「厄介なことにならなければ良いが……」
近衛伐士用の会議でお披露目会の打ち合わせが行われた。
ヴァルコが大きな水報板に映し出された会場の見取り図を示す。
「中央に演習用のグラウンドがある。それを取り囲むように東西南北にそれぞれ棟が建てられている」
建物自体が弧を描くように曲がっているけど、それぞれ独立した4つの建物だ。見たところ四階建らしい。
「あの建物は四大国に1つ割り当てられている。一階と二階は演習用の設備や宿泊場所。三と四階は観覧席となっている」
ヴァルコは建物と建物の間を指し示す。
そこには屋根付きの橋が渡してある。
「三階には建物同士を行き来できるよう連絡橋を渡してある。そこからでないと建物同士は行き来できないわけだ」
ヴァルコは見取り図の一階に描かれている穴を示した。
「ここから地下の非常用の通路に繋がっている。この通路は近くの監視塔まで通じているので、何か起きた際はここから避難していただく」
会場から離れた所に確かに塔がある。
「お披露目会で使用するのは北棟ですか?」
他の近衛伐士の質問にヴァルコは頷いた。
「そうだ。我々が到着する頃には既に序数持ちの方々も到着しているだろう。当然、会場警備の伐士隊も配置される。フォースと王剣器隊も合流するそうだ」
あぁ、エヴァ・セブンス嬢もいるのだろう。
今にして思えば、彼女は無自覚にルクスアウラたちの秘密を指摘していたんだな。
ルクスアウラも彼女に興味を示していたな。
厄介なことにならなければ良いが……
◆
合同演習会に向けて、ルクスアウラ王女一行は出発した。
王女を乗せた巨大な馬車を中心に四方に護衛の馬車が配置されている。
俺はというと、ルクスアウラと一緒に巨大馬車に乗り込んでいた。
例によって彼女のティータイムに付き合わされている。
「あなたのお父上、ユーフリック・サードは人間ですよね?」
俺の問いかけにルクスアウラが頷く。
「それは間違いないわ。なぁに?私が彼の実の娘なのかどうか気になるの?」
「まぁ……はい」
ベネルフィアの夜海の時、彼女が……というか、彼女たちのどちらかがジーンキララだった時に水報板で話していた「パパ」のことが気になるわけよ。
素直に受け取れば、パパとは父親のことで、王女の父親はユーフリック・サード王だ。
だけど、サード王が人間であることは確認済みだからな。俺は違うと思うんだ。
「うーん、それは教えることはできないわね」
「ですよね」
この謎はまた今度だ。
今はロディマスとかのことで精一杯だしな。
その時、ヴァルコが部屋に入って来た。
「ターブルの街で大規模な魔族の襲撃があったようです」
淡々とした様子でヴァルコは言った。
うん、ターブルってどこだろ?
「ターブルは王都から北東に向かった先にある街だ」
俺の疑問を察してか、ヴァルコが説明してくれた。
「それで、フォースは?」
「はい、彼自らが王剣器隊の半数を率いて向かいました。なにせ、ここ最近なかった規模の襲撃ですので」
ヴァルコは薄らと笑みを浮かべて言った。
「そう、それは良かったわ」
それを聞いたルクスアウラも満足そうだ。
一体何が良かったのだろう?
もしかして、フォースが演習会場に来ないことが……?
いや、それも気になるけど、やはり大規模な魔族の襲撃ってのが引っかかる。
それって先日シャーナが言っていたアーリルフの部隊なのではないか?
だとしたら、そこを襲撃した理由って何だろう。
「お披露目会はどうなるのでしょう?」
俺がそう問いかけるとヴァルコは肩を竦めた。
「どうもこうも、普通に執り行われるだけだろう」
「この国の街がどうなろうが、ヲイドニアの者たちからしたらどうでもいい問題ですもの」
ルクスアウラも他人事のように言う。
王女だってのになぁ。
まぁ、これで中止なるなんて俺も思ってなかったけどよ。
◆
それから約2時間後。
「会場が見えてきましたね」
窓に側に立っていたヴァルコが報告した。
演習会場か……
実物を見るのはこれが初めてだな。
「気になるなら見てきなさいな」
察したルクスアウラがそう言ってくれた。
俺はペコリと頭を下げて席を離れた。
ヴァルコの隣に立って、窓から外を眺めた。
馬車の進行方向の先に巨大なスタジアムのようなモノが見えた。
「あれが演習会場……」
打ち合わせで確認はしていたけど、実際に見ると思っていた以上に大きい。
正面に見える建物が北棟だろう。左右にはそれぞれ別の棟に通じる連絡橋が渡してある。
もう、建物内には序数持ちのヤツらなんかがいるんだろうな。その中にはエヴァ嬢もいるはず……
そんなことを考えている時だった。
突然、左右の連絡橋が吹き飛ばされた。




