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「君の顔を借りる事にするよ」

 2日後の午前中。

 本来ならば、ドゥリ教官による座学の時間なのだが、今日はダーツ教官による奴ウ力訓練が行われていた。

 なぜかと言うと、午後からはベネルフィア伐士隊第2支部の見学が行われるからだ。


「今回は土奴ウ《傀儡創造ゴーレム・クリエイト》を学んでもらう」


 訓練場にて教官の低い声が響く。


「《傀儡創造》とは、その名の通り、自分の意のままに動くゴーレムを創り出す奴ウ力だ。土や石、金属を材料としている。まぁ、このベネルフィアにおいては石を素に創られるゴーレムが主流だ」


 水路が走っているし、周りが海だからな。土のゴーレムだと都合が悪いのだろう。

 それにしてもゴーレムかぁ。

 そういや、森の戦いの時、伐士が使った土奴ウも手の形をしてたよな。今思えばアレもゴーレム的なモノだったのかも。


「ゴーレムは単純な戦闘力向上だけでなく、陽動、防衛に対しても効果的である。ただ、デメリットとして速攻性がない事が挙げられる。ゴーレム1体を創り出すのに約30分は掛かる。なので作戦遂行前に創り出しておく必要があるのだ」


 ふむ、30分かぁ。

 まぁ、簡易兵を創り出すわけだから、それぐらい掛かるのも当然か。


「このベネルフィアを取り囲む壁や伐士隊所有の建物にもゴーレム兵が設置されている。有事の際、すぐに起動できるようにな。あぁ、午後から見学する第2支部にも設置されてあるから、良く見ておけ」


 ダーツ教官は地面にしゃがみ込む。

 俺たちもそれに倣い地面に膝をつく。

 傍から見ると奇妙な光景だろう。


「言葉よりも体で覚えた方が早かろう。まずは地面に手を突き、奴力を流し込む。ここでゴーレムの具体的な体のイメージを思い浮かべろ。貴様ら自身の体を参考に創り出すのがやり易いだろう」


 俺たちは言われた通り、奴力を土に流し込み始めた。自分の肉体美を意識する。フフフ……ダビデ像並みの作品ができるかもしれん。いや、待てよ……もしかして、T-8◯0作れちゃう?


「――奴力が土を固めていくのがわかるか?」


 そう言うダーツ教官の手の下には土でできた頭が形成されている。

 口や鼻はない、ただ大きな一つ目が彫り込まれていた。

 自分の手許を見やると、同じく土でできた頭が非常にゆっくりと形成されていく。

 なるほど、確かに完成まで時間が掛かりそうだ。


 

 それから約30分。

 それぞれ思い思いのゴーレムが作り出されていた。

 ダーツ教官のモノは無骨でガッシリとした体型のゴーレム。

 ジーンキララも同じく無骨なフォルムであったが、どことなく女性的なゴーレムであった。

 それ以外のヤツらは何だろう? ルシアンのはジャガイモみたいにデコボコだし、ダルのは砂山状態に手足が生えたモノ、ソーユーに至っては、シュールレアリスムがテーマなのか、とても奇怪な物体を創り上げていた。

 そして、俺のモノは――


「……クリプトン、これは何だ?」


 ダーツ教官が戸惑うような声音で尋ねてきた。

 無理もあるまい、俺だって本気で創る気はなかったんだぜ。だけど、無意識にってヤツだな、コレは――


「これはT-8◯0です。あのシュワちゃんで有名な」


 そう、あの有名なBGMが聴こえてきそうなくらい精密に再現されたT-8◯0が出来上がっていた。いや、マジでびっくりするわ。


「シュワちゃん……? 何だそれは? いや、そんな事はどうでもいい。よく創られてはいるが、造形が細かいと耐久性が落ちるぞ」


 教官はひと通りゴーレムを眺め終えると、俺たちに視線を戻した。


「……さて、ここで誰が一番強靭なゴーレムを創れているか実験してみよう。方法は簡単だ。自分以外のゴーレムを破壊するよう念じろ」


 俺たちは言われた通り念じた。すると、ゴーレムたちは一斉に震えだす。それはまるでゼンマイを回されたブリキ人形のようだ。

 ゴーレムたちは互いを認識すると、その拳を振り上げた。


「あぁ、ソーユー、ジューン、まさかまた賭け事をするつもりではないだろうな」

「いや、まさか」

「とんでもありません」


 教官の言葉にドキリとする2人。ブレねぇヤツらだ。

 そんな人間たちを他所に、ゴーレムたちは熾烈なバトルロワイヤルを繰り広げていた。



「いやー、惜しかったなぁアル」


 午後、伐士隊第2支部に向かう途中、ルシアンが話しかけてきた。


「けっ、ボロ負けだったろ」


 先程のゴーレムバトルの結果はジーンキララのモノが最後まで生き残っていた。

 俺のT-8◯0は彼女のゴーレムに右腕をもぎ取られ、なぜか生き残っていたソーユーの奇怪なゴーレム共々破壊されてしまった。


「気にすんなって! 俺のだってアーロンのに瞬殺されたんだから。それより、楽しみだなぁ! 伐士隊たちの仕事場を見学できるんだぜ、なぁ!!」


 あー、うるさい。

 楽しみなのはわかるが、もうちょい静かにして欲しいぜ。声が頭に響く。魔鬼理≪鬼流≫で五感を鋭くしている為だ。

 なんたってターゲットである第2支部を下見できるのだ。どんな些細な情報も逃したくないからな。


「なぁ、どうしたんだよ、アル?」

「いや、別に――」

「おら、着いたぞ。私語は謹めよ!」


 前を行くドゥリ教官に注意された。

 彼の左手には周りに比べて大きくガッシリとした建物。伐士隊第2支部だ。

 建物の壁面には石で造られた人型の像が何体も佇んでいる。ゴーレムだ。


「ダーツ教官から教わったと思うが、これが伐士隊のゴーレムだ。有事の際、奴力を流し込めばすぐに起動できる」


 ゴーレムたちの見た目は、ダーツ教官が午前中に創り出したモノと似ていた。ただ、あちらは土だったが、コチラは石でできている。

 俺たちが一通りゴーレムを見終えると、ドゥリ教官は声を上げた。


「いいかお前ら! くれぐれも失礼のないようにな? 特にソーユー! ジューン! クリプトン! わかってんな!」


 教官が念を押してくる。


「ウッース」

「わかりましたから汚い唾を飛ばさないでください」

「綺麗な受付嬢さんはいますかね?」


 ドゥリ教官は呆れたように首を振り、中に入って行った。俺たちも後に続く。

 中は養成所よりも広々としていた。

 正面に受付(受付嬢は微妙だった)、その奥にはいくつものデスクが置かれており、何人かの伐士が座って水報板に目を通している。そのさらに奥には扉が2つ備え付けられていた。


「横2列に並べ」


 教官の指示従い並ぶと、1人の中年の男が奥からやって来た。

 その男は俺たちの真ん前に立ち止まる。


「アーロン」

「はいッ!」


 教官の合図にまとめ役であるアーロンが一歩前に進み出る。そして何やら堅苦しい挨拶を述べると頭を下げた。俺たちもそれに倣う。


「諸君、ようこそおいで下さった。私をこの第2支部の区隊長を務めているマーカス・ウェルダーだ――」


 今度はお偉いさんの長ったらしい挨拶が始まった。

 そんなもんは無視して、俺は支部内を見回す。


 さて、作戦情報や活動記録はどこに保管されているのかな?


「では、案内を開始しよう」


 マーカスに導かれて奥へと向かう。ずらりと並べられたデスクには、様々な書類が置かれていた。

 何かいい情報はないだろうかと見てみたが、置いてあるのは【夜海の仮面】祭りの運営スケジュールなどであった。


「この部屋には我々の活動報告書や戦略計画が保管されている。当然、関係者以外の者の立ち入りは禁止されている――」


 彼が指しているのは、最も奥にある2つの扉の内の1つだ。

 

 ここだ。知りたい情報はここにあるはずだ。さて、どうやって中に入り込もうか? これまで観察した限りだと、夜中でも灯りが点いていた。24時間ずっと誰かがいるみたいなんだよな。

 裏窓も人が入れる大きさではなかったし、屋根や地下から侵入ってのも現実的ではないよなぁ。

 となると残る方法は1つ。誰かに成りすまして堂々と入るのだ。俺にはそれが可能だ。


 では誰に成りすますのか?


 これが最大の問題だな。

 余計な騒ぎにはしたくないので、誰にも気づかれないようにしたい。でも、成りすまされた本人は違和感に気づくよなぁ……。


「コチラの部屋には伐士帯などの装備一式が保管されている。ちょうど今――」


 マーカスはノックして扉を開ける。


「ほら、彼らは伐士帯のメンテナンスをしているところだ」


 中を覗き込むと、何人かの伐士たちが伐士帯に何かを塗り付けているところであった。


「あれはこの街特有のメンテナンスでね。塩害対策用のコーティングをしているんだ」


 マーカスは扉からスタスタと別のデスクに歩み寄った。俺たち一団もその後に続く。


「ここでは住民間のトラブルについての相談も――」


 俺はマーカスの話は聞かず、別のデスクで話しこんでいる伐士たちに耳を向けた。

 鬼流で感覚が鋭くなっているので話が良く聞こえる。


「おい、見ろよあの娘」

「あ?」

「ほら、あの娘だよ、白金色の髪の……」

「あ? おぉ、美人じゃねぇか」

「だろ? しかもいい身体してんなぁ」


 あぁ、何と下劣な会話している事か!

 彼らの好奇の対象は他でもない、あのジーンキララだ。まぁ、気持ちはわかるけどな……。


 俺は彼らの話から耳を逸らそうとしたのだが、


「なぁ、俺、あの娘を飲みに誘ってみようかなぁ」

「あ? やめとけ! やめとけ! どうせ、酒飲むのに夢中になって、女なんかほったらかしになるだけだろ?」

「ハハッ! 確かにな! 酒は俺の生き甲斐よ!」

「お前まさか今日も飲みに行くつもりか?」

「当り前だろーが」

「はぁ、お前の血は酒でできてんじゃねぇか? しまいにゃ、ションベンも酒になってるかもしれんぜ?」

「ハハッ! そりゃ大歓迎だぜ。酒代が大幅に浮くじゃねぇか。なんならお前にも飲ませてやるよ」

「うげぇ! やめろって」



 あぁ、成りすますのに打って付けの野郎が見つかった。

 俺は密かにその伐士たちに目を向け、酒好きの金髪男を現数力で調べた。


 トマス・トルクべイン。


 君の顔を借りる事にするよ。


 








 




 




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