「んじゃ、俺も観光しに行くかねぇ」
翌日の正午少し前にはカルスコラの白い尖塔が見え始めてきた。
街道の隣を流れる川は、数キロ先の白い防壁の中へと飲み込まれている。この川が街を左右に分断するように流れているのだ。
防壁の側にある停車場で馬車を降り、門を通ると、ベネルフィアの時と同じような手続きが待っていた。滞在許可証を受け取る為の長い列に並ぶ。そこは序数持ちであろうと変わらないようだ。
街に入る為の手続きを終えた後、俺たちは徒歩で街の中へと入って行った。役所のすぐ外が広場なのはベネルフィアと同じだ。しかし、街の景観はこざっぱりとしたモノで、ベネルフィア程の活気はない。その分、過ごしやすそうな独特な雰囲気があるね。
広場を行き交う人々には、いかにも学者然とした者もいれば、体格の良いスポーツマンタイプの者や、いかにも遊んでいそうな優男、華やかな女性など様々だ。
俺たちがキョロキョロと街の様子を眺めている間、ドゥリ教官とセブンス夫人はなにやら話し込んでいた。
「見ろ。アレが国内最大の大型図書館だ」
と、アーロンが指し示している先には街の中心部に聳える大型の白いドーム状の屋根があった。
「あらゆる知識が蓄積された場所だ」
アーロンの興奮した声にソーユーは顔をしかめた。
「ここまで来て、お勉強かよ。それより博識なお嬢さんとお茶でもしたいぜ」
今度はアーロンが顔をしかめた。
「お前みたいな教養の欠片もない男を相手にしてくれる女性がこの街にいるのか?」
2人は引き攣った表情で肩を組みあった。取っ組み合いを始めないだけの良識は持ち合わせているようだ。やれやれ。
「着いてそうそう何やってんだ、お前ら」
夫人との話を終えた教官が苦笑を浮かべながら近寄って来た。その手には人数分の水報板が握られている。教官はその水報板を各自に手渡して来た。
水報板ってのは、その造られた街の情報しか入っていない。だから、ベネルフィアの水報板はこの街で使えない。こうして新たに買わなきゃならんのだ。面倒いねぇ。
「フォース様には明日のお茶会の時にお会いする予定だ。だから今からはまず宿屋に行く。そこで昼食を取って、その後は各自自由に過ごして良い」
ただし、とドゥリ教官は喜ぶ俺たちに釘を刺した。
「くれぐれも節度を持って行動するように。セブンス様が仰った通り、お前たちはベネルフィアの代表のようなモノだからな」
俺たちの宿泊場所は、川沿いにある比較的大きな大衆向けの宿だった。一方、セブンス家の者たちは序数持ち専用の高級宿泊施設に泊まるらしい。
手続きを終え、各自荷物を部屋に運び込んだ後、宿屋一階にある広い食堂で昼飯を食った。
「そんじゃ、お出かけと行きますかね」
食後、ソーユーとジューンが真っ先に席を立った。
「おい、羽目を外しすぎないようにな」
教官のしつこい程の忠告にソーユーは大義そうに手を振った。
「わかってますって!」
そして俺の方を顔を向ける。
「アルゴン、お前も一緒に行くか?」
と、ソーユーが誘って来たが俺は断った。ヤツは肩を竦めると、ジューンと共に外へと出て行った。
「俺も行くかな」
と、アーロンが立ち上がった。
「図書館にも行きたいし、他にも見学したいモノがたくさんあるからな」
背筋をピンと伸ばして出て行った。
「ジーンちゃんはどうするの?」
と、彼女に尋ねると、
「あたしもちょっと寄りたい所があるから。また後でね」
そう言って出て行った。
「お前はどうするよ?」
と、残ったルシアンに顔を向けるとヤツは何やら神妙な面持ちだ。
「俺も……色々と見て回るよ」
いつものヤツらしくない。
思うに、この街は亡くなった両親が暮らしていた所だからな、その痕跡ってのを見て回るつもりなのだろう。こういう場合は独りの方が良かろうさ。
「んじゃ、俺も観光しに行くかねぇ」
俺も席を立った。
「まったく。お前らはまとまりがないというか、なんと言うか……」
教官が苦笑混じりに言った。
俺は肩を竦める。
「まぁ、これぐらい緩い方が居心地は良いですけどね」
「そんなもんかねぇ」
「教官はどうするんですか?」
「俺か? 俺は、ここでノンビリしているよ」
あんたも中々なマイペースじゃないか、という言葉は面倒だったので飲み込んで、宿屋の外へと出た。
観光もしたいところだが、それよりもジーンキララのケツを追っかける……失礼、彼女を尾行する事に決めた。
寄りたい所ってのが何処なのかハッキリさせようじゃないか。
今は彼女に関する情報は何でも集めて置きたいからな。
ってことで、あの目立つ白金色の髪を追いかけた。
だけどこの街は人通りは少なく、通りも直線ばかりなので、尾行するのには都合が悪い。バレないように、討論(栄養素と奴力値の関係、流体と奴力の親和性、体内源数の減少量について、などなど)を交わす人々の群に混じったりした。
彼女がT字路を右に折れた所で、俺も後を追って曲がってみると、彼女の姿はどこにもなかった。
ちと焦って周りを見回していると背後から、
「あれー、偶然だねアルゴン」
振り返れば、微笑を浮かべたジーンキララが立っていた。
何で背後に回りこまれたんだ、っていう疑問よりもどう言い訳しようかと考えた。
「もしかして、あたしのことを尾行してたの?」
「ほげぇ?そんな訳ないじゃないか、やだなぁ。俺はただ、学生連中と激論を交わし回っていただけだよ。今んとこ2勝1敗、悪くないね、うん」
彼女はジト目で俺に迫る。
「にしても、ピンポイントであたしの後ばかり追っているみたいだったけど?」
「いやぁ、そんなことは……」
言い訳しようとする俺の口元に彼女は指を当てた。
「プライベートな用事があるから、ついて来ちゃダーメ。デートなら、後でいくらでも付き合うからね」
そう言って彼女は足取り軽く去って行った。
さすがの俺も、これ以上の尾行は諦める事にした。
あぁ、どうしよう。
勝手も分からない街に独りぼっちだ。
とりあえず、国内最大の図書館に行ってみようかね。




