ある少女の物語Ⅴ
次兄ドックの部屋を後にしたイヴアリスたちは王の私室へと向かった。
「きっと今は長兄様の勉強のお時間よ。私たちも見学しましょう」
「えー、邪魔にならないかなぁ」
「大丈夫、大丈夫!」
遠慮しているシャルの前足を掴んでイヴアリスは部屋の扉をノックした。
「誰だね?」
部屋の中から穏やかな王の声が尋ねてきた。
「イヴアリスです、お父様。シャルも一緒です」
「おぉ、シャルくんも一緒かい。さぁ、入りたまえ!」
王に促されて彼らは部屋に入った。
簡素な造りの部屋だった。本棚が壁沿いに並び、その横に大きめの書き物机がある。
その書き物机に長兄と王の姿があった。後方にある肘掛け椅子にはイヴアリスの母である王妃が座っていた。
「お勉強をなさっていたのよね?」
イヴアリスの問いかけに長兄は「うん」うなずく。
「今父上から船のことを教えてもらっていたんだ」
「え、船!?」
イヴアリスは目を輝かせて父親の方を見る。
「私とシャルも一緒に聞いてていい?」
「もちろんさ」
王はニッコリ笑って船の話を再開した。
◆
「すごいよねぇ船って。川や海を渡ったりできるし」
イヴアリスは興奮した様子で喋る。
「それに空まで飛ぶことができるなんて!」
彼女は羽ばたくような動きをしながら部屋の中を駆け回る。
「イヴは空を飛ぶことがホントに好きなんだね」
シャルが少し呆れた顔つきで言った。
「だって素敵じゃない?あんな広い空を自由に飛び回れるなんて。はぁ、お兄様が羨ましい」
すると長兄は少し困ったような顔をする。
「それなら、僕が船を操縦できるようになったらイヴを乗せてあげるよ」
「ホントに!?」
イヴアリスは思わず身を乗り出す。そんな彼女を制したのは母親である王妃だった。
「ダメですよイヴアリス。船には王のみが乗ることができるのです。たとえ王族とはいえ、貴女が乗ることは許されませんよ」
王は励ますように笑ってイヴアリスの頭を撫でる。
「なーに、空を飛びたいのならシャルがもっと大きくなった時に頼めばいいさ」
するとシャルはギョっとする。
「えぇ、無理ですよ。だって僕が大きくなった時にはイヴアリスはもっと大きくなっていますもん」
「どう言う意味よそれ!」
王たちは思わず吹き出してしまった。
室内は笑い声で満たされる。
これがイヴアリスの世界だった。
皆が優しく、そして笑顔で満たされている世界。
ある少女イヴアリスはとても幸せだった。
次回より、第13章「セブンス嬢を救出せよ!」を投稿していきます。




