「ゴブリン勢VSスケルトン勢。世紀の魔物バトルやね」
ワイバーンの鞍上、俺たちの間には重苦しい雰囲気が漂っている。
それは、前方に見えてきたスケルトン領から黒煙が漂っている為だろう。時々赤い光も見える。ゴブリンどもの魔鬼理によるモノに違いない。
空はいつの間にか厚い雲で覆われており、さらに不安を募らせた。
「……えぇ、わかったわ。もうすぐ着くから」
ミカラは見えない誰かと会話している。彼女たちダークエルフが使う風の魔鬼理によるモノだ。
「今からあのあたりに降りるわ。そこでセリスたちと合流するの」
彼女は真下にある林を指した。
そこからなだらかな斜面を降り切ったところ、広い盆地になっているのだが、そこを中心とした一帯がスケルトン領らしかった。
ワイバーンはゆっくりと林のすぐ近くに降り立った。
俺たちが下りると、ワイバーンは地面に這いつくばった。どうやらここから動くつもりはないらしい。
「ちょっと、ワイバーンは一緒に戦わないんすか?」
俺は林に分け入って行くミカラに声を掛けた。
だってさ、ワイバーン強そうじゃん。ゴブリンの暴動を抑えるのにコイツの力もいるんじゃないの?
「ワイバーンは長距離移動の為に体力を温存しておく必要があるのよ。戦闘には参加させないわ」
答えてくれたのはミカラではない、林の奥からやってきたセリスであった。
てか、ワイバーンってタクシー扱いじゃないか! それでいいのか、翼竜よ……。
「ご苦労だったわね、セリス、シャーナ」
セリスの隣にはシャーナがいた。昨日と同じく長い銀髪を後ろで束ねている。
「そこのゴブリンがセトグール王子ね、そして……ダーティ? 随分と見た目が変わったわね? そんな顔してたんだ」
そうか、セリスたちは髪切る前の俺しか知らないんだったな。
俺は顎に手を当てた。
「惚れたっすか?」
「言ってろ、バーカ!」
シャーナちゃん、ひどい……。
「それで、状況は?」
ミカラが2人に問い掛けた。
「五分五分ね。ゴブリン約800体に、スケルトンが約1000体ってところ」
セリスが答えた。
「これからどうする?」
「まずは廃城の"リッチ"と合流しましょう」
セリスの提案にシャーナとミカラが頷く。
ちょい待ち、話についていけてない。
「あの、"リッチ"って誰ですか?」
すかさず話に割り込ませてもらった。
「骸骨の巫女よ。スケルトンは彼女が統率しているの」
答えてくれたのはシャーナ。
なるほど、つまり、スケルトンの女王的な存在か。
「まずは彼女と合流し、スケルトンたちと連携してゴブリンたちを食い止める、レーミア様が来られるまでね」
俺はセティを見やった。彼の表情は硬い。
「大丈夫か、セティ?」
「……はい。統率者として、同じ同胞として、彼らの行いを見過ごす事はできません! 私も戦います!」
その表情は硬いながらも強い意思を秘めていた。
お前は強いよ、セティ。いやマジで。
「その活きよ、セトグール。じゃあ行きましょう!」
セリスを先頭に俺たちは林の中を駆けた。
鋭い口笛を吹くセリスとシャーナ。すると、バイコーン2匹が右手の木々の間を縫うように走って来る。
「シャーナはダーティとミカラはセトグールと乗って」
「えー! またこいつと一緒に乗るの?」
セリスの指示にシャーナが不満下な声を上げる。
「わがまま言わないの! 時間がないのよ?」
「わかってるけど……」
俺はシャーナの横に並ぶ。
「まぁ、そう言わないでよ、シャーナちゃん。昨日ちゃんとお風呂入ったからさ、臭くないよ? ほら!」
「ちょ、ちょっと! そんなにくっ付いて来ないでよ!」
ウヒョヒョヒョ! やっぱ、シャーナちゃんはええなぁ! おいたんハッスルしちまうわい!
だがこの瞬間、俺はロイの事を思い出す。シスコンのロイ、厚い胸板の持ち主であるロイ。そういえば、あいつも別働隊として来てるんだったな……イチャイチャタイムはちょっと控えとこう。
俺たちはバイコーンに跨り、林の中を一気に駆けだした。
横にはミカラとセトグールが乗るバイコーン、そして後ろには宙を滑空するセリス。
「ちょ! セリスさんが宙に浮いてるよ!?」
前のシャーナに向かって声を張り上げた。
「風の魔鬼理よ。魔力の消費が激しいから普段は使わないの」
セリスの動きは優雅で、まるで踊っているようだ。
それにしても、ダークエルフの魔鬼理って強力じゃね? なのに彼女たちも低魔族なのか。
「林を抜けるわよ」
シャーナの言葉で、俺は前方に視線を集中させる。
最後の1本の木を通り過ぎると、眼前に広がるのは緩やかな斜面。そしてその奥底の盆地には大きな廃城に、いくつかの崩れかかった建物が密集している。ところどころに枯れ木が立っており、陰鬱な雰囲気のアクセントになっていた。このどんよりとした雲もいい。クラシックなオカルト要素満点だぜ。
だが、その雰囲気を塗りつぶすような黒煙が、曇り空へと昇って行く。
俺たちは林の端で立ち止った。
廃城の周辺、乾いた大地には数多くのゴブリンたちが手に武器を携えて、城の中へ入ろうと突進して行く。統率された動きではない。自らのしたいように暴れまわっているようだ。
そして、その暴れまわるゴブリンと対峙しているのは、動く骸骨たち……。
骨だけの体にボロ布を纏い、手には錆びついた剣や槍を握り締め、ゴブリンたちに立ち向かっていた。喧噪の音がここまで響いてくる。
スケルトンたちだ。こちらも数が多く、ゴブリンとスケルトン、あっちこっちで戦いを繰り広げていた。
「私、ステファニー! 見て! 探偵さんがあんなにたくさんいるわ!」
「お前、何言ってんの?」
女の子の声マネをする俺。それにツッコむシャーナ。
あぁ、ちゃんとツッコんでくれる、俺は幸せだ。
「ありがとう、シャーナちゃん!」
「はぁ? 頭おかしいじゃないの?」
うん、その反応や、良し。
「そんな事より、これってもう戦争じゃない?」
「いやいや、この程度は戦争とは呼べないわ」
シャーナが苦笑する。
マジ? こんな規模なのに?
見ろよ。大勢のゴブリンとスケルトンが戦っているんだぜ?
ゴブリン勢vsスケルトン勢。世紀の魔物バトルやね。




