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「つまり、尤者の名は……」

39話の"番号持ち"ですが、正しくは"序数持ち"です。


「さて、お前の疑問に答えてあげるわよ?」


 ワイバーンが魔都を飛び立ってから数分後。

 前に座るレーミア様が唐突に話しかけてきた。


「え?」


 リリアンナと雑談していた俺は不意を突かれてしまう。


「何驚いた顔してるのよ、お前が聞きたい事があるって言ったんじゃんない」


 呆れ顔をするレーミア様。

 ちゃんと覚えてくれてたんだな。


 俺はリリアンナに顔を向ける。


「ごめん、リリアンナちゃん。お祭の話はまた後で」

「はい、リリアンナは構いませんよ」

「リリーも聞いてていいわよ? つまらないかもしれないけれど」

「はーい」


 そして、ワイバーン上の質疑応答の時間が始まった。

 

「で、何から聞きたい?」

「そうですねぇ、あの、まずは"大海の主"の事から教えてもらっていいですか?」

「ひえっ!」


 大海の主という言葉にリリアンナが敏感に反応した。

 何この娘、まじ可愛い。


「ふむ、それから来たか……」


 レーミア様は少し思案する。


「いいわ……ねぇ、ダーティは巨神ガメの事は聞いてるわね?」

「え、はい。リリアンナちゃんに教えてもらいました。ね、リリアンナちゃん?」

「はいですぅ」


 同意を求めると、リリアンナは頷いてくれた。


「あの、あれですよね、この世界の古代に存在していたモノだったとか?」

「その通りよ。じゃあ、スケルトン領のリッチの事は?」

「え? あぁ、彼女も元は古代の巫女だったとか」


 そう答えると、レーミア様は頷いた。


「そう。そして今、私たちが向かっている【巨人の指輪】も古代から存在しているモノね。要するに、この世界にはいくつかの古代の遺産が残っている。大海の主もソレに近い存在なの」


 レーミア様はここで一旦言葉を切った。


「ただし、その他のモノとは違って、大海の主は今も生きているのよ」

「それは、古代からずっとって事ですか?」

「そうよ。リッチも動いてはいるけれど、アレは死者だからね。でも大海の主は死んでいない。生き続けているのよ、この世界で何千年も、暗い海の底でね」


 そんな……。

 そんな強大な存在がいるのかよぉ、聞いてないよ、ンパ様。


「つまり、魔族にとって、長老的な立ち場のお方なのですか? 年長者は敬えって事ですかね」


 レーミア様は曖昧に頷いた。


「まぁ、それもあるわね。だけど、魔王様が主の扱いに慎重な一番の理由、それは防衛の為なのよ」

「防衛……ですか?」


 レーミア様は顔にかかる髪を払った。


「お前は疑問に思った事はない? なぜ人間は、海を渡って攻めて来ないのだろうかって」


 あぁ、確かに。


「大陸間の海は広い。だけど、人間はそれはそれは上等な船を作り出しているのよ? やろうと思えばできるはず。まぁ、コストが掛かるからという理由もあるのだろうけど、一番の理由は大海の主の存在が大きいわね」


 大海の主が人間の侵攻を食い止めているのか?


「大海の主は争いを好まない。争いの意思を持った者たちが海を渡ろうとすれば、主かその配下の者どもが船ごと海の底に引きずり込んでしまうの」


 海の底に引きずり込むって……冗談抜きで怖いんですけど。

 でも、あれ?


「レーミア様、人間たちは飛行機とか使って来れないんですか?」

「飛行機? 何それ?」


 レーミア様は小首を傾げる。

 可愛いっ!

 レーミア様の事怖いと思ってたけど、やっぱ可愛い! チッスしたい!


「聞いた事ある、リリー?」

「いえ、ないですぅ。お菓子ですかね?」


 貴様の脳みそはお菓子で出来ているのか。


「あ、いや、飛んでくる事は出来ないんですか? 確か、尤者は空中に浮いていたんですけど」


 レーミア様は唇にその白く細い指を当てる。


「なるほど、奴ウ力で空を飛んで来れないかって事ね。これは言ってなかった事だけどね、ダーティ。人間たちが使う奴ウ力は海上ではその効力が大幅に失われるそうなの。多くの魔族はそれも大海の主によるモノだと考えているのだけど」


 なんだその設定。

 あの海賊漫画みたいだな。


「それはあの尤者でも例外じゃないと?」

「楽観的だけど、おそらくそのはずよ。証拠はほら、私たちはこうして生きているじゃない?」


 彼女はその白い腕を左右に大きく拡げた。


「なるほど、大体わかりました。中央大陸の防衛はその大海の主の意思にかかっているわけですね?」

「そ、だから、主の機嫌を損ねないようにしないと。私たちの命は彼の気紛れ次第で危機に陥るの」


 大海の主ってどんなヤツなんだろうな。

 何となく偏屈な爺さんって感じでイメージしてしまうけど、はてさて。


「その大海の主に人間たちを滅ぼすように頼めないのですかね?」


 その主だけで、全部終わらせられるんじゃねって思うわけ。


 だが、レーミア様は首を振る。


「無理ね。大海の主は完全に私たちの味方じゃない。争いを好まない以上、陸の人間たちを襲う事は考えられない。仮に、人間を滅ぼそうとしたとして、その場合は中央大陸も含めて全ての大陸が沈む事になるわね」


 何それ怖い。

 ンパ様、とんでもない爆弾を発見してしまいました。


「それで、他には?」


 レーミア様が質問を催促してくる。

 

「そうですねぇ……」


 さて、何を質問しようかな?

 例の黒幕に関する質問? 一応、俺なりに怪しいヤツの目星はつけている。俺の考えを話してみるか?

 いや、ダメだ。黒幕の件はできるだけ自分で見つけ出したい。そうでなきゃ、レーミア様の思うツボだ。

 とにかく、この話題は今は避けとこう。


 俺はレーミア様に目を向けた。

 その腰の辺りには鞘に納められた短剣。

 柄の部分が銀色だ。おそらく、リフタリアで受け取った短剣だろう。


 この短剣について尋ねてみる?

 いや、それもダメ。リリアンナちゃんの態度から、アレは何やらワケありの品物みたいだし、わざわざ、波風立てそうな質問はするべきじゃないね。少なくとも今は。


 それじゃ、って、あ!

 俺もアホだな。

 ドデカい疑問がこの世界に来た時からあったじゃないか!


「レーミア様、そもそも、奴ウ力ってどんな力何ですか?」


 すると、レーミア様は呆れた顔をする。


「奴ウ力の事、知らなかったの?」

「あ、はい……」

「どうしてもっと早く質問しなかったの?」

「あはは、うっかりしておりました」


 何だろう。

 学校の授業で、基礎的な事を理解しないまま進められて、応用問題になって、当てられて、答えられず。基礎的な事を理解していない事を先生に指摘されて、なんでもっと早く質問しに来ないんだと、みんなの前で公開処刑される気分に似ているね。


 あれは自業自得なんだろうけどね。

 後で何とかなるって気持ちとそんな事もわからないのかってバカにされる事を恐れる気持ちがあったのだろう。


 うん。

 決して俺が体験した事じゃないからな、友達が言っていた事だからな!


「いい、ダーティ?」


 おっと、ちゃんと聞かないと。


「奴ウ力は、彼らの言葉を借りるなら、ヲイド教の信仰心が与える力らしいの」

「え?」


 何その胡散臭い宗教団体が言ってそうな文句。


「この世界を創造したと言われる主神ヲイドの力。つまり、彼から与えられた力はこの世界のあらゆる自然を操れるらしいわ」


 ホントかよ。


「ここが私たちの魔鬼理とは違う点ね。魔鬼理はそれぞれの種族によって、決まった属性の力を行使する。ゴブリンなら火、ダークエルフなら風、みたいにね。だけど、奴ウ力を使う人間は様々な属性の力を行使できる」


 あぁ、俺のステータスの火奴ウ、水奴ウ、天奴ウとかって、やっぱり属性を表していたのかな。


「それともう1つ違う点。魔鬼理は直接魔力を変換して特別な力を発揮するの。だけど、奴ウ力は、それ自体が特別な力を発揮するんじゃない。彼らの奴力が自然に働きかけて、特殊な現象を引き起こす。奴力自身は間接的な働きをするって事」


 うーん、ようわからん。


「だから私たちは、魔鬼理を"自然に逆らう力"、奴ウ力を"自然を支配する力"だと認識しているわ」


 逆らう力……支配する力……。どちらも穏やかじゃねぇな。


「わかった?」

「うーん、すみません、ちょっとイマイチ」


 レーミア様は苦笑した。


「まぁ、大雑把な理解でいいと思うわ。大体、奴ウ力にはおかしな点がいくつかあるもの。まず、信仰心により与えられると言っておきながら、結局は生まれでその奴力値には差があるのよ? それに、世界を創造した言うけれど、ヲイド教が生まれる前に、既に大海の主や指輪は存在していた。それに奴ウ力は海上では力が弱まるのよ? 彼らの言っている事は矛盾しているわ。人間たちはなぜあのような宗教を信仰しているのかしらね」


 言われてみれば、確かに。


「じゃあ、ダーティ、次にお前がする質問を当ててあげましょうか?」

「え?」

「お前は次に"序数持ち"とは何か質問する気だったわね?」

「え……あ、あぁ、その通りです! いや、さすがですねぇ」


 いや、まだ何も考えてなかったんだけどさ……。


 レーミア様は得意げな顔をしている。


 言えねぇよな……。


「なら、ご期待通り答えてあげるわ。実はね、この"序数持ち"も奴ウ力に関係するモノなの」

「と、言うと?」

「序数持ちとは即ち、人間たちの階級を表すモノよ。私たち魔族が低魔族と高魔族に分けられているようにね」


 あぁ、どこにでもあるんだな、ソレ。


「でも、人間の方がより細かく分けられているのだけどね。まず、人間社会は大きく分けて、序数持ちとそうではない者に分けられるの。まぁ、序数を持っていない者が大半で、序数持ちは少数なのだけど」


 つまり、序数持ちは貴族的な存在って事かな?


「序数を与えられる基準と言うのは、奴ウ力の強さよ。より強い奴ウ力を持つほど、若い序数の名を与えられる。一番下は"ナインス"で、そして"フィフス"まではその基準。さっきも言ったけど、奴力値は生まれで差がつく。だから、同じ一族に同じ序数が与えられる。覆される事はないわね」


 レーミア様はここで言葉を切った。


「そして、それ以上に若い序数はより特別な者のみに与えられるの。まず、"フォース"。これは人間たちのそれぞれの国の伐士団長に与えられる名」


 "フォース"……。

 その名には聞き覚えがある。

 そう、クラムギールたちが襲撃した町の奴ウ父ってヤツが、


――だが……だが! 我らにはノーベンブルムのフォース様。そして至高なる尤者様がおられる!


 と、言っていた。


「そいつらは強いんですか?」


 レーミア様は頷く。


「私たち将軍よりもね」


 マジか。


「そして、次に"サード"。これはそれぞれの国を統べる王が与えられる名よ」

「じゃあ、どの国の王も、"サード王"なのですか?」

「そうよ」


 何じゃそりゃ、混乱しそうだな。


「その上の"セカンド"。これはヲイド教の聖地であるヲイドニア教国の教皇と少数の枢機卿が与えられる名。実質、人間社会を支配しているのは彼らね」


 つまり、そいつらが俺の倒すべき存在ってわけだ。

 それにしても、この世界の人間たちは全て宗教に支配されているのか。


「さてと……ここまでで、お前が最も気にしている者の名が出てきていないわね?」


 俺はコクリと頷いた。


「まったく、お前は本当に幸運なのよ? 人類の頂点に襲撃されて生き残ったのだからね」


 レーミア様はじらすように言葉を続ける。


「その存在は、人間の中では最も強き英雄、私たちにとっては最大の脅威、そして、ヲイドに最も従順な第一のしもべ。その存在にのみ、唯一与えられるその名は……」


 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。

 つまり、尤者ヤツの名は……。





「尤者……"ファースト"」

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