「ミラさんってフェムート一派と繋がってますよね?」
ファントムは今、西大陸のウェスタリア王国に戻っている。西方将軍がいつまでもノーベンブルムにいるわけにはいかないからね。
ミラのことを解決するなら、ファントムがいない時の方がいいと思ってたんだよね。だからちょうど良かった。
けどその前にファントムからも話を聞いておきたかったので、彼が西大陸に戻ってしまう前に2人で話をしたんだ。
◆
出来損ないの世界の浮遊岩石地帯。
そこに俺とファントムはやって来ていた。
「ウェスタリアに戻られるんですね」
「あぁ、他の将軍たちの目もあるからね。だけど、もう限界が来ているんじゃないかと思うんだ」
「疑われていると?」
「おそらくね。そう感じるよ」
まぁ、フェムートが動き出したことからもその可能性は高いだろう。
ヤツらからしたらファントムも目障りな存在みたいだし。
「いざとなったらここに避難した方がいいかもしれませんね」
「そうならないように気をつけるよ」
さてと。
そろそろ本題に入ろうかな。
「ファントムさん、向こうに戻る前に訊いておきたいことがあるのですが?」
「……何かな?」
ファントムも質問されることを覚悟していたようだ。
「あなたとミラさんはどうしてはぐれ魔族に所属していたのですか?」
高魔族である彼らが低魔族のはみ出し者集団にいた理由。前に訊いた時は教えてもらえなかった。
「……そうだな。いつまでも隠しておくわけにはいかないね。話すよアーティ。ただ、これはミラの身の上に関わることだから他の者には黙っていてもらいたい」
「もちろんです。約束します」
ファントムは一呼吸吐く。
「ミラは元々由緒ある吸血鬼の一族の者だったんだ。だが彼女の両親は反魔王派であった為に殺され、その高貴な地位から追放された」
やっぱりミラは高貴な一族の出だったんだ。さすがエヴァ嬢、見る目がある。
「追放された高魔族はね。低魔族のように蔑みの対象となる。拠り所を無くした彼女ははぐれ魔族の一団に身を寄せることになった」
なるほど、他の高魔族からは蔑まれるし、かと言って低魔族に頼れるわけでもない。はぐれ魔族が最後の受け皿だったわけか。
ファントムは顔を歪めている。何か嫌なことを思い出しているようだ。
「ミラを追い詰めた原因は僕なんだよ……彼女のご両親を殺害したのは、この僕なんだ」
「え?」
ファントムの告白に俺は何も言うことができなかった。何かあったのだろうなとは思っていたが、まさか家族を直接手に掛けていたとは……
「そのことは、ミラさんは知っているんですか?」
「あぁ、知っている。その時、彼女はその場にいたからね」
とファントムは抑揚のない調子で言う。
てか、そりゃ表情も暗くなるわな。その場にいただって?
それは酷いな。
「アーティ、君は僕がかつて何と呼ばれていたか知っているかい?」
俺は頷いた。
前にシャーナから教えてもらった。
赤道の王、それがファントムの異名だった。
「あの頃の僕は力によってのみ正義を成し遂げられると考えていた。正義の為にその手を血に染めることを躊躇しなかったんだ」
その当時のファントムは冷酷な殺戮者であり、彼が進む道は敵の血で赤く染まっていたという。
まだレーミア様が幼子であった頃の話らしい。
「ミラのご両親は反魔王派の中でも特に危険な連中と関わりを持っていた。悪鬼バオウ、そして黒蛇のゾラスだ」
バオウ? ゾラス?
聞いたことがない名前だな。
「エフュサンドス砂漠にあるサソリ人間たちの街を覚えているかな? あの街には賭博場やいかがわしい店が軒を連ねていただろ。それを発展させたのがゾラスだ。そして彼の用心棒がバオウ」
思い出した。
セイレーンの街から戻ってきた時に話を聞いたな。
「確か、その男たちはファントムさんが《奈落の迷宮》に堕としたんですよね?」
「あぁ、そうだよ。彼らを追い詰める過程で僕はミラの両親を襲撃したんだ」
ファントムは首を振って苦笑を浮かべる。
「おかしな話だ。あれだけ多くの者たちの命を奪ってきたのに、葬り去るべきだった2人を生かしてしまった。あの日、あの時、恐怖に歪むミラを見た時、僕の正義に疑問を感じてしまったんだ」
そうか。
ファントムが冷酷な殺戮者から今の彼に変わったきっかけがミラだったわけね。
「彼女のご両親を返してあげることはできない。だから、せめて彼女が安心して生きていける場所を創り出したかったんだ」
それがファントムがはぐれ魔族に協力していた理由だった。
◆
ファントムとの会話を思い返しつつ、俺は再び出来損ないの世界の岩石群のところにやって来ていた。
またここである者と会うことになっていた。
「おや、もう来ていたんですか?」
岩石群の上に彼女は立っていた。
「わざわざ呼び出して何の話があるんです?」
吸血鬼ミラが警戒した様子で尋ねてくる。
「もう薄々わかっていると思うんですけど。ミラさんってフェムート一派と繋がってますよね?」




