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異世界侵略っ!? ~魔人転生した俺は、邪神様の為に今日も働くのだ~  作者: 一本坂苺麿
第2章 ゴブリンのゴブリンによるゴブリンのための戦い
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「ゴブリンのゴブリンによるゴブリンのための戦い」

「君たちは本当に醜い種族だな」


 その言葉がゴブリンたちの思考に染み渡ると同時に、彼らは抗議の怒声を上げ始めた。

 すかさず護衛の者たちが抑え込もうとする。

 シャーナが非難がましくコチラを睨んでいた。「余計な挑発をして」と目で訴えている。それを無視して、俺はさらに声を張り上げた。


「だってそうだろ? クラムギール王はゴブリンの将来を考えて行動して来たのに、君らの仲間はどうだ? 考えなしに暴れまわる始末だ。オマケに自分たちを虐げてきた高魔族に戦いを挑むならまだしも、彼らが襲ったのは立場を同じくする低魔族たちじゃないか。このような事をする者たちを醜いと呼ばずして、何と呼ぶ! 言っておくが、その行動を許した君たちも同じだぞ!」


 広場のゴブリンたちの視線は全て俺に注がれている。

 よし、順調だぞ。

 まずは処刑という精神的負荷を与え、次に絶望的な状況を打開するヒーローが現れる。

 だが、その俺が自分たちを徹底的に侮辱してきたら? 彼らは嫌でも俺に集中してしまうだろう、と考えたの。


「ふざけんな仮面野郎! 大体お前は誰なんだよ!!」

「そうよ! 誰かもわからない部外者にそこまで言われる筋合いはないわ!」


 ゴブリンたちも怒鳴り返す。


 いいぞ、もっと言ってこい。

 もっと感情を昂ぶらせろ!


「あぁ、そうだ! 俺はただの部外者だ。俺が何者かなんてどうでもいい。この舞台の主役は君たちゴブリンだ!」


 ちょっとクサイ台詞だな。


「しかし、俺はクラムギール王の最期を見た! 彼の思いを聞いたんだ。ならばここで少しくらい発言してもいいんじゃないだろうか? いや、発言しなければならない!」


 まぁ……これくらいクサイ方が彼らにはストレートに伝わると思う。

 自分で言っておいて何だが、くどすぎて胃もたれ起こしそう……。


「いいか、彼はな、最後の最後まで君たちゴブリンたちの将来について考えていたぞ! いつの日か、ゴブリンが対等に扱われる日が来るよう努力していた! その為に危険を冒してまで行動していた。その全てがゴブリン全体の為なのだよ」


 騒いでいたゴブリンたちが次第に静かになっていく。

 クラムギール王の事となると、みんな真剣に耳を傾けているようだ。

 本当に尊敬されていたんだな、あの王様。まぁ、この俺にムカデを食わせましたけどね。


「彼の想いを無下にしていいのかね? 君たちにもこれからできる事はあるんじゃないかね?」


 俺の問い掛けに手前のゴブリンが苦い顔で反論した。


「……だが、あの方はもういねぇんだ。俺たちの希望は潰えた――」

「だまらっしゃい!!」


 いいぞぉ! 「希望は潰えた」その台詞を待っていたんだ! よく言ってくれた!


「希望は潰えただと? 寝言は寝ていいやがれ!! ここにおられる方が君たちには見えないのか!」


 俺は背後のセティを指し示した。

 広場のゴブリンたちの視線が突然の指名で狼狽えている王子に向けられた。


「ここにはセトグール王子がおられる!」


 ここは強調して言っておこう。本当の主役、セトグールの登場だからな。


「このセトグール王子は父の遺志を継いでいる。彼は西方将軍の下で働いていたのだ。もちろん彼に対して蔑みの視線を向ける者がいた。心無い中傷をする者がいた。時には暴力も振るわれた。だが、彼は歯を食いしばって耐えた。それはなぜか? 君たちゴブリンを地位を向上するためだ! 働きを認められて、少しでもゴブリンに対する評価を覆す為に、だっ!」


 腕を上下左右に振り回す。派手なジェスチャーがこういう場面では有効だって何かの本で読んだぞ。


「彼が苦しみに耐えている間、君たちは何をしていた? ここで燻り続け、一部の者たちは勝手に爆発し、わがままに他者を襲う。それで恥ずかしくないのか? 彼に申し訳ないと思わないのか? 自分たちの誇りは傷つかないか?」


 勢いよ、勢い。正しさとか、筋が通っているとかより、今は勢いが大事なのよ。

 彼らに冷静に考えさせるな。場の空気を掴み続けなきゃ。


「……俺たちに、誇りなんかあるもんか」

「私たちは低魔族の中でも虐げられてきた。今さらどうにかできるとは思えないわ」


 広場のゴブリンたちは口ぐちに悲観的な言葉を発する。まぁ、予想通りだ。

 ここからは彼らを持ち上げていくターンだ。もう上げて上げて、アゲアゲよ。


「いいや、それは違うぞ。君たちは他の種族にはない誇るべきモノを持っている」


 ここで一瞬間を空ける。


「君たちは非常に団結力がある種族だ。仲間の為に犠牲を厭わない誇り高き種族だ」


 ちょっと誇張しているけど、概ね事実でしょ。


「俺は見てきた。クラムギール王は配下の者たちを想い、配下の者たちは王を想う」


 まぁ、魔王を侮辱したヤツを殺してたけどね。それも突き詰めればゴブリンの為なわけで……。


「自分の仲間が危機とあらば、将軍にさえ立ち向かう勇敢なる種族。それが君たちゴブリンじゃないのか?」


 ここで俺は爽やかな笑みを受けべて、両手を広げた。

 背後で、


「あの胡散臭い笑みは何なのかしら?」

「ダーティさんはいつもあんな顔ですよぉ」

「そうだったわね」


 などと言うレーミア様とリリアンナの会話が聞こえたが、気にしない……。

 

 広場のゴブリンたちは見るからにその顔を輝かせ始めている者もいる。

 まじ、チョレエエエエエエエエエエエエェェ!!


「……高魔による差別行為で、いつの間にかその誇りを失っていたか? いいさ、また立ち上がればいい。前を向いて堂々と突き進めばいい。君たちにはできる」


 ゴブリンたちは力強く頷きだした。

 まじ、チョレエエエエエエエエエエエエェェ!!


「彼はそうしている。君たちにも彼を支えてやるくらいはできるんじゃないか?」


 俺は再びセティを指し示す。


「現魔王の実力主義は君たちが認められる又とないチャンスだ。いいか、俺は別に魔王様の為に戦えとは言っていない」


 高まる高揚感が手に取るようにわかる。ゴブリンたちは完全にノッてきている。

 まじ、チョレエエエエエエエエエエエエェェ!!


「君たちは自分自身の為に戦えばいいんだ。そうさ、君たちが今後行うべきは――」


 俺はわざと間を空け、


「そう、"ゴブリンのゴブリンによるゴブリンのための戦い"なんだ」


 高らかに宣言してやった。


「うぉー! うぉー! うぉー!」


 まじ、ウルトラハイパーエクストリームチョレエエエエエエエエエエエエェェ!!

 ゴブリンたちはついに歓声を上げやがった。広場全体がやかましい。地響きさえ起こっているように感じる。

 

 いやぁ、パクってすまんな、大統領。

 だけど、上手くいった。簡単すぎて拍子抜けするわ。

 チョロい、チョロすぎる。ギャルゲーのヒロインのよりもチョロいわ! ゴブリンルート完全攻略だぜ。


「俺が言いたいのはそれだけだ。後は、このセトグール王子が伝えたい事があるそうだ」


 俺はそう言うと、舞台後方へと下がり、セティの前に立つ。


「さぁ、お前の気持ちをありのまま伝えてやんな。今のあいつらマジでチョロ――すごく前向きだからさ、きっとお前について来てくれるさ」


 セティの顔はキリッと引き締まっていた。そこには惨めさなど微塵も感じさせない。


「ありがとう、ダーティ、私は――」

「んな事いいから、あいつらのところに早く行ってやれ!」


 セティは何か言いたそうだったが、言葉を飲み込み、広場のゴブリンたちの前に立った。


「みんな聞いて欲しい、私は――」


 セティの話を聞きながら、俺はレーミア様の横に立った。


「期待させておいて、とんだ茶番を見せられたものだわ」

「はは、これは手厳しいですね」


 彼女は呆れたように頭を振った。


「ゴブリンが犯した罪は決して許されないわ。2つの種族に損害を与えたのだからね」


 俺は肩をすぼめた。


「俺だって彼らを許すつもりはありませんよ」

「へぇ?」

「あくまで俺はセティ、セトグールの為に動いたまでです。ゴブリン族自体には興味ない」

「随分と友達想いなのねぇ」


 俺たちは前方のセティに目を向けた。彼は懸命にゴブリンたちに語りかけている。


「リリアンナは処刑よりもこっちの方が好きですよぉ」


 リリアンナが話に入ってきた。目を擦っていたので少し赤みがさしている。


「だよねぇ、リリアンナちゃん。あ、あの王冠はどこにあるんだい?」


 リリアンナはゴソゴソと懐を探り、大きな袋を取り出した。何でそんなところから出てくるんだよ……。


「はい、ダーティさん!」


 俺は袋を受け取ると、中身を取出した。

 銀色の王冠は雫のような輝きを放っている。


「そろそろコレの出番ですよね?」


 レーミア様に問い掛けると、彼女は頷いた。


「もう処刑できる雰囲気ではないものね」


 そして拘束されたゴブリンを指す。


「奈落の迷宮には堕ちてもらうわよ」

「えぇ、それはもちろん」


 俺はそう言ってセティの元に歩み寄ろうとした。だが、


「ダーティ、お前が考えている以上に魔族社会の格差は深いモノよ。セトグールは必ず絶望する事になる」


 レーミアが背後から語りかけてきた。

 俺は振り返り、


「そのときは再びこの俺が参上するまでですよ」


 セティの横に立った俺は王冠を掲げた。


「すまんな、格式の事はようわからんのだ。てなわけで、今からあなたが新たなゴブリン王だ。さぁセトグール王よ!」


 俺は王冠をセティの頭にやさしく被せてやった。

 その瞬間爆発的な歓声が湧き起り、ゴブリンたちによる割れんばかりの拍手に包まれた。


「ありがとう、本当にありがとう!」


 セティの顔は今まで見た事がない明るい表情に包まれていた。


「おう!」


 俺は一歩後退して、一緒になって拍手を送った。

 

 セティは広場のゴブリンたちに手を振っている。

 その様子を見ながら俺は思う。


 この場に相応しいのは、斧の鈍い光よりも王冠の美しい輝きだよなぁ……なんてね。




2章はこれで終わりです。

次回からは閑話を挟んで、第3章「短剣と伐士団」を投稿していきます。

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