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「なんで俺のタマを狙った? 言ってみろ!!」

 ンパ様に指示された通り、俺は再び獲物を探し始めた。

 もうスライムは勘弁だけどね。

 てか、スライム以外にはどんな怪物がいるんだろうな? ドラゴンとかトロールみたいなヤツらがいたらどうしよう?

 そういえば、俺が生まれた村はコンクリート壁のような物で囲まれていたな。あれってやっぱり魔物対策なんだろうか。

 しっかし、この森は静かだなぁ。虫も鳥も小動物もいないんじゃねぇか? 遭遇したのはスライムだけだよ。これじゃ獲物なんて見つからないんじゃ……。


『いたぞ、獲物だ』


 おう、都合ええな。

 どれどれ、今度はどんな怪物だ? 

 デカい蜘蛛の怪物かな。それとも黄金の鎧を着た戦士だったり?……あ、どっちも昔読んだ児童書の敵だよ。やっぱ、ファンタジーには不気味な森の怪物が定番だよね。

 

 好奇心半分、恐怖半分の気持ちでンパ様が指し示す方を見ると――


「ひょ?」


 変な声が出ちまった。

 だって、俺の視線の先にいるのは何と……モグラだった。


 地面からひょっこり顔を出してコチラを観察しているモグラ。まぁ、俺が知っているモグラよりもいくらか大きいようだ。それくらいしか違いはないと思う。


 よーし、こんな時こそ現数力の出番だぜ!

 俺は鼻を抓み、「ポウッ!」と叫んだ。例の青い文字がモグラ野郎の情報を形成する。


----------------------------------------------

エリザベス 18歳 メス レベル:15

種族:デカモグラ


【基礎体力】

生命力:60 魔力:40


攻撃力:60  防御力:20  速力:20  


【魔鬼理】

・穴掘り 消費魔力:2


【装備】


----------------------------------------------


 野郎じゃなかったね。

 でも、やっぱりただのモグラじゃねーか!!

 拍子抜けもいいとこだろ。ただのモグラって……帰ってこいよ、ファンタジー! ペガサスとかさぁ、もっとこう、うん。

 まぁ、嫌いではないけど。あれの小さな目は中々キュートだよね。


『おい、ボーとするな、来るぞ』


 デカモグラの方を見ると、いつの間にか姿を消していた。

 俺は狼狽えて辺りを見回した。どこにもヤツの姿はない。そりゃそうだ、ヤツはモグラなのだから見えない土の中にいる。これじゃ、攻撃の使用がないし、いつ攻撃を仕掛けられるのかもわからない。


 足下の地面に違和感を覚えた。土が微妙に盛り上がり始める。

 そして、勢い良くデカモグラが飛び出して来た。獰猛な爪は俺の股間に向けられていた。


「やっべ!」


 後ろに飛び退き、辛うじて攻撃を避ける事ができた。

 俺が立っていた所を見ると、ヤツの姿は既に無かった。あるのは飛び出して来た穴と再び潜り込んだ穴だけだ。


「あいつ、俺のタマを狙いやがった! 俺のタマを狙いやがった!!」


 男にとって、最も大切な宝玉。それをこの外道モグラは狙いやがった。

 スライムと違って、こいつは最初から敵意剥き出しだ。て、これは深刻だぞ。地面に立っていたら危ない。俺は近くの木に走り寄ろうとした。しかし、


「うわっ!」


 俺の前方からモグラが飛び出してきた。

 慌てて立ち止まったので、タマは無事だった。

 モグラは再び地中に潜った。隙を狙っているのだろう。


 俺はその場に立ち止り、思案した。

 あの外道モグラは地中にいながらも俺が走っている事とその方向がわかっていた。

 

 音、だろうか?

 

 ヤツは俺の足音で居所は突きとめたのか? 確か、昔見たモンスターパニック物の映画でそんな怪物がいたぞ。音に反応して地中から襲いかかってくるやつだ。


 もし、そうだとするなら、この場で動かなければヤツに動きは察知されないかな?

 だが、俺のそんな期待は足下の地面同様崩れ去ってしまった。

 再度の攻撃、今度は完全に避け切る事ができなかった。タマは逸れたものの、右太ももにヤツの爪が食い込む。


「ぐあっ!」


 激痛が走った。

 思わず膝をついてしまう。

 ヤツは? いない……。また、地中に潜ったのだろう。

 太ももを見てみると、少し血が流れている程度だった。防御力の高さに感謝だな。


 俺は膝をついたまま、頭をフル回転させた。

 あのモンスター映画ではどうやって倒してたっけ?

 そう、確かロープと爆弾で罠にかけて……。うん、そうだ。

 もちろん、そんな物は俺の手元にはない。だが、俺には"魔手羅"がある!

 ちょいと無謀ではあるが、やってやるぜ。


 俺は身を屈めたまま、魔手羅を展開し、地面に降ろした。

 まずは右の魔手羅を一旦持ち上げ、前方に下ろす。次に左をさらに前方へと進める。音をなるべく立てて前に歩いているように見せかけるのだ。

 魔手羅の長さは俺の腕の長さ程度しかない。ギリギリまで体を伏せても2歩分が限界だった。

 上手く騙せていればヤツは魔手羅の方に襲いかかるはず……。


 地面スレスレに伏せているせいか、地中を這いずり回る音が聞こえた。どんどん大きくなっていく。それにつれて、地面も微かに振動していた。

 もうすぐだ。もうすぐヤツが地中から姿を現し、攻撃してくる。


 いつの間にか俺は息を止めていた。少しでも気配を消していたい。

 振動がどんどん大きくなってくる。あと少し……。


 俺か魔手羅か、どっちだ? どっちに来る?

 普通の両手で股間をガードした。男としての最悪の苦痛は避けたい。


 緊張の一瞬。


 地中から、ヤツが飛び出してきた……魔手羅の方に!


 勝ったっ!

 俺の勝ちだ!!


 デカモグラは飛び出した勢いのまま、魔手羅に攻撃した。


≪穴堀り≫


 頭の中に言葉が浮かぶ。肉体学習が発動したのだ。

 しかし、俺の黒い腕はびくともしていない。不思議な事に痛みもなかった。


 デカモグラはギョとし、再び安全な地中に潜り込もうとした。

 まぁ、逃がす訳ないよね。


≪スライム体術 粘水捕縛≫!!


 俺はスライムの魔鬼理を発動した。

 スライム状に変化した右魔手羅の指が5本、触手のように伸びてデカモグラの体を拘束した。

 それはさながら、5匹の黒い蛇が憐れな小動物に襲いかかっているみたいだった。


「ヒャッハァ! 捕まえたぜ、外道モグラぁ!! どうしてやろうかねぇ?」


 憐れなモグラは抜け出そうと懸命にもがいている。だが、動けば動く程よけいに絡みついてくるのだよ。


「おう、がんばれ、がんばれ」


 俺は涼しい顔でそんなモグラの悪あがきを眺めた。




「……助けてモグ。殺さないでモグ……」


 しばらく暴れ続けたモグラであったが、ついにあきらめたのか大人しくなっていた。

 俺はモグラを拘束している方の魔手羅を目線の高さまで持ち上げた。

 モグラはぐったりとした顔つきで俺を見返している。


「俺のタマを狙っておいて命乞いとは、都合が良すぎるのではないかね?」

「モグ~。すいませんモグ~」

「なんで俺のタマを狙った? 言ってみろっ!!」

「び、美容にいいから……」


 は? 


「……まさか、喰うつもりだったのか?」

「そうモグ」

「……」


 オウ、マイ、ゴット(つまりはンパ様)! 聞くんじゃなかったぜ。

 白子感覚かよ。おえ、マジでタマひゅんした。


 複雑な表情をしているであろう俺の顔の前に突然ンパ様が現れた。


「うわっ!」

『何を驚いている?』

「いや、ンパ様が急に現れたから……」

『私はずっとここで見ていたぞ』

「あ、そうだったんですか」


 戦いに集中していて、ンパ様がいるの忘れてたや。


「それで、こいつはどうしますか? 勝てという命令でしたけど。つまり始末しろって事ですか?」


 始末という言葉を聞いて、デカモグラはビクッとした。


「な、何を1人で呟いているモグ?」

「だまらっしゃい!! フライにすんぞ?」

「ひっ! モグモグ」


 とりあえず、モグラは黙らせたが……。

 そうか、俺以外にはンパ様は見えていないんだったな。


『殺すな。レベル奪取は生きている者にしか使用できない。今の状態ならできるはずだ。他の魔鬼理と同様、頭の中で念じればよい』

「わかりました」


 俺は視線をモグラへと戻した。

 ヤツはプルプルと震えながらこちらの様子を窺っている。


≪レベル奪取≫!!


 俺は頭の中で念じた。

 すると、デカモグラの体からいくつかの青い数字が浮き出てきた。それは現数力を発動した時と同じ物に見える。

 青い数字たちは空中で一旦停止した後、俺の体の中へと入ってきた。


「うわっ!?」


 突然の事で、声を上げてしまった。

 だけど、何だろう? 力が湧いてくる。確実に先程よりも強くなっている気がする。

 唖然としながら、自分の体を見ていると、ンパ様が声を掛けてきた。


『成功したようだな。どうだ、気分は?』


 俺はンパ様の方を振り向いた。


「なんだか、力が湧いてきました。すごいですね、これ」

『まずは自分の情報を調べてみろ。その次にヤツの情報もな』


 俺は言われた通り、自分のステータスを確認した。


----------------------------------------------

オサダ・アルティメット 0歳 男 レベル:3

種族:魔人 


【基礎体力】

生命力:60  奴力:50  魔力:47(-13)


攻撃力:61(+50)  防御力:551(+41)  速力:53 (+30) 


【奴ウ力】

火奴ウ――レベル:1  

水奴ウ――レベル:1 

雷奴ウ――レベル:1

風奴ウ――レベル:1  

土奴ウ――レベル:1 

天奴ウ――レベル:1  

無奴ウ――レベル:1  

魔奴ウ――レベル:1


【魔鬼理】

・現数力 消費魔力:1

・肉体学習 消費魔力:1

・レベル奪取 消費魔力:2

・スライム体術 鉄砲突き 消費魔力:2

・スライム体術 粘水捕縛 消費魔力:3

・穴堀り 消費魔力:2


【装備】

・カルロが密かに鼻をかんだ布:防御力(+1)

魔手羅ましゅら×2:攻撃力(+50) 防御力(+40) 速力(+30)

----------------------------------------------

 

 おぉ、レベルが上がってる!

 それに基礎体力も上昇してるな。

 これがレベル奪取って事か? なんか普通のRPG的に言う経験値によるレベルアップとはなにが違うんだろう?


『確認したか? では次にデカモグラの情報だ』

「はい」


 俺はすっかり大人しくなったデカモグラに焦点を合わせて、現数力を使った。


----------------------------------------------

ベス 18歳 メス レベル:13

種族:デカモグラ


【基礎体力】

生命力:55 魔力:35


攻撃力:55  防御力:15  速力:18  


【魔鬼理】

・穴掘り 消費魔力:2


【装備】


----------------------------------------------


 あれ? デカモグラのレベルと基礎体力が低くなってるぞ。

 俺は問い掛けるようにンパ様の方を向いた。


『ヤツのレベルと基礎体力が下がり、その分お前のが上がる。つまり、お前はヤツのレベルと基礎体力を奪ったのだよ。レベル奪取とは、その名の通りの能力だな』


 俺はデカモグラのステータスを見返し、先程の自分のステータスを思い返した。

 基礎体力の奪った数値より上がった数値の方が大きいな。何でだろう?

 ンパ様にその事を質問してみた。


『それはな。お前がデカモグラから奪った分と、お前のレベルが上がった事による自然な上昇の分が足されているのだよ』


 えーと、つまり生命力で見ていくと、

自分のステータスでは10上がってる。

その内、デカモグラから奪った分が5だろ。

で、残り5は俺が2つレベルアップした事による上昇値って事だよな。


『お前は今回、ヤツからレベル2奪った。だから、基礎体力もヤツのレベル2つ分の上昇値を奪っているのだ。

 レベルを多く奪えば、その分多くの基礎体力値を奪う事ができる。ちなみに、お前自身のレベルが上がる程、奪えるレベルは多くなる。つまり、上手くこの力を使えば加速度的に強くなる事ができるぞ』


 それは便利やな。だけど、条件があるんだろ?

 俺はその事を質問した。


『あぁ、その通りだ。この力を使うには、相手に敗北を意識させなければならない。相手に止めを刺す一歩手前が理想的だな』


 それって、自分より強い相手には行使できないって事だよな。うーん、微妙だなぁ……。


『おいおい、そうあからさまに落胆するな。私は敗北を意識させろと言った。必ずしも殺し合いで勝てという事ではない。極端に言ってしまえば、ギャンブルや遊びでもいいのだ。相手に負けを意識させさえすればな』


 俺はその言葉に顔を輝かせた。


「それだと、強いヤツからも奪えますね!」

『ただし、ギャンブルや遊びだと、奪えるレベルは少ないがな。

死を意識させた敗北こそが一番効力を発揮する。できるだけ戦いで敵を追い詰めろ。そして、殺す前にレベル奪取を使え。その後、殺せ。以上だ』


 ンパ様の説明をしっかり頭に叩き込んだ。

 遊びでもいいのなら、地道にじゃんけんで勝負していこうかな? そうすれば痛い思いをせずに強くなれるぞ!……でも、この世界にじゃんけんって通じるのかな? 


『ところでお前、そのデカモグラはどうするのだ?』


 俺はデカモグラに視線を戻した。相変わらず大人しくしている。


「……どうしましょう?」

『好きにしろ。用は済んだ』


 俺は少し考え、デカモグラに顔を近づけた。


「おい、今回は逃がしてやる。ただし、今度また俺のタマタマを狙いやがったら、ミンチにしてやる! わかったか?」


 デカモグラは何度も首を縦に振った。


「よーし」


 俺は魔手羅からデカモグラを解放した。

 ヤツは何度も頭を下げて礼を述べると、地中に潜って行った。

 その様子を見守った後、俺はンパ様にこれからどうしたらいいのか尋ねた。


『自分で考えろ。私はしばらくお前の前から姿を消しておこう』

「え?」


 しばらく姿を消すって、これからは俺1人なの? いいのか、それで……?


『いつまでも私の姿があったら、お前もやりにくいだろうと思ってな。だが、忠告しておくぞ。姿が無くとも、私は常にお前を監視しているからな。しっかり励むのだぞ、アーティ」

「ア、アーティ?」


 アーティって俺の事?


『うむ。いつまでもお前呼びはどうかと思ってな。しかし、アルティメットと呼ぶのも面倒だ。だから、これからは略してアーティと呼ばせてもらう。不満かな?」

「い、いえ! とんでもごぜぇません! お好きなようにお呼び下さい。今日から、あっしはアーティです、はい」


 本当は嫌だけどね、誇り高き究極アルティメットの名を略されるなんて……。

 まぁ、邪神様の意見は絶対よ。


『よろしい……じゃあな、アーティ』


 ンパ様はそう言うと、霧のようにその体を雲散させた。


「……マジか」


 俺は呆然と立ち尽くした。

 ンパ様の存在にビクビクしていたとはいえ、いざ姿が無くなると心細いモノだ。

 さて、これからどうしよう?


 俺の好きにしていいって事だよな。まぁ、ンパ様からの使命を果たす事が前提だけど……。


「……」


 腹減ったな、魔人といえども食事は必要なようだ。そういや、まだ飯食ってねぇや。

 あと、この身なりもどうにかしたいな。髪は伸び放題だし、髭も鬱陶しい。ちゃんとした服も欲しい。


 ならば!


 町か村に行くしかないだろう。

 お金は無いけど、まぁ、お金という概念があるのかもわからんけどね、いざとなれば盗もう!

 それが犯罪だとしても、まぁ、法律という概念があるのかもわからんけどね、俺は魔人だ。人間の法など俺には関係ないのだよ。

 それに、この世界の情報も手に入れたいしな。


 よし、決まり! 町か村を探すぞ!


 となると、まずはこの森から出ないとな。

 だが、周りは木ばかりで薄暗く、森の外など全く見えない。

 さっきまではンパ様がいたからな。何も考えずに歩いてたわ、やべぇ。


 俺は1本のとりわけ太く高い木を見上げた。

 そういえば、どこかの偉い人が言っていたな。何かを探すなら、とりあえず高い所に登ってみろ……だったかな。

 この木に登れば、森全体が見渡せるだろうし、運が良ければ町か村を発見できるかもしれんな。

 よし、やってみるか!


 俺は木の根元に近づき、普通の手で幹に触れた。

 そして、出したままにしていた魔手羅を幹に突き立てた。

 

 魔手羅を使えば、木の登りした事がない俺でも簡単に登る事ができた。


 予想通り木の上からは森全体の様子を見る事ができた。

 中々広い森であった。表現としてはありきたりだが、東京ドーム12、13個分の広さはある。

 だが、森の広さなどどうでもいい。なぜなら、この木から約1km先の所に町らしきモノが見えたからだ。

 その場所は森の端に隣接していた。


 「行先が決まったぞ」


 俺は木から降り始めた。


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