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「待てや、待てやぁ! 何だそのギャルゲーみたいな設定はッ! お前は主人公さんですかッ?」

「着いたぜ、ここが俺の家だ」


 と、ルシアンが背後の家を指す。

 石造りの2階建。はっきり言って地味な家だ。

 小ベネルの端の方にあり、両隣も同じような家。

 まぁ、フィア区とか小ベネルの中心部は、商店などが立ち並んでいるから華やかなんだろうね。

 一般層の住まいとなるとこんなもんでしょ。


「ただいま、ばあちゃん! クリス!」


 ルシアンは家の戸を開けて中へと入って行く。

 俺とダルグレンも後に続いた。


「お邪魔しまーす」


 家の中は素朴ながらも、温かみがある雰囲気だった。

 中央部分に大きめの木のテーブルと椅子が4脚。左手には2階への階段と物置らしき扉。右手には水道設備と上端部から火を吹くガスコンロ的な台。

 その台の上には鍋が乗せられており、グツグツと煮え立っている。手前には赤髪の女の子が立っていた。


「えと、ルシアン?」


 女の子は戸惑ったように俺とルシアンを見比べている。

 ま、仕方ないね。突然こんな超絶男前が来たんだ、彼女は戸惑いながらも俺に心トキめかせているに違いない。


「あぁ、コイツはアルゴン・クリプトン。俺たちと一緒に適性試験を受けてたんだ。西から1人で来てるらしくてな、飯に誘ったんだよ」


 俺は軽く頭を下げた。この娘は何者じゃ?

 見たところ、俺たちと年齢は同じくらいだな。


「あ、そうなんですか。私はクリスソフィア・ルイスです。どうぞ、よろしく」


 赤髪の女の子、クリスソフィアはニッコリ微笑んで丁寧に頭を下げた。

 なんという清純さッ!

 正ヒロイン力に満ち溢れておられるッ!!


「こちらこそよろしくっす」


 俺も最大級の笑みを浮かべて再び頭を下げた。


「アルゴンの分も用意できるよな?」


 とルシアン。


「うん。ダル君が来るって聞いてたから多めに作ってあるけど、でも事前に言ってもらわないと困るよー」


 クリスソフィアは抗議の意味を込めて腰に手を当てる。

 うむ、ルシアンが悪いな。


「なぁ、ばあちゃんは居ないのか?」


 ルシアンが椅子に腰掛けながら言った。


「うん、お店に呼ばれたの。だから、先に食べていてっておばあちゃんが」

「また呼ばれたのか」


 ルシアンは俺たちにも腰掛けるよう促す。

 

 調理を続けるクリスソフィア。

 俺はその後ろ姿を眺めながらルシアンに小声で話し掛けた。


「おいおい、人の事を女たらしみたいに言ってたくせに、自分はちゃっかり女の子といい感じじゃねぇか、え?」


 するとルシアンは驚いた顔をする。


「クリスとはそんなんじゃないぞ。アイツとは物心着いた頃から一緒に暮らしてるんだから、ま、妹みたいなモンだな」


 は?


「ん? アンルチ君よ、今なんて言った?」

「妹みたいなモンってところか? いや、本当の妹ってわけじゃないぞ? 小さい頃から一緒にここに住んでんだよ。だから、幼馴染みってヤツかな。それよりアンルチって――」


 いやいやいや!


「ウェイ、ウェイ、ウェイ!! 待てよ、アンルチ。お前ずっと幼馴染みの女の子と同棲しているってのか!?」


 ルシアンは困惑したように頷く。


「そうだけど……?」

「待てや、待てやぁ! 何だそのギャルゲーみたいな設定はッ! お前は主人公さんですかッ?」

「ちょ、いきなりどうしたアルゴン?」


 その別に何でもないぜ、つう態度がさらに癪に触るのだ。


「あぁマジ主人公の風格だわ。じゃ、俺は3枚目友人ポジションですわ。主人公の踏み台のあのポジションですわ。素敵だね、人生やっぱこうでなくっちゃ!」

「アルゴンくん、ちょっと落ち着こうよ?」

「君は黙ってなさい、元帥くん!」


 ダルグレンはオロオロしている。


「だから元帥って何だよー」

「ダル、気にしたら負けだ。これがアルゴンなんだよ。受け入れてやろうぜ?」


 ルシアンが憤激する俺に憐れみの視線を向けて来る。


「何だその言い方? まるで俺が痛いヤツみたいじゃあないかね?」

「「痛いよ」」


 出来の悪いコントのような会話だが、クリスソフィアはクスクス笑っていた。


「クリプトンくんって面白い方なんですね」

「あはは、褒め言葉として受け取っておくよ」


 その後、俺たちも食器を並べるなど軽く手伝った。

 準備を終え、卓に着く。横にはダルグレン、対面にはルシアンとクリスソフィアという配置。


 食卓に並べられているのはカレーのような食べ物だ。ただし、米は使われてないよ。

 使われているのは人間たちの主食である【ヲリアル】。別名"万能穀物"と呼ばれている。

 様々な加工が可能な穀物で、人間の食生活を支えている。その理由として、気候や地質に左右されない、短期間での収穫などのメリットが挙げられる。おそらく奴ウ力による補助があるのだろう。

 ちなみに、目の前にあるヲリアルは粒状に加工されていた。


 ふん、米より美味いはずはあるまいよ。

 俺は一口食べてみた。


 美味い! 米並みに美味い!!


「……おいしい」


 ボソッと一言。

 すると、ルシアンが満足げに頷く。


「だろ? やっぱ、ばあちゃんの手料理は最高だよな!」

「ちょっと、私だって手伝ってるんだよ?」

「クリスは野菜を切ったりするだけだろ? 味付けが重要なんだよ」

「ううっ、それはそうだけど……」


 まったく、けしからん。

 この俺の前でこんなイチャイチャと……。


 俺はまた一口食べた。

 美味い。


 この万能穀物は今後の計画の重要な要素の1つだ。

 残念ながら、俺はこの穀物生産を破壊しないといけない。


 俺はじっくりとその味を噛み締めた。



「――にしても、アルゴンはすげぇよな! 試験官みんな驚いてたぜ」


 食後、ルシアンが切り出した。


「うんうん、みんな騒ついてたもんね」


 ダルグレンも同意する。


「そんなに凄かったの?」


 クリスが興味津々で問い掛ける。


 ハッハッハッ!愉快、愉快なり!

 優越感こそ健康の秘訣だって俺の爺さんが言ってたもんな。


「いやぁ! 大したことないよ、ただ手を差し込んだだけなんだから」

「何が大した事ないだよ。訓練も受けてないのにあれだけの奴力値を持ってるなんて、序数持ち以外そう滅多にいないんだぜ?」


 ルシアンが捲し立てる。

 相当興奮してやがるな。


「生まれ持っての奴力値の差はデケェからな。それを覆せるのは一部の天才だけなんだよ。そう、エリック・フォース様みたいな」


 フォース?

 俺はその言葉に敏感に反応した。

 レーミア様が言うには、四将軍よりも強いという伐士団長に与えられる名。


「エリック・フォース様ってノーベンブルムのフォース様だよな?」


 と問い掛けると、ルシアンは猛然と頷く。


「おうよ。エリック様はな、序数持ちの家系じゃないのに伐士団長まで登りつめた偉大な人なんだよ。あぁ、憧れるよなぁ――」

「はいはい、憧れのフォース様の話はまた今度にしようねー」


 クリスソフィアが遮った。


「じゃあもしかしたら、クリプトン君はフォース様直属の伐士団に入れるかもしれないんだ?」


 フォース直属……。

 それってノーベンブルムの王都に行くって事だよな。


「いやいや、俺だって負けないぜ……はぁ、もうちょい、奴力値があればなぁ」


 とルシアン。

 コイツの奴力値はどの位だったのだろう?

 俺のが百なんぼだった。

 ちょうどいい。どれだけすば抜けているのか調べてみよう。


 俺はルシアンに視線を向け、現数力を使った。


「ポウッ」


 青い文字が飛び出す。


----------------------------------------------

ルシアン・グウィン 17歳 男 レベル:5

種族:人間 


【基礎体力】

生命力:45  奴力:47 


攻撃力:20  防御力:20  速力:20 


【奴ウ力】

火奴ウ――レベル:1 

水奴ウ――レベル:1

雷奴ウ――レベル:1

風奴ウ――レベル:1 

土奴ウ――レベル:1

天奴ウ――レベル:1

無奴ウ――レベル:1

【装備】


----------------------------------------------


 ふむ。

 ま、非戦闘員のガキだったらこんなもんだろ。


「何だそれ?」


 3人ともポカンとしている。


「失礼。クシャミだよ」


 そう言って誤魔化しつつ、ダルグレンに目を向ける。


「ポウッ」


 ダルグレンは奴力53。

 て事は、この年齢の平均奴力値は50くらいか。

 俺はその2倍か。

 スタートラインで2倍ってのは結構デカいよな、たぶん。


「ねぇ、俺以外に奴力値が高かったヤツっていなかったの?」


 ルシアンは頷く。

 だが、ダルグレンは首を振った。


「名前は聞いてなかったんだけど、もう1人試験官たちを驚かせた娘がいたんだ。2人とも検査を終えていなかったけど、あの時はアルゴン君並みの驚きようだったよ。まさか、逸材が2人も現れるなんてって……」

「へぇ、そんな娘がいたんだなぁ」


 そう言ってルシアンは俺に視線を向ける。


「へへ、思わぬライバルが登場だな、アルゴン?」


 ルシアンのからかいは無視するとして、

 気になるなその娘。

 まぁ、俺への関心を分散させてくれたのはありがたいけどね。


「なに他人事みたいに言ってるの。ルシアンにとっても強力なライバルでしょ?」


 と、クリスソフィアのツッコミ。


「うっ、そうだった……」


 軽い笑いに包まれながら、グウィン家での昼食は終わった。

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