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「……注意力が足らんねぇ、バーンズ君よ?」

 サイラス・セブンスに"おつかい"を頼んでから2日後の夜。

 俺は約束通り彼に連絡を取った。一応、ヤツを監視していたから、ちゃんと伐士隊本部に入ったところまでは確認した。出てきた時の狼狽振りから、ヤツはちゃんと情報を手に入れてくれたと思う。


「やぁ、セブンスさん。約束の期日と成りましたよ。お願いしたモノは手に入れて下さいましたか?」


 水報板からサイラスの陰気な声が響く。


『……あぁ』


 そんな露骨に嫌な声を出されたら、おいたん傷つくわい。ウソだけど。


「流石ですよサイラスさん! やはりあなたはセブンスだ!」

『茶化すな。さっさと次の指示をしろ!』


 イラついているねえ。

 まぁ、どこの誰とも知れんヤツの言われるがままってのが我慢ならんのでしょう。プライドの塊みたいなヤツだからなぁ。


「おー怖ッ。わかりましたよ。では、受け渡しは明日の朝8時に小ベネルにある喫茶店【フィランソン】の屋外席に来てください。そこで作戦書の中身も少し確認させてもらいますね。あぁ、別にあなた様を疑っているわけではないのですよ?」


 サイラスの無愛想な『わかった』を聞き終えると同時に通話を切った。


 今のところ、サイラスは俺の指示を素直に聞いてくれている。だが、次の受け渡しはそう簡単に行くまい。

 必ずデズモンドとその手下を使って俺を捕まえようとするはずだ。


 その事も含めて、受け渡し場所は人気の多い喫茶店を選んだ。

 と言っても、さっき指示した場所は嘘でね。明日の朝ギリギリの時間に受け渡し場所は変更するつもりなんだ。


 本当の受け渡し場所は小ベネルにある喫茶店【舟のお昼寝】。

 ここの屋外席は近くに水路が通っていて、まるで船上にいるような気分になる。オススメのメニューは魚のフライを挟んだヲリアルサンドなんだ(ちなみに衣もヲリアルでできている)。これがもう……って、横道に逸れてしまったね。


 重要なのは、この屋外席の周りを取り囲む建物群だ。

 どの建物の屋根からでもハッキリと屋外席を見渡せ、下からは見つかる事はない。監視するのにうってつけだ。


 まぁ、その辺はデズモンドたちも気づくだろうからね。絶対にヤツらも屋根に上がってくる。そこも考慮して罠を張るのだ。

 この作戦は、デズモンドを確実に戦闘不能にする事が大切だからね。


 さて、朝までに準備する事は多いぞ。

 あらかじめ創っておいたゴーレムたちを配置しなきゃだし。他にも色々と準備しなければな。


 夜明け前。

 偽の受け渡し場所を監視していると、デズモンドとその手下たちがコソコソとやって来た。その手下の中には、俺と背格好が似た男もいた。

 彼らはデズモンドの指示で喫茶店の周囲を念入りに見回り始めた。

 なるほど、こんな動きをするわけだな。


 よーし、これでヤツらの動きを予測できる。

 では、あと1つだけ残った準備をしなければな……。


 ◆


 早朝、受け渡し場所の変更を10分前に伝えてあげたら、めちゃくちゃ怒鳴られちった。テヘッ!

 まぁ、立場は俺の方が上なのだから、サイラスは従うしかないのだけどね。


 さて、そろそろサイラスがやって来る時間だ。

 俺は屋外席を見下ろせる建物の屋根に上がっている……というのは嘘だ。


 そこにはフードを被せたゴーレムを配置しておいた。

 本当の俺はその建物の後方から狙い澄ましているのだ。もし、デズモンドやその手下がやって来た場合は、ここから仕留める事ができるって寸法だ。だけど……


「あらかじめゴーレムを配置しておいたようだが、この程度の小細工で私を騙せると思っていたのか?」


 勝ち誇ったデズモンドの声。

 裏の裏を読まれていたみたい……。


 デズモンドは部下の1人を背後に従えてこの建物の屋根に上がって来ていた。

 ヤツから見れば、俺は屋根の上に身を伏せた間抜けなフード男って感じだろうか?


「おっと、動くなよ? まずはそのふざけた面を拝見しようじゃないか!」


 ヤツの手がフードを握る。

 俺はその様子を()()から見守っていた。


「さぁ、愚か者よ! 今更悔い改めても手遅れ……なっ!?」


 フードを引き剥がしたデズモンドは、驚愕でその身を固める。


「こ、こっちもゴーレムだとッ!?」


 その通り。

 ヤツの足下にいるのは俺ではなくゴーレムだ。本当の俺は夜明け前からずっとデズモンドの側にいた。そして今もその背後にいる。


 俺はヤツの狼狽えている背中に雷銃を押し当てた。

 ハッと息を呑むデズモンド。

 ヤツがコッチを振り返る前にその引き金を引く。ゼロ距離なら外しようがねぇからな。


「ガッ!!」


 デズモンドは短い呻きを上げ、その場に倒れ伏した。


「敵は背後に在りだ。注意力が足らんねぇ、バーンズ君よ?」


 そう言う俺の顔はデズモンドの手下の1人、あの背格好が俺と同じくらいのヤツのモノになっている。

 昨日の夜明け前、偽の受け渡し場所をヤツらが調べている時にすり替わっておいたのさ。本物の手下は今頃路地裏でグッスリとお寝んねさね。


 いやぁ、拍子抜けする程上手くいったな!

 以前の精神世界の戦いで、デズモンドに正面から戦いを挑んでも無駄だと知っていた。だから、ヤツを倒す場合には懐に潜り込んで不意打ちしようと決めていたのよん。


 さてさて、頭を失った訳だから、残る雑魚の手下どもは簡単に片付けられるだろう。だが、殺しはしない。だってサイラス・セブンス氏とは今後もお付き合いをして行くつもりだからねぇ。


「デズモンドを所定の位置に運べ。俺が合図したらヤツを屋外席に放り投げるんだぞ」


 身代わりゴーレム君に指示を与え、俺は残りの手下どもを狩りに行った。



 約5分後。

 俺は屋根の上から屋外席を見下ろしていた。

 そこにはサイラスが不安げに辺りを見回している。


 よし、じゃあ話を着けようかな。

 水報板を取り出し起動する。


「あっ、サイラスさんですか?すみません、邪魔が入ってしまって遅くなりました。……あれあれー? サイラスさん、声が震えておりますよぉ? 何かありましたかぁ?」












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