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「カルロって誰だよ?」

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」


 俺は地面に仰向けに這いつくばっていた。

 土のひんやりとした感触。そう言えば、俺が身に着けているのは腰に巻いた布だけじゃん。


『お前の肉体には何もする事はできないが、精神には手を出す事ができるのだ。幻覚の一種だよ。だが、確実に苦痛を与える事ができる。お前、体感的にどのくらい罰を受けていた?』


「えっ……2時間くらいです、はい」


『ふふっ、そうか。2時間か……。だがな、実際は1分も経っておらんのだよ』


「え!?」


 ンパ様は困惑している俺を見て愉快そうに目を細めた。


『精神の中では時間の流れを早くする事も、遅くする事も可能なのだよ。先程は2時間だったが、その気になれば1年や10年、いや100年、1000年間も罰を与え続ける事もできる』


「ひええええぇぇぇぇ!!」


 1000年!? 1000年間も触手責め!? あ、悪夢や……。そんなの発狂しちまうよ!!


 俺はンパ様の前で土下座した。


「以後、生意気な態度は取らないと誓います」


『ふん! お前の言葉など信用できん。これだけは覚えておけ。次に私に逆らえば10年に相当する時間の罰を与えてやる!』


 ンパ様は触手をこれ見よがしにくねらせた。


「は、はい……」

『よろしい。では、立て。色々と教えておく事があるからな』


「お、お願いします!」


 俺は急いで立ち上がった。

 目線の高さにはンパ様がパタパタと翼をはためかせている。


『お前のこの世界での使命は先程述べた通りだ。ちゃんと聞いていたか?』


 威圧的な口調だ。口には気を付けないと……。


「えっと、確かこの世界の情報収集と秩序の破壊工作でしたっけ?」

『そうだ。この世界の秩序が崩壊し、混乱すればする程、私が付け入る隙が生じる』

「はい、そのような話でございました」

『そう。だから、お前に私の力の一部を授けてやった。仕事がしやすいようにな』

「ありがとうございます! ありがとうございます!!」


 ペコペコ頭を下げる俺。そんな俺を気にする事なくンパ様は話を続けた。


『お前に与えた力の説明をしてやる。全部で3つの力を授けた。まずは1つ目は……』


 俺は生唾を飲み込んだ。どんな力を貰ったんだろう? 

 ンパ様は怖いけど、この時ばかりはワクワクしてしまう。まるで、クリスマス前の子供の気分だ。


『《現数力げんすうりき》という力だ』

「現数力、ですか? あ、すみません!」


 思わず聞き返してしまった。現数力とは聞き慣れない言葉だ。


『ハッハッ。聞き慣れぬ言葉だろう? まぁ、それが自然だな。現数力とは世界のあらゆる物を数値化できる力だ』


「す、数値化ですか?」


 頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされる。


『まぁ、実際に使ってみた方が早かろう。あの木を見ろ』


 ンパ様は触手の1本で前方にある木を指し示した。

 特に変わったところもない普通の木。

 前世でも似ているモノを見た事がある。何の木かは知らないけどね。


『あの木の高さがわかるか?』


「……7、8メートルくらいですかね?」


『ふむ、目測だとそんなモノだろう。だが、現数力を使えば正確な高さを知る事ができる。私の言う通りにしてみろ』


「はいっ!」


 従順さをアピールする俺。


『まずは手で鼻を抓め』


「……はい」


 俺は言われた通り右手で鼻を抓んだ。

 鼻を抓む? なんだコレ?


『そして、あの木に焦点を合わせ、木の高さを意識しろ。そして……』


 鼻を抓んだまま焦点を木に合わせ、次の指示を待つ。


『"ポウッ"と叫びながら手を離せ』

「はい!……え? はい?」

『聞こえなかったのか? それともやる気が無いのかな?』


 ンパ様は触手をうねらせた。


「い、いいえ! もちろんやらせてもらいますよ! えっと……ポ、ポウッ!!」


 俺は叫び、鼻を抓んでいた手を離した。すると――


 6.574メートル


 木から青色の数字と文字が浮かび上がり、俺の目の前に展開した。


「おぉ! すげぇ!」


 感嘆の声を漏らす。素直にすげぇだろ、コレ。


『その木から得られる情報は高さだけではないぞ。重量、樹齢、葉っぱや枝の数などの情報を数値化できるのだ。知りたい情報を意識して現数力を使えばよい。簡単であろう?』


「はいっ!」


 これって計算や測量が必要な時とか役に立つよな。電卓やメジャーを使うよりも早いもん。

 てか、中学や高校の数学もこれで解けたりして……あぁ、もっと早く身に付けたかった力だぜ。


『ちなみに、この現数力の副産物として、お前は個人個人の身体能力を知る事ができる』

「え、どういう意味ですか?」


 俺が首を傾げると、ンパ様は触手の1本で俺を指し示した。


『今度はお前自身を現数力で調べてみろ。やり方は同じだ。ただし、今度はお前自身を漠然とでいいから意識するのだ』


 俺は頷き、再び鼻を抓んだ。

 今度は自分自身を意識する。俺、俺、俺!! オレッ!! ME!!


「ポゥ!」


 例の叫びを上げ、手を離した。

 俺の目の前に青い文字や数字が浮かび上がる。先程と違って、今度は字数が多い。

 そこには俺の詳しい情報が記載されていた。



----------------------------------------------

オサダ・アルティメット 0歳 男 レベル:1

種族:魔人 


【基礎体力】

生命力:50  奴力:50  魔力:48(-2)


攻撃力:1  防御力:501(+1)  速力:18  


【奴ウ力】

火奴ウ――レベル:1  

水奴ウ――レベル:1 

雷奴ウ――レベル:1

風奴ウ――レベル:1  

土奴ウ――レベル:1 

天奴ウ――レベル:1  

無奴ウ――レベル:1  

魔奴ウ――レベル:1


【魔鬼理】

・現数力 消費魔力:1

・肉体学習 消費魔力:1

・レベル奪取 消費魔力:2


【装備】

・カルロが密かに鼻をかんだ布:防御力(+1)


----------------------------------------------


 なんか、ゲームのステータスみたいだな。


 それにしても、色々とツッコミ所があるぞ。

 生まれたばかりだから年齢が0歳ってのはわかる。

 だけど、その下の種族は何だ? 魔人? え、俺って魔人なの?

 まず、その疑問をンパ様に問いかけた。


『当たり前だろうが。お前は私の僕であり、私の力の一部を与えているのだぞ? ただの人間であるはずがない』


 呆れ気味な調子でンパ様は答えてくれた。

 うん、無知ですいません。なんせ、ついさっきまで赤ん坊でしたからね、俺。


『そこには現状のお前の強さが記されている。お前はまだ生まれたばかりだからレベル1だ。基礎体力に関しては、お前に授けた特別な力の特性上、防御力だけ高くしておいた。その分他の数値は低いがな。まぁ、レベルが上がれば、他の数値も上がる。そして、 奴ウ力どうりき魔鬼理まきりに関しては……私は知らん。まぁ、魔鬼理の方は我が力が分類されているし、使用した現数力は魔力を消費しているので、超常なる力の総称だとは思うがね』


「えぇー!」


 ンパ様の言葉に脱力してしまう。

 肝心な所を教えてもらえないのか……。

 奴ウ力と魔鬼理……まぁ、俺が考えるに、この2つの項目はRPGで言うスキルのようなモノだろう。ただし、何で2種類あるのかは全くわからん。

 魔鬼理は一先ず置いておいて、奴ウ力の方が気になる。まず、何で"ウ"だけカタカナなんだろう? 表示ミスとか? この魔法みたいな力にそんなミスがあるのか?

 それに、この奴ウ力は全部で8つに分類されている。火とか雷とか、マジでゲームの属性スキルみたいだな。レベルも設定してあるし。


 俺が思案していると、ンパ様が苛立たしげに唸った。


『言っただろうが。私はこの世界に入った事はない。だから、この世界の情報はほとんど知らんのだ。情報を集めるのはお前の仕事だ。わかったか?』

「も、もちろんです! この世界の細部まで調べ上げて報告致しますよ!!」


 そう言って俺は敬礼のポーズを取る。


『ふん、お前のその忠誠心は行動で示してもらいたいものだ。まぁいい、話を続けるぞ。私が授けた残り2つの力が魔鬼理のところに表示されているな?』


 俺は頷いた。


「この"肉体学習"と"レベル奪取"ってやつですよね?」


『そうだ。この2つの力に関しては……実際に試した方が理解しやすいだろう。だから、2つの力については後で説明する。先に装備の事を話すぞ。まぁ、大した事はない。身に着けている物がそこに表示されるだけだ。見ればわかる通り、装備した物によってお前の基礎体力は変化する』


 俺は自分の装備を確認してみた。

 表示されている文字は"カルロが密かに鼻をかんだ布"だ。右に防御力(+1)と記されている。

 防御力は501(+1)と表示されている。つまり元の俺の防御力は500って事だな。しかしだよ。この装備には明らかにツッコミ所があるよね?

 

 カルロが密かに鼻をかんだ……って何さ。てか、カルロって誰だよ! 赤ん坊を包む布で鼻をかむって最低だなカルロ!! 何か妙にしっとりしてるなって思ってたんだよな。最初はおもらししたのかと思ったんだぜ……。


 俺は汚物を見るような目で腰に巻いた布を眺めていたが、とりあえず気にしない事にした。今は身に着ける物が何も無いからね。仕方ないね。気持ち悪いけどねっ!


『母親からの最後の贈り物としては、大そうな物じゃないか?』


 ンパ様はそう言いながら、目を細めている。

 人が……いや、今は魔人か。まぁ、どっちでもいいけど。母親と悲劇的な別れをしたばかりの息子に対してこの皮肉は酷いよね。マジ、邪神だわ。


『そろそろ移動するぞ』


「あ、はい。でもどこへ?」


『残り2つの力を実戦で試してみるのだ。その為の獲物を探しに行くぞ』


 ンパ様はそう言って、森の奥を触手で指し示した。





 

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