「今度は遅れをとらん」
「シャーナちゃん、セリスちゃんもどうしてこんなところに!?」
俺はなるべく小声で問い掛けた。
「それはこっちの台詞だって」
同じくシャーナも小声で問い返してくる。
「いやぁ、いろいろあってさぁ――」
俺はシフターの立て籠もりから今までに至るまでを簡単に説明した。
「やっぱり、そんなことになっていたんだ。ねぇ、そこにポーはいなかったの?」
「ポーは――」
シャーナは不安げな表情を浮かべている。
「いや、俺は見なかったよ」
嘘を吐いた。
ポーを彼女たちに渡すわけにはいかない。
「それで君たちの方はどうしてここに?」
話題を逸らす為にも改めて彼女たちに問い掛ける。
2人は互いに顔を見合わせた。
「私たちもアーリルフ部隊の不穏な動きを察知して、偵察に来ていたんだよ」
「そしたら、この山に妙な気配を感じたわけ」
セリスは目を閉じて、尖った耳を周囲にすましている。
ダークエルフは風で周囲の状況を判断する。
「その妙な気配が俺を撃ち落とした奴かもしれないのか」
「かもね。でも、ソイツはもうここにはいないみたい」
沈黙が俺たちの間に降りる。
いつまでもここにいるわけにもいかない。ポーも心配だし。
移動しようと声を掛けようとすると、セリスに手で制された。
「待って、これおかしい」
「どういうこと?」
俺は周囲に視線を向ける。
特別異常はなさそうだが。
「うん、気配が無さすぎる。これって逆に不自然だよ」
シャーナも同じく耳を澄まして言う。
俺たちに気取られないようにしている奴、もしくは奴らがいるってことか。
こりゃ、罠か?
俺と彼女たち、まんまと引っ掛かったのかもしれん。
この状況、前にも覚えがあるぞ。
静寂の森で。あの時もこの3人だったな。
だったら今度は遅れをとらん。
「このままじゃ埒があかないから、俺が仕掛けてみるわ。その間に2人は逃げてくれい」
「はぁ?何言って」
シャーナが反論する前に俺は近くの木を足掛かりに大きく飛び上がった。翼竜の翼を展開してさらに飛ぶ。
こうやって敵の目を俺に向けさせれば彼女たちの逃げる隙が生まれる。それにポーが見つかりづらくもなるはずだ。
以前フォースと戦った時はシャーナが大怪我をした。運良く助かったけど、もうあんな思いはしたくないねぇ。
山の斜面は木々に覆われているので敵がどこにいるのかさっぱりわからない。
だったら炙り出すまでよ。
翼竜の翼に火竜の炎を纏わせる。そして、羽ばたきによって生じた風に奴力を送る。
――魔奴ウ《地獄の向かい風》!!
灼熱の風が斜面一体に流れ込む。その辺の動植物には申し訳ないけど、これで隠れている敵は出てくるはずだ。
たとえるなら、超高温のドライヤーを顔面に受け続けている感じ?
それをもっと酷くしたのがこの魔奴ウよ。
以前、エフュサンドス砂漠で砂嵐に対して使った時はイマイチ活躍しなかったけど、今回は効果的だ。
ただ、これ使うと俺も熱い……熱いっ!!
早く敵を見つけないと。
山の斜面の所々に土の壁ができたり、木々が不自然に折れ曲がったりしている。
奴ウ力だ。伐士が熱風から身を守っているのだろう。
他には――ん?
遠く離れたところ、木々の間が陽炎のように揺らめいているぞ。
『ダーティ聞こえる!?』
懐に入れてある法螺貝からシャーナの声が聞こえた。
「聞こえているよシャーナちゃん」
『あんたの今の攻撃でヤツらの小細工が解けたみたい。お陰で風を聴くことができたわ!』
「それは良かった!」
『良くない! 周りは伐士隊に囲まれ始めている――』
シャーナの言葉を最後まで聞き終える前に閃光が走る。
飛んできた光の槍を体を捻って避けたが、魔奴ウが途切れてしまった。
さらに槍が飛んでくる。
身を守りながら斜面に降り立つ。
今の攻撃がどこから飛んで来たのかわからない。が、離れた所っぽい。たぶん遠距離型の伐士がいるな。さっきの陽炎が怪しいぞ。
鬱陶しいことに、熱風が止んだせいで足止めされていた伐士隊が動き出すだろう。
「シャーナちゃん、脱出ルートは見つからない?」
『南の方に手薄な所があるってお姉さまが!あんたを落としたヤツもそこから逃げたみたい』
「なら、2人はそこから逃げてくれ。その間、俺がヤツらを引っ掻き回すから!」
周囲の気配を探りながら斜面を登る。
熱風で怯んでいたヤツらは面倒だが、まぁ問題ない。ただ、気配を消したソリス野郎はかなり強いぞ。並の伐士じゃない。ソイツがダークエルフ姉妹の風の索敵を邪魔してたのかもな。
『あんたはどうやって逃げるの?』
「飛んで逃げる。高高度まで上昇したら人間はさすがに付いてこれないからね」
『わかったわ……と、言いたいところだけど、厄介なのが近づいているみたい』
「誰?」
『紫色のジャケットを着た女!』
紫色のジャケットって王剣器隊か?
しかも女って……
まさか、ジーンキララ!?




