い方のほうが正しいと思うのだが、妻の佐都子が「ベロベロでしょ。だって、澪のほっぺたをベロベロ舐めてるんだもん」と言っていた。


 まぁ、それはさておき、澪が生まれたおかげで、子供ってこんなに可愛いんだと実感した僕は、澪には絶対兄弟が必要だと思いこみ、輝が二年後に誕生することとなった。初めての男の子誕生ということで、物珍しさも手伝って、これまた張り切って育児をしていたのだが、すぐに佐都子はまた子供を授かり、一年後に黎を出産した。男の子というのは女の子と違って、良く泣き良く食べ良く動き回るが、今思えばこの頃の子育てが一番大変だったかもしれない。それなのに、そのまた二年後に爾を授かり、家の中は地獄と化した。何せ、五歳、三歳、二歳、〇歳が家にいることを想像するだけで大変だと思いませんか? だって、五歳はともかく、弟が生まれたおかげで赤ちゃん返りした三歳と二歳、それと〇歳が同時にオムツを付けているのだから! 


 五歳になってお姉さん気分の澪は佐都子を手伝いたがり、オムツを替えたがった。手伝ってくれるのはいいのだが、オムツカバーの留めが甘くて弟たちはオムツの隙間からしょっちゅうお漏らしをして、知らん顔して走りまくっているし、部屋の隅には動物園みたいに異臭を放つ黒いものが転がっているし、〇歳なのに日中ちっとも眠らせてくれず、部屋の隅で座布団の上で寝かせられている爾は、オムツを替えるたびに大量のベビーパウダーを投与され、腹あたりまで真っ白にされていた。しかもそれは、時々顔にまで及び、おしろいの様に顔が真っ白ということもあった。爾は、澪にミルクを飲ませられたあかつきには、大量に吐き戻し、いくらなんでも窒息死する恐れがあるということで、澪のミルク当番は禁止になった。


 天国か地獄か分からないようなそのあり様に、佐都子は毎日呆然と過ごしていた。大変な時期だったにもかかわらず、僕は仕事をしなければならず、昼間の育児は佐都子に任せっきりだった。あまりにも凄まじい子育てだったので、彼女が気が変になるのではないかと心配し、ときどき佐都子と交代しようかと申し出たのだが、彼女は「いいから、いいから」とほとんどの育児を担当してくれていた。彼女が言うには、〇歳の爾は、姉ちゃん、兄ちゃんに、日中起こされているので、「夜中に一回も起きないので楽」なのだそうである。まったくもって佐都子は変人というか、超前向きな人である。僕は「それは良かったね……」と顔を引きつらせて佐都子の顔色を窺いながらねぎらうしかなく、とにかくひたすら、みんなが元気ですくすく育ってくれることを願っていた。


 その子供たちに踏みつけにされながら、僕は部屋の隅っこで寝る毎日だったが、それから五年経ち、よくやく子育てにも一段落ついてほっとしたと思っていたら、忘れたころにまた佐都子が妊娠した。一番喜んだのは末っ子の爾だった。いつも姉や兄に虐げられている爾は、自分の下に兄弟が出来るだけで喜んだ。それに、超音波検査で性別が女の子と分かると、僕も佐都子も一層喜んだ。うちには女の子が一人しかいなかったから。それもあるけど、子供たちは大きくなったし、しかも女の子だったらよく寝てくれるだろうし、動きもスローモーションだろうし、久しぶりの赤ちゃんは、特別可愛く思えるだろうし、良いことづくめだと思っていた。



 とまぁ、家族の紹介はこの辺にしておいて、うちの店は、佐都子の父親から譲られた古い飲食店を取り壊して建てられた。一階が店舗、二階三階が居住スペースになっている。一階が店だから、子供達が大きくなると、勝手に一階に降りて来て仕事の邪魔をするようになった。佐都子は光が六ヶ月になってしっかりしてくると、光を背負って店を手伝ってくれるようになった。


 その他、従業員は、僕が休みのときに店長代わりになってくれる三十三歳独身池上君、店を開いたときから勤めてくれている六十歳の美津子おばちゃん、バツイチ四十歳の香苗さん、普通の主婦で四十五歳の真知子さん、主婦だけど旦那さんを亡くしている四十八歳の玲子さん。後、中国人の王君、李君、劉君、周さん、韓国人の崔さん、それから日本人の大学生、花園さん、武智さん、藤田さん。


 結構いるなと思うけれど、営業時間が朝の七時から夜の十二時だから、十七時間も店を開いているわけで、しかも日中、八時間働いてくれる人は池上君と香苗さんと崔さんくらいだし、三交代制になってしまうから、このくらいの人数はどうやったって必要なのであった。もっといてもいいくらいだった。


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