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「……まるで力の錬金術みたいだな」

「――さて、話はここまでにしてお昼にしましょうよ、お姉様。私、お腹が空いたわ」


 今後の打ち合わせにひと段落着いた頃、シャーナがお腹を押さえて言った。

 なんか前にも聞いた台詞だな。


「そうね、そうしましょう」

「やった! へへ、ダーティ、お前の大好きな七色魚レインボーフィッシュバーガーを用意してもらってるんだよ」


 シャーナが得意げに言う。


「えっ、マジ?」

「マジよ」

「メガ盛り?」

「もちろん」

「特製ソース中辛?」

「当然!」

「おぉ……」


 俺のお気に入りのメニュー。

 まさかここで食えるなんて!


 それにして、意外だな。

 敵地の軍事拠点という事で、無骨で殺伐としているモノと思っていた。

 だけどどうだろう?

 今俺は、地底湖に張り出したテラスで昼飯を食べている。円形のテーブルを挟んでセリスとシャーナも昼飯を食べていた。

 青白い湖の光に照らされているのは俺たちだけではない。他にも談笑している魔族たちがいた。

 まるで特殊なレストランに来ているような気分だ。


「正直なところ、思っていたよりも快適な場所で驚いたよ」


 俺の言葉にシャーナが頷く。


「精神衛生を考慮しているらしいの。敵地だからこそ気を張り詰めすぎないようにしようってことね」


 駐屯する兵士の精神的な負担を考えたってわけか。

 確かに落ち着いた雰囲気だもんな。


「まぁ、そんなわけで私たちはそれなりに快適な生活を送っているわけよ。だから、お前もその、定期的にここに寄ってその、なんて言うの……」

「要するに、一番負担を強いられているのはアンタなんだから、たまにはここに気分転換しにいらっしゃい、って事でしょ、シャーナ?」


 言葉に詰まるシャーナに苦笑しながらセリスが代弁してくれた。


「えぇ、まぁそういう事……」


 シャーナはモジモジしている。


「ずっと、あいつは大丈夫だろうか? って心配してたもんね!」

「ちょ、お姉様!」


 ニヤニヤ顔のセリス、対してシャーナは狼狽えている。


「なるほど、要約するとシャーナちゃんは俺の事が好きなんだね? いやぁ、嬉しいなぁ!」

「な、なんでそうなるのよ!」


 さらに狼狽えるシャーナ。

 俺もセリスもニヤニヤ顔を隠せない。


「そ、そうだ! ダーティ、奴ウ力は使えるようになったの? ずっと訓練を受けているんでしょ?」


 シャーナが慌てて別の話題を振った。


「あ、私も気になっていたの。ちゃんと奴ウ力を身につけられているのか」


 セリスも乗っかってきた。

 うむ、シャーナの話題逸らしが成功したな。


「もちろんさ、俺は優秀なんだからね!」


 まぁ、養成所に入る前から肉体学習で習得していたんだけどね。

 前もって奴ウ力を習得しているのは俺だけじゃない。もう1人の魔人、ジーンキララもだ。彼女のステータスを見て――


 って、そうだ。

 彼女のステータスで気になっていた事があった。

 それは彼女の魔奴ウの項目だ。

 文字化けしていてどんなモノかはわからないが、彼女は確かに魔奴ウを身に付けている。


 では、魔奴ウとはいったい何なのか?


 奴ウ力の種類の1つでありながら、魔の名が与えられている。それに、他の人間には魔奴ウの項目自体がなかった。魔族にももちろんない。

 となれば、魔奴ウとは、魔人固有の能力と考えていいだろう。


 魔人にしかできない事。

 それは魔鬼理と奴ウ力の両方を使えるって事だ。

 それじゃ、魔奴ウってのはその2つの力を組み合わせたモノではないだろうか?


 ベネルフィアでは実験できなかったが、ここで試してみるか。


「ダーティ、どうしたの?」


 シャーナが首を傾げる。その彼女に向かって俺は逆に尋ねた。


「そういえば、魔人は不思議な魔鬼理が使えるんだよね?」

「え? えぇ、その通りよ」


 彼女は困惑顔で頷いた。


「正直、その力が何なのかよくわからなかったんだけど、奴ウ力を学んでみてそれがわかった気がするんだ。俺の新たな力を見せてあげるよ」


 俺はそう言って立ち上がった。

 どうせ他の魔人も使えるのだ。隠す必要はないだろう。


「え? 今から使うの?」


 とセリス。

 俺は頷いて手摺に近寄った。

 下には青白い光を放つ湖水。そんなに深くないな。よし、この水を使おう。


「湖に入ってもいい?」

「は?まぁ、構わないけど……」


 俺はズボンの裾を腿の辺りまで捲り、手摺を乗り越えて湖水に浸かった。

 水深は膝下まで、めちゃくちゃ冷たくて背筋がゾッとする。

 念の為にテラスから少し離れたところでやろう。どうなるかわかんないからね。


 

 よしそれじゃあ、奴ウ力の《水煉》と魔鬼理の、そうだなー、《火球》で試してみようかな。まったく違う要素の力だからハッキリ検証できそうだし……。


 片方の魔手羅を緩めたシャツから慎重に伸ばし、魔力を集中させる。

 そして、手を水面に浸し、奴力を流し込む。


 魔手羅には火の球、普通の手には圧縮された水の玉が浮かぶ。

 

 俺は息を吐き、その2つを衝突させた。


 水奴ウ《水煉》!!


 魔鬼理《火球》!!

   


 魔奴ウ《蒸気砲(スチームガン)》!!



 水の玉が火球によって水蒸気へと変化する。

 蒸気の塊は何らかの力で圧縮されていく。そして、


 ――ボンッ!


 小さな爆発音と共に俺は後ろに吹っ飛んだ。


「うげっ!」


 湖水に仰向けで倒れ込む。

 放心したように湖水にプカプカと浮かんだ。パーティでクラッカーが暴発した時の気分だ。

 魔奴ウを使った所を見ると、微かに蒸気が垂れこめていた。


「ッぷ! キャハハハ!! ダーティ、今の何!? その後ろに吹っ飛ぶのが新しい力なの!?」


 爆笑するシャーナ。ひどい……。

 一方セリスは、


「圧縮された蒸気が前方に向けて暴発した、のかな? まだ、不可全な力に思えるわね」


 中々鋭い意見を述べていた。

 他の魔族たちもテラスの手摺から俺を見下ろしている。

 やだ、恥ずかしい……。


 だが、俺は腕を組んで、湖水にプカプカ浮き続けた。

 今の魔奴ウについて考えてみるのだ。


 水煉は水を圧縮したモノなんだよね。高圧状態の水の塊にそれなりの温度の火球が衝突した。

 えーと、液体から気体に変化すると体積が膨張してそれが奴力と魔力の合成により生じた特殊な空間に押し止められて、さらに高圧状態に……うんたらかんたら。


 あー!!

 わからん!


 てか、仕組みなんて知るか!

 元の世界の物理法則なんて当てにならんわな。オケ、科学的な考察は脇に置いとこう。


 とりあえず、現数力で魔奴ウのところを確認してみるか。


「ポウ!」


------------------------------------


魔奴ウ――レベル:1

蒸気砲(スチームガン) 消費奴力:6 消費魔力:6


------------------------------------


 魔奴ウは奴力と魔力の両方を消費するのか。

 使い勝手はいい、のか? 判断に困るな。セリスの言う通りこの≪蒸気砲スチームガン≫は不完全だと思う。組み合わせるタイミングとか、炎の温度とか、水の圧縮具合とか、改良の余地が大有りだ。


 うーん、水と火で蒸気か……。

 元の世界と通じる現象ではあるな。


 火と水……ん? 待てよ。


 ねぇ、ドゥリ教官がこの前話してくれたの覚えてるかな? この世界の"9つの構成要素"とそれぞれに与えられた"源数"の話ってやつね。

 その源数の振り方は次の通り。


 "1"は光陽

 "2"は闇月

 "3"は火

 "4"は水

 "5"は雷

 "6"は聖魂

 "7"は風

 "8"は硬静

 "9"は軟動


 以上が源数と構成要素の関係だ。


 ここで俺は考えてみる。


 水奴ウ≪水煉≫を構成要素に当てはめると、もちろん"水"だろう。源数で表せば"4"。


 そして、魔鬼理≪火球≫。本来、魔族と魔鬼理は構成要素外なのだが、当てはめるとするなら"火"だろう。源数では"3"。


 この数字を足すと、


 4+3=7


 ふむ。

 源数の"7"は風だ。

 そして、魔奴ウ≪蒸気砲スチームガン≫は名前の通り蒸気を扱った力だ。

 蒸気は気体。気体を構成要素に当てはめるなら、風だろう。


 これは偶然だろうか?


 もしかして源数ってのは、そういった関係性を表すモノなんじゃないだろうか?

 光陽と闇月で火、闇月と火で雷、みたいな?


 まぁ、あくまで想像なんだけど。

 奴力と魔力っていう不確定要素もあるわけだからね。

 でも、色々と試してみる価値はあるな……。


 奴ウ力と魔鬼理の数だけ魔奴ウの組み合わせは増えていく。

 そして俺の肉体学習はいとも簡単にその2つの力を習得させてくれる。

 様々な魔奴ウを開発できるってわけだ。まるで力の錬金術みたいだな。


「ちょっとダーティ! いつまで小舟みたいに漂っているつもり?」


 とシャーナが言う。


 小舟?

 あ、そうか。まだ湖にプカプカと漂っているんだったな、俺。


「結構気持ちいいんだよ。何ならシャーナちゃんも小舟オレに乗ってみないかね?」

「バッカじゃないの!!」


 シャーナの怒れる声が湖に響くのであった。

 

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