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「いやいやいや、君はバカかぁー! 落ちるやないかぁー!」

「ね、ねぇ、このロープウェイって本当に大丈夫? 壊れたりしない?」

「だからロープウェイじゃありません、【天の蜘蛛糸】ですぅ。もちろん大丈夫に決まってますよぉ!」


 俺は頭上の白い糸を見上げた。太陽の光を受けてキラリと輝きを放っている。その細さは頼りなげに見えるのが普通だろう。ましてや、


「ねぇ、【天の蜘蛛糸】って事は、これは蜘蛛の糸なの?」


 そう言って上の糸を指す。リリアンナもつられて見上げる。


「そうですよ」

「ちょ! マジで蜘蛛の糸!? いやいやいや、耐えられるわけないやないかぁー!」


 俺は両手で籠の縁を掴む。


「もう、ダーティさんは心配性ですねぇ! いいですかぁ? この糸はですねぇ、金剛蜘蛛の糸なのですぅ。この世で破壊不可能と呼ばれる特別な素材の1つなのですぅ!」


 リリアンナが得意げに力説する。

 でも、ようわからんな。


「まだ納得してないようですねぇ。だったら……ほら! こうしても大丈夫!」


 そう言うと、彼女は籠の中でピョンピョン飛び跳ね始めた。

 糸と籠が軽く揺れる。地上の魔都から数百メートル上空で、だ。


「いやいやいや、君はバカかぁー! 落ちるやないかぁー!」


 はしゃいで飛び跳ねるリリアンナの肩を俺は懸命に抑えつけようとする。だが、彼女はスルリと俺の腕をすり抜ける。


「キャハハ! ダーティさんもご一緒に!」


 ポニーテールを振り動かし、再び飛び跳ねる。

 さすがの俺もふざけている場合ではない。


「こぉのっ、小悪魔っ娘がぁ! もう許さんぞぉ!」


 俺はリリアンナの体に抱きつき抑え込む。


「きゃ! きゃ! どこ触っているんですか、ダーティさん?」


 彼女は喜んでいるのか、嫌がっているのか、俺の腕の中でさらにはしゃぎだした。


 後ろで束ねた髪が俺の鼻をくすぐる度にいい香りがする。


「ちょ! マジで暴れないで、お願い! 何でもするからっ! ね?」

「だから大丈夫ですってばっ! そんなに揺れてないですぅ」

「いやいやいや、そんなわけ……って、ホントやないかぁー!」


 あんなに動きまくったのに、軽く揺れる程度だ。

 リリアンナの言っていた事は本当なのだろう。でも、だからと言って、あんなに暴れて脅すのは許せん!


「……さんざん俺をビビらせたんだ。ぬへへ、お仕置きしてやるぜ! コチョコチョ」

「きゃ! きゃ! くすぐったいですぅ!」



 イチャイチャタイムが落ち着いた時、籠はやっと半分くらい降ったところであった。


「あ、見てください、ダーティさん!」


 リリアンナが魔都の外れの空を指す。

 その方向を見てみると、厚い雲の下に虹が出ている。


「おぉ! 虹が出ているね。綺麗だなぁ! 俺ってさ、意外とロマンチストなんだよねぇ」

「虹自体はどうでもいいです。良く見てください」


 何だってんだ?

 俺は目を凝らして見てみると、何かの集団が雲の下辺りで飛んでいる。

 アレは――


「鳥人か?」

「そうですぅ」

「あいつら何やってんだ? 虹の下のお宝でも探してんのかい?」


 鳥人は全部で9体。

 4体が雲の下で大きな網を広げて構えている。

 別の4体は同じく網を持っているが、広げてはいない。彼らは残りの1体に視線を送っている。おそらくアイツがこの集団のリーダーなのだろう。


 リーダーの鳥人は何やらジェスチャーを使って視線を送っていた鳥人たちに合図した。

 すると、2体の鳥人が勢いよく雲の中に突っ込んで行った。網がスルスルと雲の中へと入って行く。残りの2体は雲の下で踏ん張っていたが、リーダーが合図すると、彼らも雲の中へと入って行った。


 雲の下ではリーダーと網を広げている4体がジッと待っている。

 

「いったい何が始まるんです!?」

「ちょっと黙って見てるですぅ!」


 怒られちった……。


 視線を戻すと、雲の表面が蠢き始ている。

 そして、雲の中から何かが大量に落ちてきた。

 ここからでもわかるくらい鮮やかな虹の色を放っている。


「あれってもしかして……?」

「そうですぅ。あれは七色魚を漁獲しているのですぅ」


 雲の中からまるで雨のように七色を放つ魚が降ってくる。

 そして魚たちは下で構えられた網の中へどんどん入って行く。


「空の上に魚?」

「"虹雲"には必ず七色魚がいるのですぅ」

「"虹雲"?」

「はい、他の雲とは違う特別なモノなのですぅ。何でも虹雲の中は特殊な光で満たされていて、外の光を一切寄せ付けないのだそうですぅ」

「へぇー」

「その特殊な光のせいで、雲の表面や七色魚の鱗は虹色を放っているのですよぉ!」


 得意げに話すリリアンナ。


「なんだかとても説明口調だけど、誰かの受け売りだったり?」

「ギクッ!……レ、レーミア様ですぅ」

「あぁ、なるほどね」

「で、でも、これだけ覚えていたリリアンナもすごくないですかぁ?」

「はいはい、すごいねー」

「あー、適当な返事ー!」


 俺は再び漁獲の様子を眺めた。

 雲から網へ落ちていく最中、魚たちは赤、黄、紫と色を変化させていく。

 先程、雨のようにと例えたが、うん、これは光の雨だ。とても幻想的で目を奪われる。


「あの鳥人たちは七色魚捕りのプロ、通称【ナナイロ漁師】ですぅ。彼らは虹雲を求めて中央大陸を飛び回っているのですぅ。虹雲がこんな魔都の近くに出るなんて滅多にない事なんですよ?」

「そうなんだ……」


 あの魚たちの運命はわかりきっている。

 だとしたら、あの虹色の光は命の最期の輝きを懸命に放っているのだろうか?

 最期だからこそ、悔いのないよう光を放ち、あんな光の雨を作り出しているのか?


「気に入っていただけましたかぁ?」


 見ると、リリアンナがニッコリと微笑んで小首を傾げていた。


「うん、素晴らしいよ」


 これは正真正銘素直な気持ちだった。


 なんせ俺は、ロマンチストだからな。


 



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