「触手だけはっ! 触手だけはお止め下さい!!」
「ぎゃあああああぁぁぁぁ!!!! ミニマム・ンパ様ぁ!! 触手だけはっ! 触手だけは勘弁くだせぇ……」
俺は小さな邪神の前に跪き、懇願した。
ンパ様はそんな俺を呆れたように見下ろしている。
今のンパ様を説明するのは難しい。
まぁ、例えるなら、サッカーボールがグロテスクなスパゲッティで覆われている感じだ。
その中心部には金色の目玉が1つ、そして後ろにはコウモリのような翼が生えていた。
ンパ様はパタパタとその翼を羽ばたかせている。
『いきなりなんなんだ、お前は?』
「あ、いえ、あの……」
答えに詰まった俺を無視して、ンパ様は話を変えた。
『それより無事に転生できたようだな。しかし、お前、その身なりはどうにもできなかったのか?』
「急な出来事で、逃げ出すので精一杯でした……って、そうだ! ンパ様、俺、赤ん坊から急に大人に成長したんですよ! カップラーメンよりもお手軽ですよ!」
『落ち着け……』
ンパ様は触手1本をヒラヒラと振って俺を制した。
『お前を急成長させたのは私の力だ。赤ん坊から自由に動き回れるまでは時間が掛かるからな。そこまで悠長に待つつもりはない』
「な、なるほど」
『お前、他にも不思議に思った事はないか?』
他にも? あ、あれかな?
「そう言えば、日本語でした! 母や他の村人が日本語を話していました!」
『そう、それだ。今さら、異世界言語をイチから学ぶのも大変だろうと思ってな。自動翻訳の術をお前の体に植え付けている。発せられた言葉は日本語に聞こえ、書かれている文字も日本語に映るぞ』
すげぇ……。
バベルの塔よ、救いはここにあったぞ。
まぁ、それは置いといて、俺は先程から気になっていた事を尋ねてみた。
「……あの、何でそんな小さいお姿に?」
ンパ様は例の金切り声を上げる。
『お前の転生体に精神の一部を憑依させていた。今の私はただの精神体だ。私の姿は他の者には見えていないし、私自身はお前を監視する以外何もできない』
監視って……。
ずっと見られているのか?
えー、さすがにそれは嫌だなぁ……。
てか、精神体? 今のンパ様って無力じゃね?
『私がこのような姿でいる事こそがお前を転生させた理由なのだ』
ンパ様は話を続ける。
「それは一体?」
俺は先を促した。どうやら、ここからが本題のようだ。
『私はこの世界が欲しい。私の力を持ってすればこの世界を侵略する事は容易い。だが、私が直接この世界に介入する事はできない。それは、この世界がある秩序に支配されている為だ。その秩序を網の目と例えるなら、私のような強大な力を持つ者は大きすぎて通り抜ける事ができないのだ』
「……はぁ」
呆けた返事をする俺。
ンパ様の言っている事がわかるようなわからないような……。
そんな俺を余所に、ンパ様は話を続けた。
『だから、私は考えた。網の目を抜けられる僕の魂を転生させてしまおうとな。この世界の住人として生まれてしまえば、秩序から拒絶される事はない。障害なく行動できる工作員の出来上がりだ』
「……ふぇ」
『つまり、お前にはこの世界の情報収集と秩序の破壊工作をやってもらう』
「……ほぇ」
『……聞いているのか?』
「はぁ……あ、はい。聞いてますよー」
正直どうでもいいよなぁ。
今のンパ様はただの精神体。確かに強大なオーラは残っているが、俺に直接手出しができないだろう。なら、恐れる必要なくね? 従う必要もないよね? 邪神なんて放っておいて、このまま異世界ライフを楽しむのもアリかな。
『反抗的な態度を感じるな。また、罰が必要か?』
「ふぇ……え!?」
罰!?
でも、ただの精神体なのに?
『己が立場を弁えよ』
ンパ様はその言葉と共に、自身の身体を覆っている触手で俺の身体を絡め取った。
サッカーボール程度の大きさなのに、触手は俺の全身を覆うほどに伸びていた。
「いやああああぁぁぁぁぁ!! しょくしゅうううううう!! ん、ンパ様ぁ! 反省しております!! 自らの立場を弁えますので、お許しくださいいいい!!!!」
『ダメだ。罰はキッチリ受けてもらう。私の従順な僕となるまで止めないぞ』
「いぃぃやあああああぁぁぁぁぁ!!」
触手による罰は体感的に2時間くらい続けられた。