「彼女こそが俺たちが捜し続けていたセイレーンなんだよ」
「私が何をしたと言うのです?」
イーティスは挑むように俺を睨みつけている。
「魔王軍として反乱分子であるあなた方を討伐しに来た。それだけのことです。私の攻撃は正当です」
まぁ、当然の反論だな。
「とぼけないで欲しいね。今の襲撃のことじゃないんだよ。これまで君がしてきたことが問題なんだ」
「は?」
イーティスは苛立たしげに聞き返してくる。
「君こそが、これまで影でコソコソ暗躍してきたセイレーンなんだよね?」
瞬間、彼女の眼が大きく見開かれる。
「私が、セイレーンッ!?」
イーティスは、それまで見たことがない程動揺していた。もう認めているようなもんじゃん。
「頭がおかしいのですか!? 私はハイエルフです! あんな下等なーー」
「その羽はセイレーンのだろ?」
「これはっ!」
「とりあえず、ここから離れるよ」
睨みを効かせながら抗議するイーティスを俺は魔手羅を使って抱え上げた。
「なっ!?」
「このままここにいたら魔王軍の連中と鉢合わせしちゃうからね。移動しながら話そうか」
まずはファントムたちと合流してここから脱出しないとな。彼女への追求はその後だ。
「まずね。俺さ、見ただけで相手の情報を知ることができるんだよね。使える魔鬼理や魔力量、それに種族……」
「そんな話、信じられるわけがない」
「でも実際見えるからねぇ」
洞窟内を進みながら、彼女に視線を向けて現数力を発動する。
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イーティス 153歳 女 レベル:664
種族:ハーフエルフ(ハイエルフ×セイレーン)
イーティスの頭上に青い文字と数字で彼女の情報が表示される。
「君は、ハーフエルフなんだろう? ハイエルフとセイレーンの」
「っ!?」
ほんと、現数力使えば簡単だったのにな。
振り返ってみれば俺は彼女にとって都合の良い行動ばかりしていた。それの理由には心当たりがあるんだが……
「マスター、すいません。魔王軍がやって来ました」
俺の思考はプリマスからの連絡によって遮られた。
まぁ、そろそろ連絡が来る頃だとは思っていたがな。
「わかった、プリマス。お前はーー」
プリマスに次の指示を出そうとした時。
「待ってよコレ、どういう状況?」
不意に聞き慣れた女性の声。
むむ、こんなタイミングで鉢合わせするなんて。
「やぁ、シャーナちゃんにセリスちゃん。早かったね」
警戒した様子でコチラに視線を向けているのは、顔馴染みのダークエルフ姉妹たちだった。
「プリマス、彼女たちを見逃していたな」
「申し訳ありません」
「しゃあねぇ。彼女たちの隠密スキルは侮れんってことだ」
とりわけ"音"に関しちゃエルフには敵わない。確かエルフの長耳って設定は草食動物を模しているって聞いたことがある。彼女たちは音には敏感だし、またそれを利用するのも長けている。そしてなによりハレンチだ。
「プリマス、接近中の魔王軍たちのことをそのまま注視してくれよ」
「了解です」
プリマスにそう指示していると、シャーナに肩を掴まれた。
「ちょっと! 誰と話してんのよ?」
「心の友さ」
あんま時間がないから、おふざけは無しだ。
「そんなことよりも。出会い頭で攻撃されてないってことは……敵認定されてないってことでOK?」
そう問いかけると、セリスが溜息を吐きながら俺のことを睨んでくる。
「私としてはボコボコしてやりたいけどね」
怖っ!
縋るようにシャーナの方に向き直るが、こっちもあまり機嫌が良くない。
「姉様を怒らせたお前が悪いわ。それで、なんでコイツをとっ捕まえてんのよ?」
魔手羅で抱え上げられているイーティスを示しながら彼女が問いかけてくる。
「あぁ、彼女こそが俺たちが捜し続けていたセイレーンなんだよ」
俺が指し示しているイーティスに目を向けたダークエルフ姉妹たちは揃って首を傾げる。
「は? なんでイーティスが?」
「説明したい所なんだけどさ。あまり時間がないんだよね。移動しながら話そうーー」
すると再びプリマスの声が耳に響いてきた。
「マズイですよ、マスター」
「魔王軍の連中に何か動きがあったのか?」
「はい。ファントムさんたちの方に向かっています」
うげ、モタモタしすぎたな。けど、一般の魔族兵士程度であればそこまで脅威ではないけども。
「将軍クラスがいるんだな?」
「はい……トゥーレ将軍です」
「マジか……」
レーミア様と同じ北方四将のオーガ。ベルトールなんかとは強さの格が違う。
このままじゃ確実にファントムたちがやられちまうぞ。




