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「……この娘に何をした?」

 ジーンキララを挟むようにして俺たちは扉から中に入った。

 彼女が「良き素体」役ってわけだ。


 俺は素早く室内を見回した。

 円形の部屋はこれまで見てきた中で最も広い。

 周囲の棚には途中見てきたガラスの容器がところ狭しと詰め込まれている。まるで異形の水族館のような様相だ。


 部屋の中央にはやけにバカでかい設備が設置されている。ぱっと見、UFOのように思える機械から何種類ものチューブが下にある水槽に接続されている。その水槽の中に見覚えのある金髪の娘が漂っている。


 エヴァ嬢だ。


 胸の奥がざわつくのを感じる。


「それで、素体というのはその娘かね?」


 機械の蔭から異常に痩せ細った男が姿を現した。他の職員と違って白衣ではなく黒衣を身にまとっている。

 ドアの外で聞いた抑揚のない声。

 間違いない。サスピリスだ。


 意外なことに他の人間の姿は見当たらない。ならば、余計な駆け引きは無用だ!


 足に力を込めて、一気に突進する。

 サスピリスが反応する暇を与えず彼を床に組伏せた。

 背後ではジーンキララが職員の男を殴りつけたのだろう。ドサリと倒れる音が聞こえた。


「おいおい、これは一体どういうことかな?」


 サスピリスが苦笑を浮かべて問いかけてくる。


「質問するのはアンタじゃないぜ……この娘に何をした?」


 そう問いかけると博士はクックッと笑みを漏らす。


「何をしたかだって? 君だっていつもやっていることだろう?」


 サスピリスは俺に視線を向ける。

 てかコイツ、血の臭いが凄まじい。身にまとっている黒衣はただのオシャレというわけじゃなさそうだ。願わくば、この返り血がエヴァ嬢のモノじゃないことを祈る。


「彼女は……もう合成魔人なのか?」

「ふーむ、それは難しい質問だな。時間的にもまだ完全とは言えないね。なんせ、とても良質な素体だ。私もより丁寧に扱わせてもらったから。だが、多少は混じっているだろう」


 混じっている……


 どす黒い感情が湧き出してくる。その矛先はサスピリスだけではない。今まさに歩み寄ってくる魔人の女にも向けられていることに気づいた。


「元に戻せるか?」

「そんなことは考えたこともなかったが…………まぁ、無理だろうな」


 俺は水槽の中のエヴァ嬢を見た。

 安らかに眠っているようにも思える顔つきだ。苦痛を感じていないだけマシではある。


「彼女をこの水槽から出せ」


 そう指示を出すとサスピリスは身を捩った。


「とんでもない。まだ未完成なのだぞ?」

「知ったことか。出せ!」

「断る」


 俺はサスピリスの腕を捻った。


「まだ状況が飲み込めていないようだな。言うとおりにしないとアンタをバラして容器に詰め込むぞ」

「ソイツに脅しは通用しないよ」


 いつの間にかジーンキララが水槽の前に立っていた。


「かわいそうに……」


 そう呟くやいなや、彼女は水槽を掌打した。水槽に軽くヒビが入る。


「おい、そんな無理矢理に――」

「こうするしかないって」


 さらにジーンキララは掌打を繰り出す。水槽の亀裂が広がるが、まだ完全には割れない。


「それは無奴ウだな。ふむ、奴ウ力使いか。それも練度が高い……」


 サスピリスはブツブツと呟いている。


「へー、結構硬いね」


 ジーンキララはより奴力を巡らせて水槽を叩いた。

 すると、今度は完全に水槽が割れて液体が外へと流れ出す。


 ジーンキララは倒れ込むエヴァ嬢を抱きかかえた。


「あぁ、なんてことを――」


 サスピリスが失望の声を上げたが、途中でエヴァ嬢の悲鳴に遮られた。


「な、何だ!? どうしたんだ!?」


 ジーンキララに問いかけるが、彼女も困惑の表情を浮かべている。


「狂数症だよ」


 サスピリスが驚いた様子もなく言う。


 狂数症。

 体内源数の変質によって引き起こされる精神錯乱状態。


「なら、どうやって治す? 建前とは言え、ここは狂数症の治療院だろうが!」


 サスピリスを仰向けにし、その胸ぐらを掴み上げる。しかし、博士はケラケラと笑い出すだけだった。


「治すだって? とんでもない。その逆だよ。私は人工的に狂数症を引き起こすことを研究している」

「てめぇ……」

「わからんか? 狂数症は我ら人類が次なる領域へと進める為の重要な因子なのだ」

「そんな妄言はどうでもいい! 症状を抑える薬はないのか?」

「あるにはある。魔素を濃縮した丸薬がな。それを飲ませれば多少は安静になるかもしれん」


 丸薬……

 それには心当たりがあった。存在を消された村の合成魔人が飲まされていたアレだ。フローと連絡を取った時にもそんなことを言っていた。


「その丸薬はどこにある?」


 そう問いかけた時、エヴァ嬢が一際大きな叫びを上げた。思わずそちらに視線を向ける。それが隙を生んでしまった。

 気がついた時には博士は手を黒衣のポケットに入れていた。

 俺は急いでその腕を掴みあげてへし折った。


「乱暴なヤツだな」


 サスピリスは痛みなど感じていないが如く不敵な笑みを浮かべている。


 瞬間。

 床の一部が弾け飛んだかと思えば、体に強い衝撃が走る。

 俺は吹っ飛ばされて部屋の壁に設置してある棚に激突した。ガラス容器が割れて液体や中身の実験体が飛び散る。


 最初、何が起きたのかわからなかったが、サスピリスの横に空いた穴から現れたソイツを見て理解した。


 体長3メートルはあろうかという程の巨体。異常に発達した赤黒い筋肉。下半身は獣のような毛でビッシリ覆われている。逆に頭に髪はなく、辛うじてそれが人間の顔だということがわかる程の崩壊具合だ。

 そして何より異様なのが、とりわけ肥大化した右腕だ。びっしりと棘に覆われており、その先端はカニの鋏のようになっている。


 キメラ。

 そんな言葉が頭に浮かんだ。


 間違いない。昨日地下プールで感じたヤバい気配はコイツのモノだ。

 出会わなければそれで良しと思っていたけど、こうも早くエンカウントしちゃうなんてね。


「どうだね? 私の最高傑作。合成魔人フィアムートだ」






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