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「クラムギールを影から操っていたヤツを警戒して……?」

 レーミア様の館にたどり着いた時、日は既に沈んでいた。

 門の左右には青い炎が冷たい輝きを放ちながら周りを照らし出している。


 リリアンナとは館エントランスで別れた。

 彼女はレーミア様のところに例の短剣を渡しに行くのだろう。俺はとりあえず自分の部屋へと戻る事にした。


 洋館風のこの館に、最初は落ち着かなさも感じたものだが、今ではすっかり慣れちまった。

 ただ、1つ不満を挙げるとすれば、部屋が3階にあること。まぁ、男が3階、女が2階と分けられているのだから仕方ない。


 俺は部屋の前に立つと、ノブを握りしめた。

 カチリとロックが外れる音。


 指紋認証ならぬ、魔力認証ってやつだ。

 初めて魔都を訪れた時、見張り岩の鳥人が水晶に手をかざすよう指示してきた事があったよね? 仕組みはアレとほぼ同じ。

 魔力にはそれぞれ特有の波長があるんだと。それで身元を証明するらしい。

 このノブも、設定した魔力の波長にのみ反応する。指紋と違って他者に利用される恐れがないのさ!……たぶん。


 ドアを開け、中へと入る。


 さてと、

 ちょうど小腹も空いてきたところだし、あの揚げパンを食べようかな。


 紙包みを手に持つと、当然の事だが、冷めきっている。

 レンジとかあればいいのに……ま、味はそんなに変わるまい。


 いざ、揚げパンを食おうと大きく口を開けた時、


――トントン。


 部屋の扉がノックする。

 まったく、タイミングが悪い。


 軽く悪態を吐きながら、扉を開くと、


「数分ぶりですぅ、ダーティさん!」


 さっきまで一緒だったリリアンナがいた。


「リリアンナちゃん! どうしたの?」

「レーミア様が部屋に来るように、と伝えに来ました」

「え? レーミア様が?」

「はい。すぐに来るように、と」


 何だろう? 何かしでかしたか?


 部屋から出て、2階の踊り場まで降りたところで、


「では、リリアンナはこれからシャーナちゃんたちとボードゲームで遊ぶ約束があるので」


 そう言って、リリアンナは2階廊下へと去って行った。

 うへ、レーミア様と2人かよ。

 ……最高だな。


 そして、1階レーミア様の部屋の前。

 俺は恐る恐るノックした。


「空いてるわ、入って」


 レーミア様の鈴のような声がドアの奥から聞こえた。

 期待半分、不安半分でドアを開く。


 薄ぼんやりとしたオレンジ色の灯が正面の壁に漂っている。

 その下のソファには、レーミア様がゆったりと肩肘を立てて横たわっている。

 彼女は戦華服ではなく、滑らかな紺のローブを身に付けていた。

 白い肌がオレンジ色の光に照らされて、妖艶さに拍車を掛けている。


「そこに腰掛けて」


 彼女はローテーブルを挟んだ対面のソファを指す。


 俺が腰掛けると、レーミア様は起き上がり、ソファの横のサイドテーブルに置いてあったボトルをグラスに注ぎ出した。中身は赤い液体だ。


「お前も何か飲む? 普通のお水もあるわよ?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございまする」


 彼女は肩を竦めると、ボトルを元のテーブルに戻した。よく見てみると、そこにはリフタリアで受け取った短剣が無雑作に置かれているではないか!


「これが気になる?」

「ふぇ!?」

「でも、今は教えてあげない」


 うぉ、リリアンナちゃん! まさか、俺が問いただそうとした事をチクッたんじゃ……。


「今日はリリーに付き添ってくれたそうね?」

「……え、あ、はい」


 動揺して、慌てた返答になる。だが、レーミア様は構わず話を続けた。


「あの娘、楽しんでた?」

「はい、楽しんでたと思います。途中、グースカ寝ちゃってましたけど」

「そう……」


 レーミア様は安心したように口許を緩めた。


 あぁ、やっぱり。

 この方はリリアンナに息抜きをさせる為も含めておつかいを頼んだんだな。


「ありがとうね、ダーティ」


 素直に礼を言われてドギマギしてしまう。


「いえ、そんなっ。俺だって案内してもらえて楽しかったですし」

「そう……」


 彼女はグラスを傾け、赤い液体を一口飲み込んだ。


 あれってやっぱり……血なんだろうか?

 

 レーミア様は戦血姫ヴァンキューレという種族だ。

 赤い液体を飲む事、名前の感じ的に吸血鬼の亜種のようなモノだと思うんだが、はてさて……?


 俺の視線に気づいたレーミア様がいたずらっぽく笑みを浮かべる。


「飲みたいの?」

「いえいえ!……えと、あのそれって血なんですか?」


 彼女は首を傾げた。


「うーん、ちょっと違うわ。これは血に濃縮魔素を加えたモノ、純粋な血じゃないの」

「な、なるほど」


 意味はよくわからない。


「ちなみに何の血なんですか?」

「それは秘密」


 彼女はグラスをサイドテーブルに置き、ソファに背を預ける。


「さて、本題に入りましょう」


 俺は居住まいを正した。

 レーミア様の種族の謎はひとまず後回しにするしかない。


「将軍会議の日程が決まったわ。明後日の午後8時に魔王城大会議室で行われるの」


 やっと決まったのか。

 つまり、俺たちがこの魔都に滞在できるのもあと少しだな。


「ダーティ、この会議にお前も出席してもらうわよ」

「えっ!?」


 これはこれは、願ってもない事だぞ。

 なんせ、魔族勢力の中枢の場に入り込めるんだからな。貴重な情報を仕入れるチャンスだぜ。


「この緊急会議で話し合われる事の1つは、ゴブリンの先王クラムギールの謎の行動についてよ。だから、その現場にいたお前にはその時の状況を話してもらいたいの」


 まぁ、当然だな。


「それと魔人であるお前を他の将軍に紹介しなければならないの」


 ぬぅ、それも仕方のない事だ。


「でもね……」


 レーミア様が顔を寄せてきた。


「私はお前の素顔をできるだけ特定されたくないの。なぜだかわかる?」


 何となく、わかる。


「クラムギールを影から操っていたヤツを警戒して……?」


 レーミア様は頷いた。


「うん、そうよ」


 なるほど。

 そういや、初めて魔王城を訪れた時、レーミア様と魔王は話してたもんな。

 

 最底辺のゴブリンの地位を向上させる事ができる者、少なくともクラムギールにソレが可能だと納得させられた者。

 それは高魔族よりも上位な存在。

 つまり、将軍以上の者の中に、黒幕はいる。


「相手が何を企んでいるのかわからない以上、こちらの手の内を見せたくはないの」

「えーと、それって俺が切り札的なポジションにいると……?」

「全然違う。けど、お前が諸刃の剣になってくれるかもしれないわね」


 ぬぅ、このお方は何を考えているのだろう?

 何だか、こちらの目的を知られているんじゃないかと心配になる。


「以前、ベルトールと、あと、トゥーレに顔を見られたわね?」

「あ、はい」


 そういや、そうだったな。

 でっぷり太った南方将軍ベルトール、巨体の北方将軍トゥーレ。そのどちらの将軍にも俺は顔を見られている。


「それはそれでいいの。より効果を発揮してくれるでしょう」


 レーミア様は唇に指を当て、あらぬ方を向いた。何か考え事をしている時の仕草だ。

 

 何が言いたいんだろう?


 彼女は指を離し、改めて俺に向き直る。


「ダーティ、お前の顔を変えましょう」












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