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「なんか、黒い腕が生えてきました!」

 え?……喋った?……スララが喋った!? ってか、おい!


「てめえ!! 喋れんじゃあねえかぁ!!」


 もう、プッツンです。

 頭の中、プッツンです、はい。

 だってさ、俺は謝罪しているのに、こいつは構わず俺をビッタン、ビッタン叩つけたんだぜ?

 そりゃ、最初に手を出したのは俺ですよ。でも、ここまでされるのは違うと思うの。

 それに、ヤツの「嫌スラ」の言い方が妙に癇に障った。


「ガアッデエエエエムっ!!」


 俺の怒りの咆哮と共に、変化は突然起きた。

 左右の肩甲骨あたりがムズ痒くなったかと思うと、いきなり何か黒い物体が2本、そこから飛び出してきたのだ。

 俺は首を後ろに回して、ソレを見た。

 左右の肩甲骨のあたりから、細長く伸びた黒い物体が2本生えていた。陽炎のように揺らめいている。

 その黒い物体は長さがちょうど俺の腕くらいで、その先端は手の平状になっていた。5本の指のような物も付いている。だが、人の指ではない、その指は禍々しく尖っていた。

 陽炎と俺は表現したが、ソレは確かに存在する。なぜなら、その黒い腕にはちゃんと感覚があったのだ。指にあたる部分を握ったり開いたりしてみると、問題なく動いてくれた。


 俺は早速、その新たな腕を行使してみた。

 尖った指を対象に向けて振り下ろした。対象とはもちろん俺を拘束しているスライムの触手である。


 黒い腕たちは、安々とスライムの触手を切り裂いた。


「スラァ~!?」


 下からスライムの頓狂な鳴き声が聞こえた。

 触手という支えがなくなった俺の体は元居た世界と同様らしい物理法則に従って地面へと落ちて行った。


 カッコ良く着地するつもりだったのだが、世の中そう上手くいかないのは世界共通のようだ。

 俺は無様に尻餅を着いてしまった。


「痛ててて……」


 立ち上がり、労わる様に尻を撫でる。と、そうだ! 今は戦闘中だった!

 俺は慌ててスライムの方を向くと、例の黒い腕を威嚇するように構えた。


「てめぇ、よくもやってくれたな、あぁん? 塩掛けんぞっ!!」


 塩持ってないけどね。

 でも、今の俺にはこの黒い腕がある。少なくとも、ただの枝よりはダメージを与える事ができるだろうよ。


 スライムの体がプルプルと震え、俺の腹部に向けて鋭い突きが繰り出された。


「ぐっ!」


 俺は衝撃で吹っ飛ばされた。が、今度はただでは倒れまい。

 後ろに迫る地面に黒い腕を思いっきり叩きつけた。その反動を利用して自分の体をスライムに向けて突撃させる。


「たっだいまぁー!!」


 俺は右の黒い腕でスライムを殴りつけた。

 スライムは後ろへと吹き飛び、木にぶつかった。が、スライムもまた反動を付けて俺に突進してきた。今度は複数の触手を展開している。


 あの拘束する技か!

 おそらく、今度は切り裂けないよう黒い腕ごと拘束するつもりだな……。

 

 複数の触手が俺に迫る。

 だが、不思議と俺の体は触手を避ける事ができた。

 体が軽い。早く体を動かせるぞ!


 スライムは俺が避けた事に動揺した。

 その一瞬の隙に、俺は片方の黒い腕で数本の触手を掴み、自分の方へ強く引っ張った。


「ス、スラァ~」


 鳴き声を上げるスライムの顔面に、空いている方の黒い腕を叩き込んでやった。

 再び吹き飛び、木に叩きつけられるスライム。だが、今度は反撃してこない。


 スライムはプルプルと震えながら、こちらをジッと見上げたかと思うと、


「ご、ごめんなさいスラァ~!」


 スライムはそう言って逃げ出した。


「ごめんで済めば、警察はいらねえんだよ!」


 そんな俺の言葉には構わず、スライムは森の奥へと消えていった。

 森は相変わらず鬱蒼としていて薄暗いが、恐怖心は無くなっていた。


「ふぅ、壮絶な戦いだったぜ」


 満足げに額を拭っていると、ンパ様が俺の横にパタパタと飛んできた。


『まぁ、及第点と言ったところだろうな……』

「おぉ!!」


 やった! ンパ様から褒められたぞ!!


『別に褒めているつもりはないぞ。途中までの無様な姿には目を覆いたくなった』


 そのまま一生、目を覆っていて下さい……とは言える訳もなく、変わりに気になっていた事を質問した。


「ンパ様、あのスラ公の攻撃を受けた時、俺の頭の中に言葉が浮かんできました。ヤツの魔鬼理の名称です。これはどういう事でしょう? それと、なんか、黒い腕が生えてきました!」


 俺は黒い腕をヒラヒラ振った。


『そうだな……どちらの質問も現数力で解決できると思うぞ? 自分で言うのも何だが、便利な力だよ。とりあえず、自分の情報を確認してみろ』


 俺は言われた通り、自分の情報ステータスを確認してみた。


----------------------------------------------

オサダ・アルティメット 0歳 男 レベル:1

種族:魔人 


【基礎体力】

生命力:50  奴力:50  魔力:45(-5)


攻撃力:51(+50)  防御力:541(+41)  速力:48 (+30) 


【奴ウ力】

火奴ウ――レベル:1  

水奴ウ――レベル:1 

雷奴ウ――レベル:1

風奴ウ――レベル:1  

土奴ウ――レベル:1 

天奴ウ――レベル:1  

無奴ウ――レベル:1  

魔奴ウ――レベル:1


【魔鬼理】

・現数力 消費魔力:1

・肉体学習 消費魔力:1

・レベル奪取 消費魔力:2

・スライム体術 鉄砲突き 消費魔力:2

・スライム体術 粘水捕縛 消費魔力:3

【装備】

・カルロが密かに鼻をかんだ布:防御力(+1)

魔手羅ましゅら×2:攻撃力(+50) 防御力(+40) 速力(+30)

----------------------------------------------

 

 おぉ、魔鬼理の数が増えてる。

 しかも、これはあのスライムが使っていた技じゃあないか。


『だいたい察しはついたんじゃないか? そう、お前は行使された技を自分の物にできる。これが第二の我が力"肉体学習"だ』


 行使された力を何の努力もなく、自分の物にできる! コンビニエンスっ!!

 いや、待てよ。技を学習する為には攻撃を受けないといけないんだろ? つまり、痛い思いをしなきゃいけないじゃないか。てか、死んじまう可能性もあるんじゃ……。


「ンパ様、痛い思いするのは嫌です。注射も嫌いなんですよ、俺。それに、学習しようと攻撃を受けて死んでしまう可能性もありませんかい?」

『痛い思いをするのと、100年間触手責めに遭うの、どっちがいい?』


 え、普通にどっちも嫌……。


『あと、そう簡単にお前は死なん。何の為に他の力を低くしてまで防御力を高めたと思うのだ。現にお前、あれだけ痛めつけられたのに、ダメージは全く受けていないようだぞ』


 再び自分のステータスに目を向けた。

 確かに生命力の数値は全く減っていなかった。


『技を受けて、習得する。これも大事な情報収集の一貫だ。できるだけ多くの技を受けろ』

「わ、わかりました……」


 痛い思いをするのは嫌だが、納得するしかあるまい。触手責めは勘弁だ。

 まぁ、修行せずとも魔鬼理を取得できるのだから、ありがたい話だものな……あ、でも、このスライムの魔鬼理ってどうやって使うのだろう? 俺の体はスライム状じゃないからなぁ。 

 俺はその事を尋ねた。


『その使いたい魔鬼理の名を念じればよい』

「え? しかし、俺の体はスライム状ではありませんよ?」

『いいから、試してみろ』


 ンパ様が触手をくねらせたので、俺は慌てて指示にしたがった。


「とりあえず、この≪スライム体術 鉄砲突き≫ってのを試してみますね?」

『……うむ』


 えーと、鉄砲突きって俺が最初に喰らった技だよな? ものすごい速さで突くヤツ。

 標的は何にしよう? 木? いや、木が可哀想だ。俺は植物を慈しむ男だからな。よし、地面にしとこう。


 俺は頭の中で、行使する魔鬼理の名を念じた。


≪スライム体術 鉄砲突き≫!!


 すると、俺の右側黒い腕の指がスライム状に変化する。

 そして5本の指が勢い良く地面を突いた。スライムが行使した時と同様、弾丸並みの速さである。


「わぉ!」


 思わず驚きの声を上げてしまった。

 地面を見てみると、指の大きさ台の5つの穴が空いていた。

 

「……なるほど、魔鬼理は黒い腕から発動されるのですね!」


 俺の言葉にンパ様が頷いた。


『どうやらそのようだ。その黒い腕に関しては、装備の項目に記載してあるな』


 装備のところに、"魔手羅"という物が2個追加されている。

 俺が身に着けている物は腰に巻きつけている布だけだ。つまり、この黒い腕が魔手羅で間違いないだろう。

 俺の体から生えているのに、なぜ装備扱いなのかはよくわからない。だけど、まぁ、そんな事はどうでもいい。より注目すべきは、この魔手羅によって、基礎体力が向上している事だ。

 スライムの触手を安々と切り裂けたのも納得できる。


『これでお前の疑問は解決したな、では……』

「ちょ、魔手羅の事は名前と能力向上する事くらいしかわかってません!」


 ンパ様はキッとこちらを睨み据えた。


『名前がわかっただけありがたく思え。何度も言ったが、それ以上の事は自分で調べろ』

「す、すいません。でも、この魔手羅ってどうやって引っ込めるのでしょう?」

『戻るよう念じたらいいんじゃないか?』


 俺は言われた通り、戻るよう念じてみた。

 すると、魔手羅はしゅるしゅると俺の肩甲骨の付け根辺りに引っ込んだ。


「戻りましたっ!」

『うむ、出すときは、出るように念じればよいのだろう。では、次の獲物を探しに行くぞ』

「え!? また、戦うんですか?」


 俺はギョとして尋ねた。

 今、戦い終わったばかりなのに……。


『そうだ。まだ、最後の"レベル奪取"についての説明が終わっていない。これも実際に試した方がわかりやすい。ただし、今度は相手を敗北させなければならない。つまり、勝て。お前が勝つまで何度でも戦わせるぞ』

「……ふぇ」


 愕然とする俺にンパ様はさっさと歩くよう指図する。

 俺は再び獲物を探して森を彷徨い歩く事になった。

 

 あぁ、この邪神様、マジでスパルタだ……。








 

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