「魔手羅の特性って何?」
王都の自室にて、俺はポーと水報板越しに連絡を取っていた。
『例の連絡が取れなくなった研究所について新たに情報を得ました』
そういえば、ヨム博士と接触する前にポーが言っていたな。
気になった俺はその研究所の情報を集めてくれるよう彼に頼んでいた。
『どうやら魔族の襲撃を受けたらしいのです』
「マジ? それって魔王軍か!?」
俺の問いかけにポーは首を振る。
『わかりません。もし、魔王軍だったとしたら、どの部隊なんでしょう?』
「うーん」
まぁ、おそらくアーリルフ将軍のヤツらじゃないかと思うんだがな。前にも色々とやらかしているわけだし。
問題は、その襲撃した連中が合成魔人研究所であると知っていたかどうかだ。
研究所はゴーレムの警備もあるから並みの魔族だけじゃ制圧できなかったはず。
それなりに実力がある連中が、合成魔人のことを知っていて襲撃したのだとしたら……
「良くないことが起こりそうだな。ポー、引き続き情報を集めてくれ」
『わかりました』
ポーとの連絡を終えた俺は部屋から出た。
さてと。
今から我らが王女様のところに向かわねばならぬ。
こんな時に限って遠出の予定が入っているんだよな。
◆
ポーとの連絡を終えてから数時間後、夕陽に空が染められる時刻。
俺は王女専用の巨大に馬車に乗って、肩身が狭い思いをしていた。
「ロディマス・ショウの件、忘れてしまったわけじゃないわよね?」
あくまで微笑を浮かべたルクスアウラが問い詰めてくる。
「えぇ、そりゃもちろんですとも……はい」
ぶっちゃけ忘れてた。というよりは優先順位を後回しにしてたのね。
だって、演習会会場占拠事件からラーカム潜入と忙しかったからさ。それに今は魔王軍の動きも気になるし。
「ならいいのだけれど。約束を守らない者には報いを受けさせないと」
「そんなお手間は取らせませんよ」
アハハと笑うが、内心ヒヤッとする。ジーンキララとルクスアウラ。2人は同一人物であるはずなのにどうしてこうも接しやすさが違うんだろう?
俺はとりあえず気になることを質問することにした。
「あのー、ちょっと疑問があるんですよ」
「なあに?」
ルクスアウラが小首を傾げる。
「なぜ、ロディマス・ショウの魔手羅探索を俺に任せたんです? 考えても、やっぱりわかんないんですよね。他の者でもよくないかと思ってしまいます」
ルクスアウラはピッと俺を指さした。
「前にも言ったと思うけれど、あなたが共感の持ち主だからよ」
共感。
前にも言われたな。
「共感ですか。ピーター・ペトレリみたいな?」
「……」
ルクスアウラは無言で俺を見てくる。なんだ? サイラー派だったか? まぁ、ヒーローズの中ではサイラーも好きだったけどさ。彼、帽子被ってた時の方が強者感あったよねー
「前にも思ったのだけど、あなた、魔手羅の特性のことは知らないの?」
ちなみにヒロ・ナカムラの相棒のアンドウくんが苗字じゃなくて名前だと知った時はカルチャーショックを受けたよね……え、魔手羅の特性って何?
「魔手羅はその色によって持っている能力が異なるのよ。あなたのは黒色で、私たちは紫でしょ?」
確かに違う。
今まであんまり気にしてなかったな。
「あなたが持つソレは"共感"の魔手羅と呼ばれている。他者の感情や考え、もしくはそれ以上の本質を理解することができる能力を持つ。心当たりはない?」
「……」
相手の過去を追体験するリライブ。
それだけじゃない。他者への理解なら、ステータスを観ることができる現数力や受けることで相手の技を習得できる肉体学習も、この共感の魔手羅の副産物と言えるだろう。
レベル奪取やPSYの力はまた違うっぽいけど。
俺の力の全容はその共感能力ってやつなのか?
てことは、同じく黒色の魔手羅を持っていたロディマス・ショウもーー
「ロディマスも共感能力を持っていたんですね?」
「えぇ、それは間違いないでしょう」
俺の言葉をルクスアウラは肯定する。
ロディマスと俺は同じ特性の魔手羅を持っている。
それが、彼の魔手羅の捜索に俺が選ばれた理由か。
「なるほど、とりあえずは納得します。ところで、あなた方の魔手羅は何ですか?」
彼女たち(ジーンキララの状態でしか見ていないが)の魔手羅は紫色だった。その特性は何なのだろう。
「あら、気になるの。あなたには色々と協力してもらっているから教えてあげる。私たちのは"共鳴"の魔手羅よ」
共鳴か。
らしいと言えばらしい名前だ。その特性も2人でもって効果を発揮するモノとみた。
「ちなみにその能力ってのは?」
「あなたの共感能力の全てを教えてくれたら、話してあげる」
つまり教える気はないってことね。
他にもキリアン・ヴァルコの魔手羅も気になる。そもそもヤツの魔手羅は一度も見たことがないしね。
「さぁ、そろそろ着くようね」
ルクスアウラが窓の外を見やりながら言った。
巨大馬車は今、中規模の土奴ウ壁内を潜るところであった。
壁の内側の街はそれ程発展しているわけではないが、穏やかな湖が広がっており、夕日で赤く染まっている。
その湖の中程には島があり、そこに屋敷が立っていた。
その屋敷は王族が所有のモノであり、ここは彼らの保養地であった。王国の南側は魔族の脅威度が低いため、このような目的の街がいくつかあるらしい。
「もう話は聞いているでしょうけど、今夜はあの屋敷で晩餐会が開かれるの」
ルクスアウラが湖上の屋敷を指して言う。
その話は事前にキリアン・ヴァルコから話があった。
この時期には毎年行われているそうで、いつもは出席者はそんなに多くないそうなんだけど、今年は序数持ちも多く招待しているらしい。
ラーカムの一件で彼らは身内を失った。事件後、サード王と教皇セカンドが合同で哀悼の意を述べていたけど。それだけじゃ心許ないと思った王家が今回の会に招待したわけだ。
用は、我々はあなたたちをちゃんと気にかけていますよ、というパフォーマンスなんだろう。効果があるのかは知らんけど。
「王剣器隊からもフォースが参加するのよ」
ほう、フォースが?
まぁ、王女様からの招待となれば伐士団長でも断らんわな。
「フォースといえば、彼も少なからずロディマス・ショウと関わりがあった人物よね」
ルクスアウラがニッコリ笑って言う。
あー、なるほどね。
「つまり、この会でフォースからロディマス・ショウの情報を聞き出せと?」
彼女は満足げに頷く。
まったく、簡単に言ってくれる。
「あのですね、俺の共感能力はおそらくフォースに通じないと思うんですよ」
高レベルの相手だとリライブは発動しない。
ましてやあのフォースだ。前に不本意でPSYが発動した時は反撃にあったし。
「あらそうなの? でも大丈夫。あなたならきっと実りある情報を得ることができると思うわ」
ルクスアウラはそう言って窓の外に広がる湖を眺め続けた。




