「やっぱり君だっんだな」
さてと。
どうやって仕掛けるかね?
魔王軍の連中もそろそろ来るかもしれないし、ゆっくりとはしてらんねぇわな。
しかし、音の攻撃ってのは厄介だな。
目で見えないし、聞こえた時には既に手遅れだ。
俺はダークエルフの魔鬼理《風鎧》を体の周囲に展開した。とりあえずは何もないよりはマシだろう。
さらに、オーガのバフ技《鬼流》を再度使って感覚を研ぎ澄ます。
攻撃の予兆を見逃さない。
瞬間、視界が明るくなりだす。
俺は急いで目を閉じ、聴覚に集中する。
ブーンという振動音が右手前方から聞こえた。
俺は咄嗟に左側に避けて風の刃を放った。
岩壁が砕ける音がする。どうやら外したらしい。
だが、対応できている。
さっきの振動音はおそらく攻撃前の予備動作のようなモノだろう。その音の発生源を辿ればヤツの居場所がわかるはずだ。
そう考えている内に再び洞窟内が光に包まれ始める。
俺は目を閉じて、振動音を探した。
今度は背後から聞こえる。
振り向きざまに火球を放つ。攻撃が飛んでくる前にコチラから仕掛けたかったからね。ところが、後ろから予想外な音の攻撃を喰らわされた。
いや、待てや。
なんでそっちから飛んでくるんや?
そうこうしている内に前後左右あらゆる方向から音攻撃が飛んできやがる。
実は複数人いる?
うーん、違うな。
あ、そうか!
ここは洞窟内だから音が反響してるんだ。だから、あらぬ方から攻撃が飛んできたわけだ。これは相手にとって有利な状況じゃないか。
けど、精度は落ちているように感じる。急所に直撃ってことはないからね。これなら対応できなくはなさそうだ。
そんなことを考えているうちに再び予備動作の音が聞こえ出した。とにかく目を閉じて対応だ。
と、不意に肩の辺りに焼け付くような痛みが走った。
《貴光閃》
頭の中に技の名が浮かぶ。肉体学習が働いたんだ。今のは別の魔鬼理を使われたらしい。
光はただのフェイクじゃなく、攻撃としても使えるってわけかよ。
さらに弦の鳴る音が聞こえ、腰辺りを切り裂かれた。
光と音。
面倒だが、どっちの攻撃にも備えなきゃならないな。
となると、この場所はあんま良くないかな?
広い場所よりは狭い通路の方が攻撃範囲が狭くなって予測しやすくなる。その分威力は増しそうだけど、喰らわなけりゃいい。
それと、この襲撃者の能力についてなんとなくわかってきた気がする。
ヤツはかなり正確にこっちの位置を把握できているわけだけど、おそらく音でこっちの場所を把握しているっぽい。ソナー的な。
あと、こいつは光を操作できるわけだから、姿を透明にしているのかもしれん。俺とファントムがいて、存在に気がつかないなんて異常だもんな。
こうして考えると、なんとも厄介な相手だ。
だけど、俺は肉体学習でこいつの魔鬼理も使えるようになっているんだ。意表を突くこともできる。タイミングが重要だけどさ。
何にしてもまずは場所替えだ。このまま不利な地形に佇んでいたらただの的だ。
《獄王の指輪》!!
浮かび上がらせた岩石群を四方に飛ばす。
そしてファントムたちが向かった方とは別のトンネルに駆け込んだ。
背後からは予備動作音が聞こえる。
よし、ちゃんとこっちに来ているぞ。
光がトンネル内に溢れ出してくる。まずは光撃を警戒だ。
俺は地面に手を突いた。
土奴ウ《覇威土・壁》!!
地面が盛り上がり、俺の前に簡易的な壁ができあがる。これで光を少しは遮れる。あんま保たないだろうけど。
次は音の攻撃が来る。
その前に先手を打つぜ。
壁に隠れながら魔手羅を展開する。スライム状にした魔手羅の中にいくつも蒸気砲を放ち、魔力を込める。そして膨らんだそれらを切り離す。蒸気入スライムボールの完成だ。
これらを土壁の向こう側に投げ込んだ。
辺り一面蒸気だらけになる。
透明になっているであろう襲撃者を、これで浮かび上がらせるのが目的の一つだ。
土壁の向こう側にぼんやりと人型のシルエットが見て取れた。腰の周辺がとりわけ揺らめいている。再度音の攻撃を放とうとしているらしい。
もう喰らってたまるか。
《貴光の鳴弦》!!
襲撃者と同じ魔鬼理を行使する。
俺の魔手羅が弦を無数に張った羽の形になり、振動音を発生させ始めた。
ノイズキャンセリングとかあったなぁって思ってさ。
ヤツの音とは逆の波の音を飛ばせば打ち消せるかなって思ったんだ。
どうやら上手くいったようだ。
光の中、蒸気が激しく揺れ動く場所がある。不意を突かれたので、慌てて後退しようとしている。そうはさせるか。
スライムボールを使ったもう一つの目的。
それは、襲撃者を捕らえる為だ。
遠隔起動《粘水捕縛》!!
切り離した魔手羅でも、魔力さえ込められていたら動かすことができることに気がついていた。魔奴ウゴーレムをシンプルな動きに特化させてみたって感じかな。特にスライム体術はシンプルで相性が良い。
それに、相手としては派手に吹き出した蒸気の方に気を取られ、器のスライムボールのことなど意識していなかっただろう。
複数のスライム触手が一見すると何もない虚空に絡みつく。
「なっ!?」
驚きの声と共に襲撃者の姿が次第に露わになっていく。
女だ。
腰の辺りにセイレーン特有の一対の羽のようなモノが生えている。
そして豊かな金髪に尖った耳……
「やっぱり君だっんだな」
スライムの触手に拘束された彼女はなす術もなく俺のことを睨みつけている。
「イーティスちゃん」
北方四将フェムートの部下、ハイエルフの彼女こそが謎のセイレーンの正体だったんだ。




