「正直に言うと、俺も楽しみなんだよね」
セブンス氏からの【カルスコラ】行きを指示されてから2日後。
俺とルシアンはそれぞれ大き目のリュックサックを背負ってグウィン家の戸口から出た。
「2人とも、気を付けるんだよ」
戸口にはルミばあさんとクリス、そしてわざわざ見送りに来てくれたダルグレンが立っていた。
わざわざ見送りに来てくれなくても良かったのにな。今回の旅行は往復合わせて1週間半で帰ってこれるわけだし。
「でも、フォース様に改めて挨拶しに行くんでしょ? 結構、重要な旅じゃないか」
とダルは言う。
そんなもんかねぇ。
あぁ、そういや、大学の先輩も志望企業に顔を覚えてもらう為に色々とやってたなぁ。今回のコレも似たようなモノかも。採用試験の前から競争は始まってるってヤツ。
俺は既にンパ様という強大な邪神様の下に就職しているようなモンだからな。焦りなんてコレぽっちも感じない。だが、隣のアンルチくんは、
「そうだよな……頑張らないと」
えらく気負っているのだ。試験はまだ先だってのによ。
「ほんと、気を付けてね?」
と言うクリスソフィアの言葉にも、
「あぁ」
と、心ここに在らずな返しよ。困ったヤツだ。
俺はルシアンの背中をリュックごと思い切り叩いてやった。
「うッ! って、何すんだよアル!」
うっせ、こっちも地味に痛かったわ。こいつリュックに何入れてんだよ。
「てめぇ、アンルチよ。せっかく美少女が見送りしてくれてるってのに何だそのブスッとした面は? それじゃ、ますます心配掛けるだけだぜ。ママはそんな子に育てた覚えはありませんザマス!」
「あっ……」
ルシアンはハッとしてクリスに向き直った。
「すまん、クリス。俺……」
「いいよ、わかってる。ルシアンなら大丈夫だよ!」
2人は頷き合い、笑顔を浮かべた。
「――って、おいアル! いつからお前が俺の母親になったんだよ!」
「あーうっさい、うっさい! 細けぇ事は気にすんな」
「気にすんなって、お前なぁ――」
「もう! 2人とも早く行かないと遅刻しちゃうよ!」
と、まぁ、和やかな雰囲気でグウィン家を後にする事ができたのだった。
◆
俺たちは街の外に出た。
乗車場には何台かの巨大馬車が停車しており、人々が慌ただしく乗り降りしていた。
「あれじゃねぇか?」
ルシアンがある1台の馬車を指し示した。
その馬車は他のモノよりも1階分背が低い、が、明らかに上等な造りだとわかる。
馬車は停車場の一番端に停車しており、その付近にドゥリ教官やダーツ教官、そして他の訓練生たちが立っていた。
「よーし、これで揃ったな!」
俺たちが来たのを確認すると、ドゥリ教官は満足げに唸った。
誰も遅刻しなくてホッとしたらしい。
「今回の旅には、セブンス家の護衛として南方街道伐士隊が同行する事になってんだ」
教官は馬車の方を顎で示した。
この馬車は1、2階部分が荷物積み込み用になっているようだ。茶色のジャケットを着た伐士たちが荷物を運び込んでいた。
「うぉ! 銀ゴーレムじゃん!初めて見た!」
と、ソーユーが興奮した面持ちで捲し立てた。
見れば、全身銀色の背の高いゴーレムが2体、積み込み場に入って行くところだった。
銀ゴーレムってのは、言葉通り銀を使って創られたゴーレムだ。
前にも言ったような気がするけど、金や銀、銅ってのは奴力を通しやすい金属なんだよ。
その奴力を通しやすい金属で創られたゴーレムは、他のゴーレムよりも丈夫だし高性能なんだぜ(海坊主みたいな特別なヤツは例外だけど)。
銅ゴーレムは並の伐士程度、銀ゴーレムは伐士5人分、金ゴーレムは伐士10人分の強さに匹敵するらしい。
まぁ、貴重な金属だから、そう多くは創られないってのが欠点なんだけどね。
「ホントだ。すっげぇ」
ルシアンも驚いている。
「街道伐士隊から借り受けたのさ。近頃、街道も物騒だからな。万が一って事だよ」
と教官は言う。
物騒ってのは、序数狩りの事を言っているのだろうか?
序数狩りを行っているのは、アーリルフ将軍の部下だ。ヤツらは好き勝手に暴れ回っているのだ。
シャーナたちに今回の旅の事を報告したら、彼女たちもその事を心配していた。
『なんだって序数持ちと一緒なのよ!』
「いや、そのエヴァ様が……」
『エヴァ、様ぁ?』
「あ、いや、そのセブンス嬢のお茶会ついでに俺たちもついて行くわけだからね」
『あっそ!……とにかく、もし連中と戦う事になったら、敵と判断していいから。迷わず殺して。いい?』
といった感じさね。
「みんな、そんなに銀ゴーレムが珍しいの?」
考えに耽っていた俺の耳にジーンキララの不思議そうな声が聞こえた。
「そりゃ、王都にいたジーンは見慣れているだろうさ。俺たちは今まで見た事なかったんだぜ?」
ソーユーの言う事にジーンキララは肩を竦めて俺の方を向いた。
「アルゴンのいた街には銀ゴーレムはいた?」
「いや、いなかったよ」
「じゃあ、アルゴンも初めて見たの?」
「まぁ、そうだね」
「その割にはあんまり驚いてないね? 興味ないの?」
質問責めじゃないか。
「うん、俺はジーンちゃんみたいなかわいい娘を眺めている方がいいからね!」
「まぁ、嬉しい!」
「おいおい、気の抜けるような事を言うのは勘弁してくれ。これからフォース伐士団長に挨拶しに行くというのに」
アーロンがヤレヤレと頭を振る。
「ほら、お前ら、セブンス様たちがいらっしゃったぞ」
ドゥリ教官の言う通り、街の門からセブンス一家と使用人たちがやって来た。
ラムフェザーとエヴァ、それともう1人高貴な婦人が一緒だ。
それがエヴァの母親であるセブンス夫人だった。豊かな金髪にスラリとした肢体。うん、文句なく美人だ。エヴァシェリンも将来はこんな美人に成長するのだろうね。
「諸君、私はここでの見送りだけで失礼させてもらうよ」
とセブンス氏は馬車を見上げながら言った。
「復興作業で忙しいのでね。今は息子のホズマに任せてはいるが、アレだけじゃまだ頼りないのだよ」
そう言うセブンス氏の顔は満足げだ。言葉とは裏腹に息子への期待感は相当のようだ。
ふとエヴァの方を見れば、その顔が少し翳ったように見えたのだが、はて、気のせいかな?
「今回の旅には前にも言った通り娘と、そして妻も一緒に同行するよ。仲良くしてやってくれ」
エヴァとセブンス夫人は軽く会釈する。
コチラらも不器用に頭を下げた。
「さぁ、出発の時だ。いいかね?君たちはこのベネルフィアの代表だ。その一挙手一投足でこの街自体の格を判断されるのだ。その事は忘れないでくれよ」
セブンス氏は軽くウィンクするように言っているが、その裏にめちゃくちゃプレッシャーを掛けている事はどんな鈍感なヤツでも気付いただろう。
「良き旅を、ヲイド共にあれ!」
セブンス氏は軽く手を振って街に戻って行った。
「では、私もそろそろ失礼する」
とダーツ教官。
「え? 教官は来られないのですか?」
とルシアンが首を傾げた。
「あぁ、お前たちの世話はドゥリ教官に任せている。養成所の建て直しなど、する事は山のようにあるのだからな」
ダーツ教官は不意に真剣な表情をドゥリ教官に向けた。
「ドルネイ、彼らをよろしく頼む」
「あぁ、もちろんさ、ギュロッセ」
ドゥリ教官の顔も真剣だ。
俺たちはその妙な真剣さに困惑していたが、それは短いモノだった。
「さっ! 俺たちも乗り込むぞ!」
既にセブンスたちは乗り込んでいた。
後は俺たちが乗り込むだけだ。
「なんかドキドキしてきたぜ」
ルシアンの言葉に頷く。
正直に言うと、俺も楽しみなんだよね。




