「【リフタリア総合装備店】?」
天糸が降り切った先には、上のモノと同じアーチ型の建物が待っていた。
俺たちを乗せた籠は、ポッカリと空いた穴に飲み込まれるようにして入って行く。
建物の中も、上のモノと造りはまったく同じ。
そして、笑顔で出迎えてくれた監視員も1つ目の男。
何だか間違え探しをしたくなるな……あ、鼻の頭に黒子発見! これは上のヤツには無かったぞ。
「やぁ! リリアンナちゃんじゃないか! 久しぶりだねぇ。 1年ぶりくらいかな? そっちの……仮面の旦那は?」
おいおい! 台詞も一緒じゃないか!
もしかして同じところに戻って来てるとか? エッシャーのだまし絵的な。
もしくはRPGの村人みたいに言う台詞が決まってんのか?
「彼はレーミア様の新しい部下ですぅ。上のご兄弟にも全く同じ事を言われましたよ」
リリアンナがクスクス笑いながら言った。
なるへそ、ご兄弟でござったか。
「いやぁ、そいつはすんません」
1つ目男は苦笑いし、籠の戸を開ける。
「いえいえー」
軽やかな足取りで降り立つリリアンナ。一方、俺はフラフラしながら飛び降りた。だれも乗っていない籠は再び上を目指して登り始めた。
「いってらっしゃい!」
1つ目男に見送られながら、俺たちは建物を出た。
視界が開け、魔都の景観が目に飛び込んでくる。
「わぁおっ!」
感嘆の叫びを上げる俺。
上から見ているだけでもその壮観さに驚いたが、同じ目線で見ると一層圧倒されてしまう。
このアーチ型の建物は他よりも小高いところにある。下の石畳の通りまでは階段を下りなければならない。
俺たちはその階段を下り始めた。
ふと背後を見やると、鳥人の男が2人、建物の入り口に立っていた。
彼らが見張ってるってわけか。
階段を下りながら、俺は周りの建物を眺めまわした。
球体だったり、斜めに捩れていたりと、奇天烈な形の建物で周りは埋め尽くされている。巨大なキノコ型の建物、蜂の巣状のモノ、ピラミッド型など、なかなかカオスだ。
ここでちょっと話が逸れるけど。知らない土地に行くとさ、建物とかを抽象的なモノとしてしか認識できないって事ない?
つまり、細部の事まで気が回らないって言うのかな。看板は出ていて何の店かわかるのに、なぜかそれを認識できず、風景としてしか把握できない、みたいな。
今もそうなんだよね。キノコ型とか、ピラミッド型とか、抽象的な形としてしか認識できていない。もちろん、何度か通い詰めれば、街の細部まで把握できるんだけどね。
ふとそんな事を考えているうちに、俺たちは階段を下りきった。
目の前の通りには多くの魔族たちが往来している。尻尾が生えていたり、腕が4本だったり、皮膚が鱗で覆われていたりと、様々な見た目の種族で溢れていた。
仮面を着けた変なヤツが突っ立っているのに、誰も気にしていないようだ。慣れてるのかな? 何にしてもそれはありがたい。
「ほら、行きますよ」
リリアンナに促され、俺たちも往来の流れに入り込む。
前を行くリリアンナを見失わないよう懸命に魔族を掻き分けて行く。
どこかで力強く羽ばたく音が聞こえた。
その音の方を見ると、建物の屋上からワイバーンが飛び立つところだった。足の指で木箱を掴んでいる。
その光景を眺めていると、今度は右手前方から歓声が聞こえてきた。
見ると、小さい広場に魔族の一団が集まっていた。彼らの前には派手なドレスを身に着けた魔族の女性。
彼女は笑顔で観客たちを見やっていたかと思うと、次には真剣な顔つきで歌い始めた。とても甘い歌声で頭がボッーとするようだ。
「あれはセイレーンですぅ。彼女たちの歌声は魅力的ですが、あんまり聞き続けると、虜になってしまいますよ」
リリアンナの声に俺はハッとした。
なるほど。俺も危うくセイレーンの虜になるところだったのか。
もう一度、広場の一団を見てみると、納得だ。観客たちはみな男ばかり。こんな光景は元の世界でも見たことがある気がする。
「もう、ダーティさんったら! 目の前にこんな素敵なレディがいるって言うのに」
リリアンナはそう言って、クスクス笑いながら再び歩き始めた。
「ねぇ、どこに行ってるの? てか、レーミア様のおつかいって何なんだい?」
ガタイのいい男にぶつかりそうになりながら俺はリリアンナの横に並んだ。
「それはですねぇ……あ、あそこですぅ!」
彼女は前方を指す。
そこにはドーム型の建物。屋根の部分からはパイプらしきモノが数個飛び出している。その内の何個からはモクモクと煙が吐き出されていた。
「えぇー! もしかして銭湯かい? まさか、混浴だったり? きゃー!」
「そういうボケはいらないですぅ」
「……はい」
「アレを見るですぅ」
「はい」
リリアンナの指の先には看板。
書かれている文字は、
「【リフタリア総合装備店】?」
重厚な木の扉の上に、黒地に金色の文字で書かれていた。
「装備? 総合って事は、武器とか防具とか、全て取り扱ってるって事?」
リリアンナはコクリと頷いた。
でも、装備店でのおつかいって、何か買うのかな?
てか、待てよ。リフタリアってどこかで見たな? なんだっけ……?
あ! 思い出した! 以前レーミア様のステータスを見た時だ。
リフタリアの戦華服、間違いねぇ。
あの奇妙な鎧はここで作られたのか?
リリアンナは扉を開けようとする。
俺は慌てて駆け寄り、扉を開けてやった。紳士の精神は忘れちゃならねぇ。
リリアンナがニッコリ微笑み礼を述べ、中に入る。俺も後に続く。
店の中はごった返しという程ではないが、それなりに客の魔族がいた。
彼らは、壁や棚に飾られている武器や防具を品定めしている。だが、ここから選ぶってのは随分時間がかかりそうだ。
なぜなら、2方の壁一面が武器の類で埋め尽くされており、中央には鎧などの防具が何列も陳列され、棚にはその他の装備品が丁寧に飾られているのだ。多すぎて途方に暮れてしまう。
商品を見やる客に混じって、灰色の作業服を身に着けている女がいた。彼女は店の奥、何個かのかまどが配置されているスペースで何やら忙しげに動いている。どうやら彼女は店の従業員のようだ。
リリアンナは彼女を見つけると、トコトコと近づいて行った。商品には見向きもしない。
作業服の女もコチラに気付いたらしく、笑顔で片手を上げた。
日に焼けた肌。鋭い目つき。そして真っ赤な髪を後ろで束ねている。どこか勝気な感じが察せられる。
「久しぶり、リリアンナ! で、そっちのは?」
女は俺に視線を向ける。
「彼はダーティさんですぅ。レーミア様の新しい部下ですぅ」
今日何回目の台詞だろうか。
「ダーティさん、彼女はリフリーヌさんですぅ。サラマンダーで、この店の武器と鎧などを作っている方ですぅ」
「――って事だ。よろしくなダーティ!」
リフリーヌは明るい笑顔を浮かべる。
「ポッ……よ、よろしく。仮面は外せなくてすまんな」
現数力でステータスを確認しようとしたのだが、仮面が邪魔して鼻を抓めない! 何たる不覚!
「いや、いいんだよ。そっちの事情もあるだろうからさ……それより、例のモノを受け取りに来たんだよな?」
リフリーヌの問いにリリアンナは頷いた。
「オッケー。ちょっと待っててな……おーい、タリア! 例のモノを頼む!」
別室の扉に向かって彼女が叫ぶと、中から下半身が馬、上半身が女性の魔族が出てきた。手には布に包まれた何かを持っている。
紹介されなくてもわかる。この女性はケンタウロスだ。間違いねぇ。
いて座だった俺としては親近感が湧く。
「ダーティ、紹介しよう。この娘はケンタウロスのタリアだ。タリア、こちらはダーティだ」
俺たちは互いに会釈した。
タリアは茶色の髪を軽く掻き上げると、突然、俺に急接近してきた。
わっと驚く俺を余所に、タリアは俺の巫女忍者服を手でベタベタと触ってくる。もう! 何なの!
「わっー! これ、リリアンナが作ったの? 良くできてるねぇ!」
タリアの言葉にリリアンナは嬉しそうに頷いた。
「そうですぅ! 結構難しかったのですが――」
「はいはい、それは後! レーミア様のつかいできたんでしょ?」
リフリーヌはそう言って、タリアから布の包みを取り上げ、リリアンナに手渡した。
「確認、お願いね?」
リリアンナはそっと布の包みを開いた。
こっそり覗き込んでみると、アレは……短剣か?
リリアンナは包みをすぐに閉じて手提げの袋にしまったが、あの銀色の物体は間違いなく短剣だった。何か特別なモノなのだろうか?
「わざわざ来てくれなくても、こっちからお届けしたのに」
リリアンナは首を振る。
「いいんですぅ。リリアンナも久しぶりに魔都に来てみたかったので」
「そう、ならいいんだけど。それで、支払いは?」
「硬貨でお願いしますぅ」
「はいよ。じゃあ、金貨2枚と銀貨5枚ね!」
それを聞くと、リリアンナは手提げ袋からさらに小さい袋を取出し、中から硬貨を取り出した。
へぇ、硬貨を使ってるんだなぁ。何か意外だ。
「はい、ちょうどね。まいどあり~! で、どうする? まだ見ていくかい?」
リリアンナは袋を仕舞い込みながら首を振った。
「このダーティさんに魔都を案内するんですぅ。また今度来たとき、ゆっくりさせてもらいますぅ」
リフリーヌは頷き、俺に視線を向けた。
「魔都はおもしろいところだよ。楽しんできな!」
「うん、ありがとう」
俺とリリアンナは店の出口へと向かった。
「レーミア様によろしくな!」
「また遊ぼうね、リリアンナ!」
2人に見送られながら、俺たちは外へと出た。
俺は振り返って、店の看板を見る。
リフリーヌとタリア……。
なるほど、2人合わせてリフタリアか。




