「――あなたが魔人を統べる者ですね?」
尤王祭最終日の夜。
祭り自体は既に終わったのだが、人々はまだその余韻に浸り、楽しげな騒めきが王都に満ちていた。
俺はその様子を王宮のとある一室の窓から眺めていた。
窓一枚程度のはずなのに、その先の景色がどこか遠くに感じられる。
どうにも感覚がおかしい。夢を見ているのだろうか?
いや……
違う。その逆だ。今までがどこか夢見心地だったのだ。それが今、というかルクスアウラが俺の側から突然消え去った時から目覚め始めている、感じ?
頭に掛かっていたヴェールが徐々に取り払われていくような感覚。それに従って、ある答えが俺の頭の中にはっきりと浮かんでくる。
これまでのことを思い返した結果、それは益々確固たるものであるように思えた。
それが真実なのかどうか、もうすぐハッキリするだろう。
「……クリプトン」
部屋にキリアン・ヴァルコが入ってきた。
第3の魔人。油断ならない男。
「王女がお呼びだ」
その声音からは何も察することはできない。
俺がこれから知ることになることを、この男はどう考えているのだろう?
「わかりました」
素直に彼の指示に従い部屋から出る。
広い回廊をヴァルコの後について歩く。
そして、見慣れた扉の前で彼は扉をノックする。
すぐに返事があり、ヴァルコは扉を開いて俺が入るよう促した。
部屋の中には、いつものようにルクスアウラ王女が椅子に腰掛けていた。円形テーブルの上にはティーカップが2つ置かれている。
「いらっしゃい、アルゴン」
ルクスアウラはいつも通りの笑顔を向けている。
「失礼します」
俺が室内に入ると、後ろで扉を閉める音がした。
ヴァルコは室内へは入らなかった。部屋に2人きりだ。
「お茶を入れておいたの、さぁ座って」
俺は言われるがまま、椅子へと近づく。
彼女の背後にはウォーキングクローゼットの白い両開きの扉がある。前はその把手にペットのクルメがぶら下がっていたが、今は姿が見えない。
「今日は楽しかったわね」
俺が椅子に腰掛けるとルクスアウラはそう言った。
「はい、そうですね……いただきます」
目の前のティーカップを手に取り、口を付ける。
ほのかに甘く、じんわりと温かさが体に広がる。リラックスしてしまいそうになるが、気をしっかり持たなくては!
「今回は特に出し物に力が入っていたと思うわ。運が良かったわねアルゴン」
この期に及んでルクスアウラは祭りのことを楽しそうに話し続ける。
さすがにそれはないぜ。
「恐れながらルクスアウラ様」
「なぁに?」
「そろそろ焦らしプレイは終わりにしていただきたいのです」
すると彼女はより一層笑みを浮かべる。
「あら、こういうのはお嫌い?」
「まぁ、時と場合によりますがね。今は本題に早く入って欲しいです」
「せっかちなのは女性受けが悪くなるかもしれないわ……でも、そうね、本題に入りましょうか」
ルクスアウラはそう言うと、ジッと俺の眼を見る。
見ているだけで何も話しださない。
なるほど、俺を試しているわけだな。俺がちゃんと彼女の秘密を察したかどうかを。
いいだろう。ご期待に応えてやる。
「では率直にお聞きします。ルクスアウラ王女、あなたが魔人を統べる者ですね?」
ルクスアウラは変わらず笑みを浮かべている。俺はそんな彼女の眼を真っ直ぐ見据える。
「それともこっちの名前でお呼びしましょうか……ジーンキララちゃん?」




