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「なんだ、この邪悪な水あめは!?」

 俺はンパ様に指示された通り、力を試す相手を探し始めた。

 奥に進む事に森は鬱蒼とし、周りはうす暗くなっていく。

 ちょっと、怖いぞ……。

 世にも恐ろしい怪物とか飛び出して来たらどうしよう?


「……」


 まぁ、俺の隣には恐ろしさの次元が違う邪神様がいるのだけどね。精神体だけど……。


『なぜ、私を見ている?』


 畏怖の視線に気づいたンパ様がジロリとこちらを見た。


「いや、その、ンパ様が傍にいてくれると心強いなぁ、なんて……」


 半分本当で半分嘘だ。

 心強くはあるけど、やっぱり恐怖はそれ以上に感じるよね。


『あまり私に話しかけたり、見たりするな。先程も言ったが、私の姿は他の者には見えていない。いない者に話しかけたり、視線を向けるのは、この世界でも異常な行為だろうからな。目立つ行動は避けた方が良い』


 言われてみれば、確かにそうだな。


「あの、ンパ様、俺はこの世界の事をどうやって調べればいいのでしょう?」


 俺の言葉にンパ様は空中で静止した。

 横を向いていたンパ様の体が俺の方に向き直る。


『それはお前が考える事だ。……そうだな、あいつに聞いてみてはどうだ?』


 ンパ様は俺の背後を触手で示した。

 俺は後ろを振り返った。


『ちょうど良かった。力を試す相手が見つかったぞ』


 ンパ様の声が頭の中に響いていたが、全く聞いていなかった。

 俺は目の前の光景にショックを受けていたのだ。

 なぜなら、そこには恐ろしい怪物(まぁ、ンパ様程じゃないけどね)がいたからだった。


 邪悪な水あめ……。その言葉が真っ先に思い浮かんだ。

 前方の木の根元から、中型犬くらいの大きさの物体が這い出してきていた。

 それは無色透明で液体と固体の中間のようなモノだった。変幻自在に形を変えながら、地面を這いずっている。気味の悪い事に、物体の中には人の目玉のような物が2つ漂っていた。


「……おぅ、のぅ」


 これはやっぱり邪悪な水あめだ。

 案外食ったら美味しいのかもしれない。あ、そういえば、生まれてからまだ何も食べていないぞ。


「ンパ様、そういえば俺、何も食べていませんでした。ご飯はどうすればいいのでしょう?」


 ンパ様の方に向き直り、状況に不釣り合いな事を尋ねる。


『現実逃避をしているのか? だったら、罰を与えて戻してあげようか?』


 罰という言葉に敏感に反応してしまう俺。


「よぅし! ヤツと戦えばいいんですね? まずは準備体操だっ!! おいっちにー、さんしー……」

『間抜け。ヤツの情報を現数力で調べてみろ』


 いきなり屈伸を始めた俺にンパ様はアドバイスをくれた。


「おぉ! なるほど!!」


 俺はポンと手を叩くと、邪悪な水あめの方に向き直った。

 ヤツはグロテスクな動きで、地面を這いずり回っている。

 俺は標的に焦点をあて、手で鼻を抓んだ。


 邪悪な水あめ、邪悪な水あめ、邪悪な水あめ……。


「ポウッ!」


 ヤツの身体から例の青い文字が浮かび上がる。


----------------------------------------------

レオナルド 21歳 オス レベル:12

種族:スライム 


【基礎体力】

生命力:80 魔力:30


攻撃力:30  防御力:20  速力:18  


【魔鬼理】

・スライム体術 鉄砲突き 消費魔力:2

・スライム体術 粘水捕縛 消費魔力:3


【装備】


----------------------------------------------


 邪悪な水あめこと、レオナルドの正体はスライムだった。


 スライムかぁ……えっ!? RPGで有名な、あのスライム!? おいおい、ちょっと待てよ、俺の知ってるスライムはかわいらしい愛玩動物みたいなヤツだったぞ! 決してこんなグロテスクな怪物じゃなかったって……まぁ、そこは置いておこう。ここは異世界だしな、俺の常識とは違うこともあって当然だ。

 

 ヤツの情報を詳しく見ていこう。

 俺のステータス……あ、現数力で表示される情報の事だよ。そう言った方がわかりやすいよね!

 って事で、俺のステータスとヤツのステータスでは表示が異なるところがある。

 それは、ヤツのステータスには"奴ウ力"の表示が全く無いことだ。

 これはどういうことだろうか?


 気になるけど、ンパ様は知らないんだろうな。

 この目の前のスライムに聞いてみるか? てか、意思の疎通はできるのだろうか?

 よし、試しに話しかけてみよう。


「あの~レオナ……っと、スライムさん、こんにちは!」


 意思の疎通において、挨拶は基本だよな。思わず彼の本名を言いそうになっちゃったけどね。危ない、危ない。


「……」


 俺の爽やかな挨拶を目の前のスライムは華麗にスルーしやがった。


『お前、これから戦う相手になぜ話しかけている?』

「いや、聞きたい事がありまして……」


 もしかして、言葉が通じないのかな? ンパ様の話ではちゃんと自動翻訳されているはずだけど……。

 魔物には言葉が通じないのだろうか? いや、でも俺も魔人だしなぁ。種族によって違うのかな?

 あぁ、面倒臭え! とりあえず、ンパ様の指示通り、ぶっ倒す!


 俺はその辺に落ちていた手頃な枝を拾い上げ、スライムに襲いかかった。


「おらあああぁぁぁ!! 覚悟しろや、スラ公!!」


 スライムの体を枝で何度も突き、こねくり回してやった。それこそ水あめみたいにね。


「スラァ~、スラァ~」

「あ?」


 スライムが変な鳴き声を上げながら、プルプル震えている。

 ダメージ与えられているのかな?


『おい、何を遊んでいるのだ?』


 ンパ様の苛立たしげな声が頭に響く。


「そんな、遊んでなどおりません。 このスラ公を攻撃しているのですよ!」


 俺の必死の言い訳など意に反さず、ンパ様はスライムの方を指し示した。


『ほら、気をつけろ。ヤツもやる気になったようだぞ』


 スラ公の体内に漂う2つの目がコチラをジッと見つめていた。

 瞼がないと、目玉ってめちゃくちゃ不気味だよね。


「……何見てんのよ、スケベ」


 俺の言葉と同時にスラ公はブルッと震え、体の一部を勢い良く飛び出させた。それは弾丸の如き速さで俺の腹部に叩きつけられた。


「ぐえっ!?」


 全身に衝撃が走り、俺は数メートル吹き飛んだ。そして、


≪スライム体術 鉄砲突き≫


 頭の中で、そんな言葉が浮かんできた。


「ぶっ!」


 無様に倒れ伏す俺。そんな俺にスラ公は飛び跳ねがら近づいて来た。

 まだ、攻撃してくるつもりなのだ。


「ちょ! スライムさん、待って!! 謝ります! とりあえず、平和に話し合いましょう! 平和に――」


 俺の白旗宣言を無視して、スライムは再びブルッと震えた。

 体勢を整えようと立ち上がった俺に、今度は無数の触手状になったスライムの体が襲いかかってきた。


「なっ!?」


 不意を突かれた俺は為す術なく触手の餌食となった。

 手足や胴体に巻き付かれ、身動きがとれない。


 すると、


《スライム体術 粘水捕縛》


 という言葉が頭に浮かんだ。


 触手は鳥もちのように俺の体にへばり付いていて、もがけばもがくほど、身動きがとれなくなる。


「ちょ、これ、とれない! 助けてぇ~!!」

「スラァ~」


 暗い森の中、俺の叫び声とスライムの鳴き声のみが響いていた。

 助け求めようにも、他に誰もいない。ンパ様は精神体なので、手出しできないのだ。ジッとコチラを観察している。


「スラァ~、スラァ~」


 どこにそんな力があるのか、スライムは触手で俺の体を空中に持ち上げた。


「ちょ、何を――」


 疑問を口にしようとしたところで、俺は思いっきり地面に叩きつけられた。


「うがっ!?」


 頭がクラクラする。

 口の中には土が入り込み、ザラザラする。


「うわっ!!」


 再び持ち上げられ、今度は近くの木に叩きつけられた。


「ぶへっ!!」


 衝撃で、木の葉が何十枚も落ちてくる。

 鼻が熱い。

 あぁ、この感触は鼻血が出てやがる。最悪だ。

 そんな俺をスラ公は何度も何度も地面や木に叩きつけた。

 何回そうされたのかはわからないが、再び空中に持ち上げられる。


「スラァ~」

「ちょ、マジでごめん!! 許してちょんまげ……」


 必死に許しを乞う。だけど、言葉が通じないんだろうな。

 うん、スライムは悪くない。ちょっかい出した俺が悪いんだ。そう、俺が――


「嫌スラ」


 邪悪な水あめが喋った。


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