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「沈んだり、登ったり、落ちたり……勘弁してちょうだいよ!」

 噛み砕かれた海坊主の黒い手が、まるで北極の氷山のように海中へと沈んでいく。

 しかし、当の海坊主はまったく気にも留めず、もう一方の腕で殴り掛かった。その無機質な意思は、完全に破壊されるまで止まる事はないのだろう。


 その巨人の姿勢に鼓舞されたのか、戦艦ユグベリタスと中央広場の援護攻撃はますます激しさを増していった。


「うっひゃー! たまんねぇな、こりゃ」


 灼岩石の熱気によって湾内はさらに温度が高くなる。

 ま、おかげで魚人たちは襲ってくるのを躊躇っているのだけど。


 さーて、どうすっかな。

 小ベネルからは離れすぎちまったし。

 だからっていつまでもプカプカ浮いてたら、あの2体の巻き添えにされちまうぜ。

 いっそ、このまま大ベネルまで泳いで行こうかな?


 と、思案していると、海底からズゥーンと重低音が響いてきた。

 下を見れば、水龍の尾が海面に向けて急上昇してきていた。

 こうして見れば、海上に出ている部分なぞほんの一部分でしかなかったのだ。湾の海底には水龍の体がとぐろを巻いており、今、尻尾の部分を海上にせり出したってわけだ。


 激しい水しぶきを上げながら水龍の尾はまるで巨大な塔のように上空に立ち上がった。

 荒れ狂う波によって俺の体は揉みくちゃにされる。海水も大量に飲み込んじまった。

 もし、小さくなって洗濯機の中に入り込んだらこんな感じなんだろうなと思いながら、俺は必死に海面に浮き続ける。


 水龍は、海坊主に噛みつきつつもせり出した尾っぽをゆっくりと振り落す。


 塔の崩壊。


 その先には戦艦ユグベリタスがいる。

 艦内の伐士たちも気づいてはいるだろうが、何ができよう?

 せいぜい海に飛び込むくらいだろう。


 水龍の尾はいとも簡単にユグベリタスを叩き潰した。

 ヤツはいつでも戦艦など破壊する事ができたんだ。

 マジ、今までの攻防は何だったんだよ。


 戦艦は水龍が尾をどかすと同時に爆発した。

 ハリウッド映画並みの爆発だ。艦の破片が俺の方にまで飛んで来やがる。

 魔手羅で防ぎつつ顔を上げると、艦上を燃え盛らせながらユグベリタスが沈んでいった。


 呆気に取られながらその光景を眺めていると、背後から何かが迫る気配。

 振り向けば、背びれだけを覗かせた何かが俺に向かって近づいて来る。


 うん、映画とかで良く見るね。

 サメさんだよね、コレ。


 敵はその大きな口を広げて俺に突進して来た。


「うわわわわわ!」


 ギザギザの鋭い牙が俺の肉を食い千切ろうと迫る。

 俺は魔手羅で間一髪その口を抑え込んだ。


 凶悪な光を帯びた目が俺を睨み据えている。

 その体躯は今まで見た魚人の中でも一番大きい。

 ってか、辛うじて人型の部分もあるというだけで、その見た目のほとんどはサメだ。


 サメ型魚人は魔手羅で口を抑えられている事によっぽど腹が立ったらしい。

 その怪力で俺を海中へと押し沈めていく。


 魔鬼理を使おうにも、ヤツの口を抑え込むだけでも精一杯だ。

 その間も下へと沈み込められて、


 ガツン!!


 と、背中を何か固いモノに打ちつけた。

 見ればそれは船の甲板の一部ではないか。

 って事は、これは戦艦ユグベリタスの残骸だ。


 艦の残骸の上で、サメ型魚人は俺に喰らい突こうときつく体を押し付けて来る。

 俺は両足に力を込めて思い切りヤツの下腹部を蹴り上げてやった。

 軽く呻きを上げるサメ野郎。当然その隙は逃さない。

 魔手羅の片方をヤツの口から引き離し、


≪弐槍閃突≫!!


 魔手羅槍をヤツに突き刺そうとしたのだが、腕で受け止められる。

 サメ野郎はより力を込めて噛みつこうとしてくるが、俺も負けずに押しとどめる。

 沈みゆく船の上で俺たちの力は拮抗していた。


 ふと俺の前方、サメ野郎の後方を見ると、何か巨大な塊が俺たちの方に向けて迫っていた。

 それが近づくにつれ、爆音が轟く。


 何十メートルと近づいた時、ソレが水龍の胴体だと気付いた。

 サメ野郎もソレに気付いたようだ。驚愕の表情を浮かべている。

 そして、


 激しい衝撃と共に俺はその固い鱗にへばりついていた。

 サメ野郎がどうなったのかは知らん。それどころじゃない。

 俺は必死に水龍の胴にしがみ付いていた。

 ソレはどんどん海面へと浮上していき、まるで豪雨のような水飛沫を上げながら海上へと抜け出た。


 新鮮な空気が肺を満たしていく。

 何かこういうのって危険なんだっけ? 気圧とか水圧がどうとかで。

 でも、俺は何ともない。魔人の体様様だよ。


 しがみ付いている胴の先、約100メートル先の頭の方を見れば、水龍は海坊主の体に蛇のように巻き付いていた。

 どんどん締め付けているようだ。海坊主は身動きも取れないらしい。そろそろ決着がつきそうだな。


 と、俺が横たわっている水龍の胴体に向かって例の背びれが近づいて来ている。あのサメ野郎だ。死んでなかったか。てか、しつけぇなぁ。


 ヤツは飛び上がり、その大きな口を開けて俺の頭を噛み千切ろうとしている。

 その口に向けて俺は魔手羅を構えた。


蒸気砲スチーム・ガン≫!!


 爆発音と共に、サメ野郎の頭が吹き飛ぶ。

 肉片が辺りに飛び散り、嫌な臭いが鼻をつく。

 まぁ、確実に仕留めた。

 魔奴ウ蒸気の力を舐めんなよ、ディープ・ブルー。


 一先ずの脅威が去った。

 俺は仰向けになって両手足を投げ出した。

 サメ型との戦いで結構体力を奪われた。

 ツルツルとしている水龍の鱗は綺麗な蒼色。まるで宝石みたい。1枚引き剥がして売れないかなぁ、なんて。


 そんな恐れ多い事を考えていると、水龍の胴体が急に震えだした。

 と、同時に勢いよく上空へと立ち上がる。


「うわわわわわ!」


 先程と同じように必死に胴体にしがみ付く。

 高さ約100メートルの付近まで持ち上げられている。

 潮風が吹きつけて来てちょっと肌寒い。先ほどまでの熱気が嘘のようだぜ。


 この位置からだと、街の様子が幅広く見渡せた。

 小さな点があちらこちらで動き回っているのが見える。

 人間と魚人の攻防が続けられているのだろう。

 

 そして俺の真正面。

 その先には海坊主に巻き付いている水龍の姿。

 ヤツは鱗は逆立たせ、小刻みに震え始めた。

 魔鬼理を使うつもりだ。

 あの一撃を喰らえば、海坊主も終わりだろう。しかし、逃げる事も反撃する事もできない。微かに身もだえするだけだ。

 決着は既に着いていると言っていい。


 水龍は悠然とその口を海坊主に向ける。

 俺がしがみ付いている胴体にも力強い何かが駆け廻っているのが感じられた。

 そして、水龍が口を大きく開けると、例の激流が放たれた。


 至近距離から放たれたソレは海坊主の体を容赦なく砕け散らした。

 呆気なく崩壊する海坊主。

 その黒い体の破片は海中に吸い込まれるようにして沈み込んでいく。


 水龍は、例の深い咆哮を街全体に轟かせた。

 いまや、中央広場の迎撃さえ機能していない。

 圧倒的な力の差に呆然としているのだろうか?


 すると突然、ガクンと落ちていく感覚。

 胴体が再び海中目指して落ちていくではないか!


 もう!

 沈んだり、登ったり、落ちたり……勘弁してちょうだいよ!


 激しい水しぶきの衝撃音。

 気が付けば、俺は何度も跳ねながら吹っ飛ばされていた。


「ばっ! びっ! ぶっ! ぼっ!」


 背中を固い何かぶつけて止まる俺。

 プカプカと海を漂いながらソレを見れば、なんと船着き場ではないか!


 つまりは当初の目的地である大ベネルにたどり着いたわけだ。


 なんとご都合な……いや、なんと運が良いのだろう!


 でも、もう体がボロボロです……。



 




 


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