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「今以上の男前で頼むぜ」

 翌々日の夕刻。


 俺は再びレーミア様の部屋の前にいた。

 今から数時間後、俺とレーミア様は将軍会議に出席するわけだが……。

 その前に、これから俺は"顔を変える"事になる。


 一昨日と同じようにドアをノックする。


「入って」


 これまた同じような返事を受け、俺は中へと入った。


「早かったわね」

「ロイが早めに訓練を終えてくれたんです」

「そう」


 出迎えてくれたレーミア様はソファに座っていた。が、一昨日とは違い、しっかりと戦華服を身に着けている。それに、こちらに背を向けて何者かが対面のソファに座っていた。

 レーミア様に手招きされ、俺はもう1つのソファに向かう。


 腰掛けると、隣のヤツが軽く会釈してきた。こちらも同じように会釈する。

 その男は灰色の肌に、レーズンのような瞳、頭髪はなく、やせ細っている。

 不気味なヤツだ。だが、礼儀は返さなければな。


「ダーティ、彼はシェイプシフターのポーよ。ポー、彼が魔人のダーティ」


 俺とポーはお互いを値踏みするように視線を交わし合った。


 シェイプシフター? 何か聞いた事があるな。とりあえず現数力で調べとこう。


「ポウッ!」

「え?」


 ポーは怪訝な顔をする。

 会ったばかりで素性も知れぬ男が急に自分の名前を叫びやがった、とか思ってそうな表情である。


----------------------------------------------

ポー 32歳 男 レベル:120

種族:シェイプシフター


【基礎体力】

生命力:300 魔力:350


攻撃力:100  防御力:80  速力:150


【魔鬼理】

・形態模写 消費魔力:20

・完全変態 消費魔力:200

・部分変態 消費魔力:150

【装備】

・ローブ


----------------------------------------------


 思い出した。

 ドラマか何かで見たことある。シェイプシフターは他者に変身できる妖怪だ。

 シェイプシフターの変身能力は幻覚の類ではない、実際に自分の体を変えちまうんだ。

 ちなみに、狼人間はそのシェイプシフターの種類の1つなんだと。だから狼人間同様、シフターたちも銀に弱いのだとか。

 これらはあくまでも、元の世界の空想の話だけどね。


「気にしないで、これはダーティ式の挨拶なのよ」

「は、はぁ」


 レーミア様がフォローしてくれる。


「よろしくな、デュパンくん!」

「え?」

「だから気にしないで、頭のネジが飛んでるのよ」


 てな感じで紹介を終えた後、レーミア様は本題へと入った。


「では、ダーティ、これからこのポーがお前の顔を変えてくれるわ」


 ポーが頷く。


「このシェイプシフターはね、あらゆるモノに変身する魔鬼理を使えるの。それは本人だけでなく、他者も変身させる事ができるの」


 どうやら、俺の知識は間違っていないようだ。

 とすると、気になる事がある。


「あの、顔は元に戻せるんですか? 俺、この男前な顔が好きなんですけど」

「それは大丈夫よ、魔鬼理を解除すれば顔は元に戻る。ポー、一応仕組みを説明してあげて」


 ポーは俺に向き直った。


「ダーティ、まずはあなたの顔を形態模写させて貰います」

「形態模写?」

「はい、この魔鬼理を使えば、対象を僕の頭の中に模写し、精密な像を保存する事ができるのです」

「なるほど」

「この模写の目的はいくつかあるんですが、今回に限って言えば、あなたの顔の骨格や筋肉の付き方を調べて無理のない変身をさせる為です」


 えーと、よくわからないな。


「と言う事はだよ。俺の顔はそこまで変化しないって事?」

「根本的な所では無く、パーツパーツで適切なモノを僕の頭の中から選び出して変えていくのです。だから、見た目は大分変わりますよ」


 うーん、ピンと来ないなぁ。


「君の頭の中には色んな顔が保存されていて、その中から俺の骨格に合うパーツをそれぞれ選び出すのか?」

「はい、そう理解して下されば結構です」

「その保存されている顔は形態模写で作ったもの?」

「はい」

「じゃあ、俺の顔も利用される可能性もあったり?」


 ちょっと意地悪な質問をしてみた。


「その事で心配する必要は無いわよ、ダーティ。そのような事も想定して、魔力認証というシステムができたのよ。魔力は変えようがないの。それに彼はそんな事はしない、私が保証するわ。それでも不安?」


 レーミア様が割り込む。


「いえいえ、安心できました。すまんな、ポー」

「いえ、当然の心配です。気にしてませんよ」


 ふむ、話してみると、好感が持てるヤツだ。


「じゃあ、これは単純な好奇心なんだけどさ。君の変身能力はどこまでできるんだい? 例えば、生物を道具に変身させたりとか、獣を虫に変身させたりとかは?」


 ポーは曖昧に頷いた。


「可能です。ですが、そのどちらも非常に高度な技術を要求されます。それに負担も大きい。維持させるのも困難ですよ。僕にはできません」

「そっか、ありがとう」


 難しくはあるが、可能なんだな…………欲しい。

 この魔鬼理は絶対に手に入れないと。


「話が逸れましたが、顔を決めれば、あとは実際に変えていく作業に入ります。この時に使うのが部分変態です。魔力をあなたの顔に流して込んで、顔をイメージ通りに変えていくのです」


 大体わかってきた。


「それってさ、俺の肉体に負担はかからないの? 形を直接変えるんでしょ?」

「心配いりません、魔力の補助があるので、肉体への負担はほぼないです。だけど、大幅に変える程、魔力自体の負担は増します。そうなると変身を維持できないのです」


 魔力って万能だな。


「ちなみに、簡単な変身だとどれくらい維持できるの?」


 ポーは少し考え込み、


「大体3週間くらいですね」


 と言った。


 そんなに持つのかよ!?


「さて、説明はそんなモノでいいでょう。ではお願いね、ポー」

「はい」

「あ、ちょっと待ってくださいレーミア様!」


 レーミア様が首を傾げる。


「何かしら?」

「疑問なんですが、俺の顔を隠しておきたいなら、初めて会った時から俺に顔を隠させれば良かったんじゃないですか? その後に変えた顔を見せれば、それで他の者は一応納得する。そうすれば要らぬ不審を相手に抱かせなかったのでは?」


 レーミア様はなんと舌をチロッ出して微笑んだ。


「私とした事がうっかりしてたのよ。でもね、いずれは偽物の顔だとバレた筈よ? だからこれでいいのよ」


 嘘だ。

 レーミア様はそんなドジッ娘じゃねぇ。

 この方は嘘を吐いている。


 あくまで俺の想像だが、

 おそらく、レーミア様は俺を餌にするつもりなのだ。

 わざと俺に注目を集め、何やら企む黒幕野郎を挑発してるんだ。食いつたところを釣り上げる為に……。


 これが諸刃の剣って訳かな? もしかしたら相手を余計に警戒させるだけに終わる可能性もあるからな。

 

 はぁ、せめて餌じゃなく、レーミア様の竿になりたかったぜ…………下ネタじゃないぞ?


「もういいわね? ポー、お願い」

 

 本当はもっと聞き出したい事があったが、仕方ない。

 ポーは俺の顔をじっ見つめた。

 彼の瞳が一瞬白くなる。


《形態模写》


 頭の中に言葉が浮かぶ。


 そして彼は目を瞑り、しばらく考え込んだ。


「今以上の男前で頼むぜ」


 ポーは軽く笑い。目を開いた。


「では、始めます」


 彼が俺の顔に手をかざす。すると青白い光が俺の顔の中に流れ込んできた。


《部分変態》


 手に入れた! 

 利用されっぱなしじゃねぇ、俺も自分の目的の為に動くのだ。


 顔を変えられながら、俺は心の中で歓喜の雄叫びを上げた。



 ポーによる部分変態を終えた後、俺とレーミア様は魔王城の大会議室へと向かった。


 既に日は沈み、渡り廊下を光の塊が照らしている。

 俺はいつもの仮面を身に付け、レーミア様の後を歩く。


 これから俺は、魔族どもの中枢を担う連中と顔を合わせるのだ。


 と言っても、全員ではない。

 レーミア様によると、この臨時将軍会議に参加するのは各砦から2名ずつらしい。

 他の2名の将軍は各大陸の砦に残る。砦の防衛に専念するってわけだ。


 北方将軍では、レーミア様が参加、トゥーレは砦。

 だから、残り2人の内のどちらかがこの会議に参加する。

 フェムートとアーリルフだったかな。そのどちらかと初対面する事になる。


 渡り廊下を進んでいると、右手に大きな両開きの扉があった。魔族の兵士が2体どっしりと構えている。


 レーミア様はその扉へと近づいた。

 兵士たちは会釈をしながら扉を開く。中から光が射し込んできた。


「行くわよ」


 レーミア様がこちらを振り向く。


「はい」


 そして、俺たちは扉の中へと入っていった。





 


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