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「俺の全力を、出涸らしになるまで出し切ってやる!」

「プリマス、聞こえていたな? ドワーフのおやっさんたちの修理が終わり次第すぐに潜航しろ」

「了解」


 プリマスが即座に他の乗組員たちに指示しているのを確認後、同調を解除する。

 とにかく海中にさえ潜ってしまえば被害は最小にできるはすだ。それまで少しでも時間を稼がないと。


「ダーツさんは船の中のみんなをお願いします!」


 ダーツは頷き、船内に通じる扉を開ける。


「ファントムさん、手を貸してもらえますか? たぶん、あなたにとっては苦痛な状況になってしまいますけど」

「いいさ、僕だって船のみんなを守りたい」


 ファントムは船内の方を見やりながら言う。

 まぁ、ここには愛しのミラもいるからな。


「2人とも……頼む」


 ダーツは頭を下げて扉を閉めた。


「で、どうやって対抗する?」


 ファントムが血の魔鬼理を発動させながら問いかけてくる。


「ヤツはおそらく最強の奴ウ力で一気に潰しにきます。だから、俺も同じ奴ウ力で対抗してやります」


 俺は翼竜の翼を展開して飛び上がった。


「ファントムさんには俺が撃ち漏らしたモノをお願いします」


 俺はありったけの奴力でもって太陽の光をかき集める。

 出し惜しみはしない。


「なるほど、僕にとって苦痛なわけだね」


 俺の背後に集まる光に手を翳しながらファントムが言う。

 太陽光は吸血鬼とってありがたいモノではないからね。


「すいません。けど、さすがに俺一人じゃ捌き切れないですから」

「気にすることはないよ。全力で行こう」

「はい!」


 光がより集まり、俺の背後に日輪が出来上がる。

 凄まじい熱気を背中に感じる。頼もしい限りだな。


 これで準備はできた。

 一度大きく息を吸い、吐き出すと同時に両手をラーカムの方に構える。


 山の向こう側が明るく照らされる。まるで朝日が昇って来ているようだ。

 ジリジリと光が広がり、ラーカムが光に飲まれる。

 そして、俺のよりも大きくて眩い日輪がその上空に現れた。

 間違いない、ファーストだ。


 俺の全力を、出涸らしになるまで出し切ってやる!



 ーー天奴ウ《灼滅槍葬》!!



 俺とファースト、お互いの日輪から激しい音と共に大量の光の槍が発射される。

 海上で光槍同士がぶつかり合い、その度に水柱が上がる。


 俺が撃ち落とせなかった光槍にファントムが血の刃を飛ばす。これでなんとかギリギリ持ち堪えている。


 にしても、扱いづらい技だ。


 光槍は指を動かす事である程度の狙った方向に放つことができるようだ。しかし、反動が大きくて上手くコントロールできない。


 一方、ファーストはオルカ号に狙いを絞って放ってきている。奴力量、奴ウ力の練度の差は残酷なくらいハッキリしている。


 また、海上という位置もよろしくない。奴ウ力は沖に進む程に効力が弱まるからだ。

 ただし、利点もある。海面からの照り返しによって光を効率よく集めることができていた。


 威力では勝てないから、こっちはより多くの光槍を創り出す。

 ヤツの一本に対して2、3本の光槍を当てて相殺していく。


 しかし、それも限界がある。俺の奴力が真っ先に尽きてしまう。


 相殺によって起こる水柱が、徐々に俺たち側に接近してくる。

 それはまるで、見えない獣が舌舐めずりしながら一歩一歩近づいて来るようだ。


 両の眼を四方に動かし、飛んでくる光槍を視認する。熱気と眩しさで頭がグラグラする。ふと気を抜けば眠ってしまいそうだ。ただ、全身に走る激痛のおかげで意識を保つことができている。


 叫ばずにはいられなかった。 


 後方の日輪が弱まって行くのがわかる。限界だ。

 撃ち漏らした光槍が次々と飛んでくる。


 ダメだ。


 光槍に翼竜の翼が焼き消される。熱い。皮膚が焼かれている。

 飛行手段を失った俺は、落下してオルカ号の甲板に叩きつけられる。


 再び光槍を放とうと身構えたが、急に下に引っ張られるような感覚に襲われ、床に倒れ伏した。

 光槍が直撃することなく、頭上を通り過ぎていく。


「これは……」


 周りを見て気づいた。

 オルカ号が沈んでいるんだ。しかしそれは潜航機能が働いているわけじゃない。海面そのものがオルカ号の周りだけ大きく下がっている。


「これは、いったい何なんだ!?」


 ファントムも唖然として周囲の海に目をやっている。

 扉が開き、中からダーツとジーンキララが出てきた。


「どうしたんだ?」


 彼らも何が起きたのかわからない様子だ。

 いつの間にか光槍が飛んで来なくなっていた。


 俺は恐る恐る海面を覗き込んだ。


「マジかよ……」


 思わず声を漏らす。

 海面から、水龍の巨大な顔が浮き上がってきていた。

 オルカ号の鼻先に海の強者が迫る。


 もう1つ気づいたことがある。

 先程まで太陽に照らされていた海が、薄暗くなっていた。


 その理由は水龍の後方を見ることでわかった。


 空を覆うほどの大波が発生しているではないか。


 それは意思を持っているように形を変形させ始め、天を突く程の大きさの龍の姿に変貌する。


 海で創り出された龍だ。

 こんなことができるヤツは限られている。


「大海の主!」

「海の意思か!」


 ファントムとダーツ、それぞれが声を上げる。

 ジーンキララも深刻な顔付きでソレを見上げている。


 この海水で創り出されたバカでかい龍は真っ直ぐラーカムに向かって突き進んでくる。


 このままではオルカ号も巻き込まれてしまう!


 すると、目の前にいる水龍が大きく口を開ける。

 その中から大きな泡が吐き出され、オルカ号がすっぽり包まれてしまう。


 ラーカムの方から光が発せられる。ファーストの日輪がさらに輝きを増し、さっきよりも多くの光槍が放たれる。

 どうやら俺たちに対してはまだ本気じゃなかったらしい。

 海の龍と光槍群が激突する。

 爆音が辺りに轟き、海が激しく荒れ狂っている。


 しかし、オルカ号は水龍の泡と、その体によって守られている。


 大海の主が俺たちを守ってくれたのか……?


 視界が霞み、目眩がしてきた。

 さすがにもう限界のようだ。


 一際大きな閃光がラーカムの方で走る。そこで俺の意識は途切れてしまった。


 ◆


 後に聞いた話によると、このファーストと大海の主の衝突によって、ラーカムどころか蹄半島そのものが消失してしまったらしい。







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