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「奴ウ力を使わなけりゃ、君たちも無力なモノだな、え?」

 俺に迫る2人の伐士たち。


 つまり、セリスとシャーナのところに残りの5人が行ったのか。

 て、待てよ、セリスは8人と言っていたな。残りの1人はどこ行った?


 ま、それは後だ。

 今は目の前のヤツらをどうにかしないと。


≪火球≫!!


 2人のちょうど真ん中に火球を放つと、狙い通り2方向に別れてくれた。

 俺は前傾姿勢を取り、地面に一方の魔手羅を叩きつけた。その反動を利用して片方の伐士に突進する。


≪弐槍閃突≫!!


 バイコーンから習得した魔鬼理だ。

 魔手羅を前に突き出すと、形状が槍のように尖る。まさに弐槍ってわけだ。


 標的の伐士は突然の突進に驚いているようだ。

 ホバークラフトで速いたって、トゥーレに比べりゃな。


 槍と化した魔手羅が伐士を刺し貫く――


覇威土ハイド


 頭に言葉が浮かぶ。

 伐士と俺の間を土の塊が遮る。魔手羅槍は伐士の体ではなく、土の塊に食い込んでいた。

 だが、これも考慮してたのよん!


≪穴掘り≫!!


 槍の形状から元に戻し、土の壁に穴を開ける。

 伐士側まで貫通したところで、


≪スライム体術 粘水捕縛≫!!


 穴から触手を放ち、伐士の体を拘束し、何度も何度も引っ張って土の塊に叩きつけてやった。

 塊越しに呻き声が聞こえる。


≪レベル奪取≫!!


 青い数字が土の塊を通り抜けて俺の中に入って来る。


 よしよし……って、わっ!


 横から何か鋭いモノが飛んできた。

 頬を掠め、血が流れる。


風牙フーガ


 もう一方の伐士が攻撃してきたのだ。


 俺は後方に飛んだ。

 伐士はさらに追撃してくる。


 ヤツは両手首に着けている密着型のブレスレット(黒い石が嵌めこまれている)を腿当ての石版に、マッチを擦るように擦り付けた。

 

 火花が飛び散る。


 かと思えばそれは膨らんでいき、大きな火炎へと姿を変えた。

 魔手羅で防御するも、全身を炎が舐める。


亜火赦アカシャ


 俺は近くの木の陰に隠れる。

 伐士たちの方を見ると、俺にやられた男を後から来た男が助け起こしていた。


 今だッ!


≪火纏爪≫!!


 魔手羅に炎を纏わせ、一気に伐士たちの懐に飛び込んだ。


 伐士の1人はホルダーから小瓶を引き抜くと、中の液体を垂れ流した。

 液体は地面に落ちる事は無く、空中で水の球を形成する。


 伐士はその水球を俺に向けて放った。

 水球により、魔手羅の炎はかき消され、俺も衝撃で後ろに吹っ飛ぶ。


水煉スイレン


「くっ!」


 俺は魔手羅を地面に食い込ませ、アンカー代わりにする。そしてすぐさま伐士たちに飛び掛かった。

 伐士たちは短剣を引き抜こうとする。だが、遅い。


 俺は彼らの目の前まで接近し、2人の喉を魔手羅で掴んだ。


「がっ!」


 伐士たちは呻き声を上げる。

 俺は構わず2人の喉を絞めあげた。


「奴ウ力を使わなけりゃ、君たちも無力なモノだな、え?」

「があっ! ぐっ!」


 こういうやり方は趣味じゃないんだけど、仕方ない。

 もうちょっと怖がらせないとな。


「俺は情報が欲しくてね。でも、教えてもらうのは1人でいいと思わないか? つまり、どっちかは不要って事なんだけど……」


 そう言うと、俺は交互に力を加えたり緩めたりした。


「どちらにしようかなぁ。君? 君? 君? やっぱり君?――」


 どんどん苦痛に顔を歪める伐士たち。

 何か嫌な気分だ。さっさと終わらせよう。


「よし、君に情報を聞こう!」


 俺は一方に笑いかけ、もう一方に顔を向けた。


「……てなわけで、君は用済みなのだよ」


 俺は真顔で彼の首を徐々に絞めていった。


「うががっ! がっ!」


 恐怖で目を見開いている。


 よし、そろそろいいだろう。

 ンパ様が言ってたもんな、効果が大きいのは死を意識した敗北だって。


≪レベル奪取≫!!


 青い数字が俺の中に入ってくる。それも今までで一番多い。


 ここで俺は1つミスを犯してしまったのよ。

 レベル奪取に夢中になるあまり、もう1人の方に気が回ってなかったや、テヘッ!


 ヤツは俺の目を盗んで、手を腰にある拳銃のような装置に伸ばしていたのだ。

 俺がそれに気づいた時には既にトリガーに指を掛けていた。

 銃口から発射されたのは、先程俺を苦しめたワイヤーだ。


 それって、テーザーガンかよっ!?


 俺は魔手羅を喉から離して後ろに飛んだ。

 しかし、ワイヤーは蛇のようにうねりながら追跡してくる。


 っと、そうだ! 魔手羅は電気を通さねぇんだ。

 俺は迫りくるワイヤーを魔手羅で掴んだ。


 ふぅ、危なかったぜ。


 と思ったのもつかの間。

 地響きがしたと思ったら、俺と伐士たちの間に高い土の壁がせり上がってきた。


「っ誰が?」


 周りを見回す。

 少し離れたところにセリスとシャーナがいた。

 シャーナは既に1人を殺害、もう1人もすぐに始末しそうだ。

 セリスの方は3人を相手にしており、今同時に2人、風の刃で喉を掻っ切っていた。


 こいつらじゃないって事は、残りの1人がやりやがったのか。

 そいつがこの戦いにおいて何度か土の塊を出現させたヤツだな。


 キイィーン――。


 高い音が森一帯に響く。

 俺は土の壁の裏に回ったが、既に伐士たちの姿は無かった。


「ダーティ、残りのヤツらは?」


 後ろを見ると、セリスとシャーナが立っていた。

 2人とも体中に返り血を浴びている。


「ごめん、土の壁に阻まれちゃって。てか、今の高い音って――」

「撤退の合図ね。彼らは本隊に合流するつもりなんでしょ」


 だよな。今から追いつけるのだろうか?


「……お姉さま、この際だからアレを使っていい?」

「いいわ、このまま逃がすよりマシだし。でも、あんまり派手にしないでね?」

「わかってる」


 シャーナはニッコリ微笑むと目を閉じた。


「ダーティ、離れていましょう。巻き込まれる」


 セリスに促され、少し離れた木のところまで移動した。


「私の手を掴んでて」


 セリスが手を差し伸べる。俺は素直にその手を掴んだ。


「一体何が?」

「見てればわかるわ」


 シャーナに目を向けると、風が彼女の周りを渦巻いていた。

 いや、それどころじゃない。次第に強い風が吹いてくる。それも、四方八方からシャーナに向かってだ。

 強風だったモノは突風へ、さらに暴風へと変化しながら中心のシャーナに向かって吹いて行く。周りの木がギシギシと悲鳴を上げている。

 土は抉れ、葉っぱが吸い込まれるようにして中心へと飛んでいき、上へ上へと上昇して行く。まるでブラックホールのようだ。


 こんなひどい有様ではあるが、セリスの手を握っているとなぜか風に巻き込まれる事は無かった。


「ねぇ、こんな大技があるのなら、最初から使えば良かったんじゃない?」

「ダメよ。この魔鬼理は発動までに時間を要するの、その間は隙だらけなんだから彼らに攻撃されていた」


 俺は肩を竦めた。確かに他の魔鬼理に比べて時間が掛かるな。


やがて、どこかから悲鳴が聞こえて来た。

 それはどんどん近づいて来る。

 そして、木の間を縫うようにして伐士たち3人が飛ばされてきた。ある者は木の枝にしがみ付こうとしたが、枝が折れてしまい、中心へと飛ばされて行く。


 彼らは中心に近づくにつれ、上空へと飛ばされていく。

 ある高さのところまで来ると、彼らはそこに浮いたままクルクルと回される。


 そして俺は見た。


 シャーナの頭上、伐士たちがなすすべもなく浮いている空中に風で作りだされた女帝がいた。

 その姿は半裸の人間の女に大きな鳥の翼が付いた形態。

 その無慈悲な目は空中に献上された贄たちを見下ろしている。


 女帝はその大きな翼を羽ばたかせた。

 吹き起こる風は鋭い刃となり、伐士たちの体を切り裂いていく。

 聞こえるはずの伐士たちの悲鳴は風によってかき消されている。


 風の女帝は笑っていた。

 甲高い風の笑い声。


 女帝の笑い声が消えた後、

 血の雨が周りに降り注いだ。


 雨に打たれながら、シャーナがコチラを振り向く。


「終わったわ」


――グシャ


 肉塊と化した死体が地面に落ちた。





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