「死にたい奴からかかって来い! だ」
伐士隊のゴーレムたちは唯一つの目的の為に動き続ける。
街に害を成す"異物"を抹殺する事がその目的だ。
「ギョアアアア!!」
今回その異物は魚人ってわけ。
ヤツらは次々と水路から飛び出して来る。
だが、ゴーレムたちは臆する事なく標的に向けて歩を進める。
ゴーレムの石の拳は魚人の骨を砕き、その無慈悲なまでの怪力はヤツらの四肢を引き裂いた。
「ギョア!」
魚人も負けじと水の刃で攻撃する。
その強力な魔鬼理はゴーレムの石で出来た手足、頭を切断した。だが、ゴーレムは頭が吹き飛ぼうが構わず標的に向けて進み続ける。
そして、魚人を力強く抱きしめる。その羨ましくもない抱擁は魚人の全身の骨を砕け散らした。また、正確無比な拳の連打で顔がグチャグチャになっている魚人もいる。
まったく、ゴーレムが味方で良かったぜ。でも、いずれは対峙する事が確実な相手なんだよね。
ま、魚人どもと違って俺もゴーレムを創り出せるしぃ、それにあのインスマンス顔とは顔面偏差値が月とスッポンだしぃ。あ、言うまでもないが、俺が月。アルテミスの月ね。
などと考えている間にも、全力フルスイングで魚人が吹っ飛ばされてらぁ。ひえぇ。
――っと、冷静に実況している場合じゃねえわな。けど、そろそろ彼らが来るはずだ。
「あぁ、助かったッ! 伐士隊が来たぞ!!」
噴水の縁に立つ男が安堵の声を上げる。
彼が示す先、建物の間を縫うようにして伐士たちが広場にやって来た。
おそらく風奴ウを使っているのだろう。
彼らはいつぞやの伐士同様ホバークラフトのように滑空している。
「見ろ! ドゥリ教官たちもいるぞ!」
ルシアンが声を上げる。
本当だ。ドゥリ教官だけでなく、ダーツ教官、それにアル中のトマス・トルクベインもいるじゃねぇか。ちゃんと仕事してんだな。
でも、全部で20人もいないぞ。それだけ水龍の方に戦力を割いているのだろうか?
伐士たちは水路側にいる魚人たちに向けて腰の雷銃を放つ。
何本もの銅線が魚人に突き刺さる。
電撃により痙攣しながら倒れ伏す。その上を伐士たちが滑空してきた。
「みなさん、我々の後について来て下さい!」
「怪我人の方々は我々にお任せ下さい!」
伐士たちの指示が飛ぶ。
その間もゴーレムたちは魚人たちに対する動く防壁となってくれている。
「ここにいたか! クリプトン、グウィン!」
ドゥリ教官が俺たちの元にやって来る。彼は背中に布製のバックパックを背負っていた。
「そっちにはローリングとシャンがいるな。ほら、コレを着けとけ!」
教官は背負っているバックパックを石畳に降ろすと、中から伐士帯を取り出した。
「教官、いったいどうなっているんですか?」
伐士帯を装着しながら俺は尋ねた。
「あぁ、水龍のヤツが突然水門を破壊して湾内に入って来たんだよ。その後すぐにおびただしい数の魚人どもが侵入して来やがった。まるで待ち構えていたようなタイミングだよな」
教官はダルを向いて苦笑する。
「すまんな、シャン。ついこの間お前に、水龍がこの街を襲う事はないと言ったばかりだってのに……」
いや、普通なら教官の言う通り、水龍がこの街を襲う事はないはずだ。だが、今はこの街に水龍の卵が運び込まれているのだ。これが原因と考えて間違いないと思う。
「伐士隊はどうやってあの化け物と戦うつもりなんですか?」
と、ルシアンが尋ねる。それは俺も気になっていた。
「ユグベリタスを動かしている」
ユグベリタスってのは大ベネルにある戦艦の名前だ。伝承でこの街を救ったとされる尤者の名から取られている。
「だが、それだけじゃ足りねぇだろうな。だから――」
ドゥリの声は他の伐士の声によってかき消された。
「みなさん! これから安全な道を確保します。先頭を私ども行きますので、その後をついて来て下さい!!」
その伐士の足元には数人の伐士たちがしゃがみこんでいた。石畳に奴力を流し込んでいるようだ。
地響きを立てながら2つの壁が数十メートル先までせり上がってきた。
これは土奴ウ《覇威土・壁》だ。森の戦いではこれに手こずったもんだ。
2つの壁の間には人が余裕で通る事が出来る間隔が空けられている。
さらに別の伐士たちがもう1つ道を創りだした。これ以上の道は、伐士の人数的に厳しいようだ。
「ここから広場を脱出しましょう! さぁ、ついて来て下さい!!」
伐士はそう指示すると、壁の間を走り抜けていく。
その後を次々と人々が駆け出していく。脱出が決行されたのだ。
「さぁ、貴様らも行け」
ダーツ教官が俺たちの前に立つ。
その黒豹を思わせる姿は、こういう場だと頼もしく思える。
「教官、俺たちだって戦えます」
と、なぜか言ってしまった俺。
いや、早く大ベネルに向かうべきだってのにね。
「ダメだ。貴様らは訓練生なのだぞ? 教官として、未熟な貴様らを実践に参加させるわけには――」
「いいじゃないか、ダーツ。今は人員が不足しているのだ」
伐士の1人が割り込んでくる。
「しかしッ!」
そんな彼を、ダーツ教官は抗議するように睨みつけている。
「ドゥリ教官、他の伐士の方たちは水龍と応戦しているのですか?」
と、俺は小声で問い掛けた。
「あぁ、それもさっき言おうとしていたんだがな。ここ以外の救助作業にも割いているし、何より"海坊主"の起動に大量の人員を割いている現状だ」
「シーゴーレム?」
「あぁ。お前たちも知っているだろう? ベネルフィアの守護者の事だよ」
「「えぇ!?」」
俺とルシアンの声が重なる。
「あれってただの噂話かと思ってました」
「だろうな。だけど本当に実在する。ただ、莫大な量の奴力が必要だからな。伐士以外の者にも協力してもらっているし、セブンス様の力もおかし頂いている」
って事は、夜海の伝承も本当の事だったのかな? まぁ、現在進行形で似たような状況になってきているけど……。
「とにかく! 力ある者には戦ってもらうぞ!」
「だが教官として、未来ある彼らの命を守る事も私の義務だ」
なんだ。ダーツ教官と伐士はまだやっていたのか。
にしても意外だ。冷たい印象の教官が、こんなに熱くなるなんて。
「ふん! "味方殺しのダーツ"の罪滅ぼしってわけか、え?」
「――ッ!?」
なんだ、なんだ? 味方殺し?
穏やかじゃねぇな。
「まぁ、まぁ、落ち着け、ギュロッセ。少なくともローリングとクリプトンは実力的には問題あるまい。事が事なんだから」
ドゥリ教官がダーツ教官の肩に手を置く。
「だが、ドルネイ――」
ダーツ教官がさらに反論しようとした時、背後から魚人たちの声が一際騒がしくなる。
「あっちのゴーレムはもう限界だ!」
見れば、ほぼ崩れかけたゴーレムたちを飛び越えて魚人たちがこちらに向かってきている。
すかさず3人の伐士がその一群に向かって土奴ウ≪覇威土≫を放つ。
一時的な石の障害物が形成され、魚人たちを押しとどめる。
魚人たちはなおも増えている。もう限界だろう。
避難の方はやっと半分といったところだ。
「悪いな、お前ら。避難が完了するまで時間を稼がにゃならん」
と、ドゥリ教官が申し訳なさそうに言う。
「いえ、大丈夫っす。ね、ジーンちゃん?」
「えぇ、まだまだ暴れたりなかったもの」
ジーンキララが前に出てきながら相槌を打つ。
太腿を露わにしたドレスに伐士帯という何ともアンバランスさ(俺も燕尾服なんだけど)は何と言うのだろう? ハリウッド映画の戦うヒロイン的な? とにかくエロかっこいい。
「あー、ローリング……。その恰好はどうにかならなかったのか?」
ドゥリ教官が呆れながら言う。
ま、そうだよね。目のやり場には困る。
「俺も戦うぜ」
と、ルシアンが勇んで前に出てくるが、俺はそれを止めた。
「何でだよ?」
「お前とダルはクリスちゃんたちの側にいろ」
「でもッ!」
「そこからでも援護はできるだろ? さっきの≪覇威土≫、マジで助かったんだ。後ろに味方がいるってのは心強いんだぜ? こう言うのをえっと、俺の背中はお前に預けるぜ、的な?」
「何だよソレ?……でも、ま、わかったよ。後ろは任せな。そんで、存分に暴れてやれや!」
「おう!」
魚人の一群がゴーレムも、石の障害物も突破してきた。
「……無茶はするなよ」
ダーツ教官がチラリとコチラに目をやりながら言う。
「はいッ!」
っても、伐士(見習い)としての初デビュー戦だ。
思う存分暴れてやる。
さぁ、来い。インスマウスども。
死にたい奴からかかって来い! だ。




