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「それは、夜海の攻防の始まりを告げていた」

 仮設舞台の楽団が、ゆっくりと演奏を開始した。

 それに合わせて広場にいる人々もステップを踏み始める。


 ルシアンはクリスと、ダルはソニエと、そして俺は養成所受付のエステルをパートナーにして踊り始めた。

 まぁ、踊り方なんて知らんから、めっちゃ不器用な踊りになるのだがな。


「どうしたのアルゴンくん? さっきから動きがぎこちないぞ?」


 エステルがクスクス笑いながら言う。ひどい……。


「誠に残念ながら、私、アルゴンはダンスと無縁な人生を歩んできたのです。エステルさん、貴女に手取り足取り教えてもらえたら――」

「はいはい、口より足を動かす! ほら、ゆっくりでいいから」


 とまぁ、エステルにリードされながら踊った。

 一曲分が終わると、パートナーを交代。次は船頭のソニエが相手となった。彼女は俺よりはマシというレベルで、おそらく広場一の下手っぴコンビとなった。


「ちょ! アルゴン、足踏むなよ!」

「い、痛い! ソニエさん、肘! 肘!」


 といった具合。仮にワースト賞があるとするなら、我々は確実にナンバー1だっただろう。


 ソニエとの奇怪なダンスの次は、クリスとの穏やかなダンスタイム。

 彼女はあくまで俺に合わせつつ、きちんとリズムも取っている。


「上手いね、クリスちゃん」

「まぁ、何回か参加しているからね」


 彼女は照れ笑いを浮かべつつもしっかりとステップを踏む。


「お相手はもちろんルシアンだろ?」


 と、問うとクリスは顔を赤らめながら「幼馴染だから。ダルくんとも踊っているし……」と答えてきた。可愛らしい娘だ。

 彼女と一曲分踊ったところで一休みする為に、広場端に用意されている丸テーブルの1つに腰かけた。俺の4つ隣にはスローンとデズモンドの手下たちが陰気な顔で酒を飲んでいる。

 ヤツらは一体いつまでこうしているのだろう?


「いたいた、アルゴン!」


 注意深くスローンたちを観察していると、前方から声を掛けられた。

 ソチラに目を向けると、女性が1人立っている。

 その彼女は紫のドレスを身に着け、顔には黒いハーフマスクを着けている。だが、その白金色の髪により、彼女がジーンキララ・ローリングである事は丸わかりよ。普段は後ろにまとめているが、今は解いている。だから、余計に髪色が目立つ。正直言って綺麗だ。


「おぁ、あまりにも綺麗すぎてびっくりだよ、ちゃんキラ」

 

 他意はない。素直に感想を述べたつもりだが、


「はいはい、そういう事は軽々しく言うもんじゃないよ?」


 軽く流されてしまった。

 ま、別にいいけどね。


「ね、あたしと踊ろうよ」


 ジーンキララは座っている俺に手を差し伸べる。


「そりゃ、もちろん喜んで」


 俺は彼女の手を取り、立ち上がる。


「では参りましょう、お嬢さん」

「えぇ、よろしくね」


 俺たちは踊る群衆の中へと入っていった。

 今流れている曲は、最初と同じくらいスローテンポな曲調であった。


「アルゴンはダンスが苦手みたいだね」


 と、容赦ない指摘をするジーンキララ。


「バレましたか。生憎、ダンスとは縁が無かったんだ。にしても、ジーンちゃんは慣れているね?」

「うん、何回かこういうのに参加した事があるんだ」


 俺は懸命に動きに合わせようとするのだが、彼女の動きはこうなんて言うのかな、奔放で捉えどころがない。


「へぇ、思うに、立派なお家なんだろうね、ローリング家は?」

「んー? どうなんだろうね。あたしはそんなの気にした事ないけど」

「王都の親御さんは伐士なんだよね? だからキララちゃ……ごめん、ジーンちゃんは伐士を目指すのかい?」


 すると、ジーンキララはクスクスと笑い声を上げる。


「そうやって質問責めにして、そんなにあたしの事が知りたいの?」

「うーん、まぁ、そうだな。君は中々ミステリアスだからね。つい気になっちゃって」


 曲調がしだいに速くなる。


「それはお互い様だよ。アルゴンだって色々と謎だらけだよ?」

「そうかなぁ。自分では単純明快なナイスガイ、だと思っているんだけど」


 ジーンキララは不意に俺の仮面に手を伸ばす。


「果たして、この仮面の下にはどんな素顔が隠されているのかな?」


 こいつ……。


「その台詞、そっくりそのままお返しするよ」

「へぇ。あたしの素顔、見てみたいの?」


 彼女は悪戯っぽく微笑む。


 この女は俺が魔人だと気づいているのだろうか?


 音楽はさらにアップテンポとなる。

 もはや、格式ばったステップを踏む必要はないみたい。


「あたしはこっちのテンポが好きだな。アルゴンもそうでしょ?」

「確かにね。ノロいのは飽き飽きだ」

「じゃ、ほら、好きに踊ろうよ。こっちのが楽しいよ!」


 そう言うと、彼女は身振り大きく踊り始めた。その姿は溌剌としつつも、どこか神聖さも感じさせる。揺れ動く白金色の髪には優雅さがあった。


 目の前でこう踊られると、俺も負けるわけにはいかないなぁ。

 ジーンキララの動きに合わせるように、俺もがむしゃらに踊った。


 さらにさらに速まるテンポ。

 俺たちは他の者の事は気にせず最後まで、踊りきった。

 息を整えていると、周りから拍手が起こる。

 踊りに夢中になっていて気づかなかったのだが、いつの間にか俺たちの周りに人が集まっていたらしい。


「なんか凄かったぞ、アル」


 ルシアンが俺の肩を叩く。

 俺は曖昧に相槌を打ちながら、スローンたちの方に視線を向けた。

 ヤツらも俺たちの方に目を向けていたが、すぐに興味を失った様子で再び酒を飲み始めた。


 拍手の音で満たされていた広場は、しだいにざわめきの音へと変化していった。


「なんで小ベネルにセブンスの方々が……?」

「あの方はシックスの――」


 そんな声が聞こえる。


 ざわめきの波は、しだいに俺たちの方に近づいてくる。そしてその源たちが姿を現した。

 一際豪華な燕尾服とドレスで着飾った一団。

 セブンス一族だ。エヴァに、お付きの使用人、サイラスに、デズモンドに、金髪の若者、そして一番真ん前には灰色の燕尾服に銀色のハーフマスクを付けた灰色髪の青年がいる。


「お嬢さん」


 灰色髪の青年がジーンキララに話しかける。

 おそらくこいつがシックスではないだろうか?

 セブンス一族はみな金髪のようだし……。


 ってなわけで、野郎を現数力で調べてみた。

 予想通りヤツはシックス。ローウェイン・シックスという名であった。

 奴力値も高いし、戦闘用の奴ウ力も身に着けている。ルシアンたちと同い年ではあるが、実力は圧倒的にコイツが上だ。


「お嬢さん、よろしければ一曲いかがです?」


 そう言ってローウェインは手を差し出した。

 尋ねてはいるが、有無を言わせるつもりがないのは明らかだ。


「えぇ、喜んで……」


 ジーンキララはその手を取った。

 それを合図とするかのように再び楽団は演奏を始めた。

 

 ローウェインとジーンキララが踊る中、俺はサイラスたちに目を向けた。彼らは広場端の円形テーブルに腰かけている。当然そこにはスローンたちがいるわけだが、彼らはお互いに知らん振りで、サイラスとデズモンドはしきりに何か話している。


 うーん。

 何を話しているのだろう? 気になるな……。


≪鬼流≫!!


 魔力が俺の全身に流れ込み、感覚を研ぎ澄ませる。

 聴覚が鋭敏になっているので、小声で話しているサイラスたちの声も聞き取る事ができた。


「まったく、あのシックスの小僧には我慢ならん!」


 と、いきなりサイラスの不機嫌な声が聞こえてきた。


「サイラス様、あのシックスの方々は"例の件"で訪ねてきたのでしょうか?」

「おそらくな……ふん! 本来ならばこのウェイドが栄光ある地位に着けたものの……」


 サイラスの言葉に金髪の青年がもじもじと俯く。

 なるほど、あの金髪青年が奴力値が低いというウェイドくんか。


「あぁ、ウェイドや! 別にお前の事を責めているわけではないぞ? 私が気に入らないのは、このベネルフィアの代表として、どこの馬の骨ともわからぬ輩が選ばれる事なのだ」


 デズモンドは頷きながら、ジーンキララの方を示す。


「あの娘が一番候補のジーンキララ・ローリングですね」


 デズモンドは次に俺の方に目を向ける。

 危ねぇー。ワンテンポ早く他の方を向いていて助かった。


「そして、あそこにいる黒髪の青年がアルゴン・クリプトン。二番候補です。以前、エヴァシェリンお嬢様と一緒にいた青年です」


 サイラスは鼻を鳴らす。


「あのシックスの小僧、生意気にも敵情視察をしようというわけか」

「どうでしょう? いずれにしても、取引の日に来られるとは、何とも間の悪い事ですね」

「あぁ、そうだな……いいか、デス? くれぐれもあの者たちに取引の事を悟らせるでないぞ? 万が一、他の序数持ちに知られれば、セブンスの名が危うくなってしまう」

「はい、細心の注意を払って事に当たらせます」


 おやおや、序数持ち同士はあんまり仲がよろしくないようだな。

 にしても、サイラスたちが話している"例の件"とは何の事だろう? 一番候補だとか、敵情視察だとか、栄光の地位? 一体何の話だろう?

 また、俺の知らない何かが動いて――。


「ゴリプー、ゴリプー!!」

「は、ひゃい!?」


 下から偉そうな口調を飛んでくる。

 エヴァシェリンお嬢様が頬を膨らませて立っていた。彼女は金色のハーフマスクに、赤いドレスを着ている。


「もう! 何をボケーっと突っ立っているの!?」

「す、すんません、エヴァ様」

「まぁ、いいわ。ところでゴリプー、ワタクシ、今空いているわよ?」

「え?」

「だから、空いているわよ?」


 何が?


「だからッ! ワタクシをダンスに誘いなさいッ!!」

「あ、え?」


 あ、ダンスね。考えに耽っていてすっかり失念していた。


「失礼しました……えっと、エヴァ様、よろしければ私めとダンスを踊っていただけませんか?」


 すると、エヴァ様は思案するように腕を組む。


「ふーむ、そうねぇ。そこまでお願いされたら、断るわけにはいきませんものね。いいわよ、ゴリプー。踊ってあげる」


 何がしたいのだ、この娘……。


 俺とエヴァ様、身長差が結構あるので非常に不恰好な姿勢で踊る羽目になる、主に俺が。

 腰を折り曲げて踊る俺、一方エヴァ様は鼻歌を歌いながら踊っている。


「ゴリプー、残念だったわね。恋人をローウェインに捕られちゃって」


 は? 恋人?


「あぁ、ジーンキララの事なら違いますよ。彼女は同じ伐士見習いなだけです」

「……そうなの。でも、クリスとルチノスケには注意しておいた方が良くってよ? あのローウェインは大の女好きですもの」


 なんだ、俺と同じじゃん。


「後で言っときます。それよりエヴァ様。お父上方は来られていないのですか?」

「えぇ、お父様やお兄様はセブンス区の方に参加しているの」

「はぁ、そうなのですか」

「ワタクシやサイラス叔父様は、あのローウェインがこっちに来たいからって事で着いて来たの。ようはお守り役ね」


 やれやれだわ、っと言った具合で首を振るエヴァ。


 一曲分が終わったところで、ローウェインとジーンキララがコチラに近寄ってきた。


「エヴァ、もしかしてソチラの彼がアルゴン・クリプトン君かな?」


 ローウェインが俺を示しながら言う。

 エヴァは肯定するように頷いた。


「初めまして、ローウェイン・シックスだ」


 俺も頭を下げて挨拶する。


「アルゴン・クリプトンです。お会いできて光栄です」

「仮面を取れ」


 は?

 いきなり命令口調である。


「素顔を見ておきたい。仮面を取れ」


 なんだコイツ、偉そうに。

 だが、彼も序数持ちだ。逆らうわけにはいくまい。

 俺は仮面に手をかけて外そうとしたのだが、エヴァが手で制す。


「ローウェイン、この祭りで相手に仮面を取れと言うのはマナー違反です」


 ローウェインは肩を竦める。


「別にいいじゃないか、これくらい――」

「いいえ、許されません」


 ローウェインは苦笑しながら俺とジーンに顔を向ける。


「まぁ、いい。今日はご挨拶に来ただけだ。他の候補者にも会ってみたかったのだが――」


 俺とジーンはキョトンとした顔をしていたのだろう。ローウェインは少し驚いた顔をしている。


「おや? もしやまだ聞かされていないのかな? ハハッ、ベネルフィアの者たちは余裕だねぇ」


 何か軽くバカにされている気分だ。


「いいさ、楽しみは後に取っておくといい。では、セブンス区に戻るかな。また会おう、ローリングさん、クリプトン君」


 そう言ってローウェインは踵を返して行った。


「それじゃね、ゴリプー」


 エヴァやサイラスたちも彼の後に続いて広場を立ち去って行った。


「……嫌なヤツ」


 隣のジーンキララがふと呟いた。


「ちょいちょい、ジーンちゃん、そう言う事は滅多に言うもんじゃないよ」

「だって本当の事だもん。ダンスも全然楽しくなかった」


 そしてニッコリと微笑むジーンキララ。


「アルゴンと踊っていた方が断然楽しかったよ!」

「ハハッ、そりゃ光栄だ」


 結構嬉しい。


「それより、あのシックスの言っていた事って何の事だろうね?」

「さぁ、わかんない」


 彼女は首を傾げるだけだ。

 また、謎が増えてしまったな。



 舞踏会もひと段落ついた頃、仮設舞台には歌手が立っていた。

 何でも、北の街の有名女性歌手らしい。

 楽団の伴奏が始まると、みな静まり返り、彼女の歌を心待ちにしている。


「すっげー、美声らしいぜ」

 

 とルシアンが声を掛けて来た。


「しっ! 静かにしなさい」


 とエステルに窘められる。


 やがて、舞台上の彼女は囁くように歌い始めた。

 評判通りの美声である。

 こう、何て言うのかな、心が洗われる感じ?


 気づいた時には彼女の歌が終わり、観客たちは割れんばかりの拍手を送っていた。

 俺もみなに倣って拍手した。正直、歌の上手い下手はようわからん。でも、なんとなく凄い事だけはわかる。


 パチパチパチ……


 拍手の奥から再び歌が始まった。

 おっと、サービスでもう一曲ってわけか?

 とりあえず拍手は止めとこう。


 今度の歌も美しい歌声だった。が、先程よりも比べ物ならない程に美しい。いや、美しすぎる。

 コレが本当に人間が出せる音なのか?

 あまりにも綺麗な歌声なので、どう言えばいいのか……。

 そう、何だか心臓に直接氷を押し付けられているようだ。ゾッとする。


 それにしても――


 なんでみんなまだ拍手をしてるんだろうか?

 また歌が始まったのに。


 あれ?


 不思議な事に、舞台の歌手は歌っていなかった。

 じゃあ、いったい誰が歌っているんだ?


「……」

「どうした、アル?」


 俺の様子に気づいたルシアンが尋ねてきた。


「……なぁ、歌、聞こえないか?」


 逆に問い返す。


「歌?」


 ルシアンは何のことやらさっぱりって感じ。

 俺だけにしか聞こえていないのか? 確かにどこか遠くで響いているような……。


 あっ!


 もしかして鬼流で感覚を研ぎ澄ませているから、他の人には聞こえない遠くの音が……。


 そうだ。海の方から聞こえる、この恐ろしい程美しい歌声は。


 胸騒ぎがする。

 思い出すのは【夜海の仮面】を始めるきっかけになった伝承だ。


 ある夜、街に響き渡った美しい歌声。

 その後訪れるのは、海の怪物どもによる大虐殺だ。


――海から……


 周りの人々はにこやかに先程の歌について感想を述べあっている。


――怒りと悪意を持って……


 ルシアンとダルは明日の訓練の事について、クリスとエステル、ソニエは装飾品について話をしている。


――大勢で……この街を滅ぼすため?……いや


 誰もがこの楽しいひと時に酔いしれている。だが、ジーンキララは違った。その仮面の下でじっと俺の様子を観察している。


――海から何かが……何者かたちが……だんだん近づいて……


「来る」

「えっ? アル?」


 その次の瞬間、

 重低音が街に響き渡る。

 

「えっ? なにこれ?」

「いったいどうなっているんだ!?」


 さすがに他の人々も異常を察したようだ。

 みな狼狽え、不安げに周りを見回している。


「何だよ、これ?」


 ルシアンも戸惑いの声を上げる。

 俺だって何なのかサッパリなのだ。だが、何か不穏な事が起きる、そう確信している。


 やがて重低音と呼応するかのように、街全体が揺れ始めた。

 始めは微かなモノだった。しかし、揺れはしだいに激しくなり、立つ事もままならない程だ。特設された舞台は壊れ、松明はみな倒れてしまい、急に暗闇に包まれる。建物の窓ガラスが割れ、不吉な音色を奏でる。


 そこいら中で人々の悲鳴が合わさり、揺れは最高潮に達した次の瞬間、


 

 爆発音が轟いた。


 

 見ると、海側の空に高い高い水柱が立ち昇っている。

 そこは、ベネルフィア湾と外海の境界。水門がある辺りだ。


 周りの人々は呆然とその水柱を見上げていた。

 水柱からは黒いいくつかの塊が俺たちがいる広場に向かって降ってきている。

 みな悟った事であろう、それは水門の残骸だと、何者かによって水門が破壊されたのだと。


「危ないぞっ!!」


 誰かがそう叫んだ。

 水門の残骸がまるで隕石のように俺たちのいる広場に直撃した。石畳が破壊される。さらに別の残骸は建物に激突し、モノの見事に崩壊させていた。


 阿鼻叫喚。

 前にも、このような光景を目撃したな。

 そう、尤者ゼムリアス・ファーストがゴブリン王ごと町を焼き尽くした時もこんな感じだった。

 今回の場合、襲撃者の正体もわかっていないのでなおさら恐ろしい。


 広場は完全にパニック状態だ。

 すると、その喧騒を掻き消すかのように、何か巨大な生物の咆哮が轟いた。

 それは深い深い海の底から響くような、クジラの鳴き声に似ている。


「クリス! みんな! 大丈夫かっ!?」


 ルシアンの叫び声。

 見ると、彼は石畳に膝を突いて周りを見回していた。

 彼の近くにはクリス、ソニエ、エステル、ダルがいる。みんな無事なようだ。


「アルゴン、大丈夫?」


 不意に背後から声を掛けられた。

 ジーンキララだ。仮面を着けているので表情はわからない。

 俺は応えようとしたのだが、再度クジラの鳴き声に似た咆哮がベネルフィア内に響く。


「あぁ! そんなっ!」


 頭上から男の悲痛な叫び。

 上を見ると、建物の屋根に伐士が立っていた。風奴ウで登ったのだろう。

 その男は力が抜けたようにへたり込んでしまった。


「水龍だ……水龍が、ベネルフィア湾にッ!!」


 男の叫びを掻き消すかのように水龍の咆哮が轟く。それは、夜海の攻防の始まりを告げていた。

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