「ゴウマムゥ?」
「ねぇ、アルゴン。まだ着かないの?」
森の中、ジーンキララの不満そうな声が響く。
「もう少しの辛抱だからさ。それと、もうちょい声のトーンは落としてね」
「はーい」
背後のジーンキララに宥めるように言った。
俺たちは今、例の存在を消された村に向かっている。
ヘクターと向かった時のように犬に変身してはいない。彼女が俺の能力をどこまで把握しているのかはわからないが、わざわざこっちから教えるつもりない。
そのかわり、俺たちは木々を飛び移りながら移動していた。こっちの方が早いからね。魔人の身体能力なら楽勝なのだ。
で、辿り着いたわけだけど。
「……ここはどこ?」
ジーンキララがキョトンとした様子で言った。
ここがどこなのかさっぱりわからない様子だ。
俺は今日訪れる場所をハッキリと彼女には伝えていない。
ただ、群牢同盟にとってとても重要な場所だということだけを教えていた。
だから、これは自然な反応なのかもしれない。もしくは、知っていても演技で知らない振りをしているのかも。
「ここは存在を消された村、もしくは見捨てられた村って俺たちは呼んでいるよ」
俺は手短にこの村がどんなところなのか説明した。
「へぇ、そんな場所があったんだ」
「知らなかったの?」
「うん、他の魔人たちは知ってたかもしれないけど。私は知らなかったよ」
木の枝に並んで立つ俺たち。
見下ろせば村の様子が一望できる。
ちょうど今日は魔族の死体が運ばれてくる日だった。
村人たちが死体を運び終えて、馬車が村から出て行く。
「この処理された魔族の死体が、何かに使われているみたいなんだけど、そこまではわかっていないんだ」
「ふーん」
村の様子を眺めていると、奴ウ父の怒鳴り声が聞こえてきた。
教会から女の子を引き摺って奴ウ父が出てくる。例のフード野郎も一緒だ。
「勝手に私の食べ物を食べようなど、この愚か者がっ!」
そう言って女の子を蹴り始めた。
「ごめんなさい! ごめんなさい! 私、お腹が空いていたの」
「そのような言い訳で許されるわけがないだろう!?」
奴ウ父の酷い仕打ちをジーンキララは冷めた目で見下ろしている。
「……何あれ?」
「酷いよね。ここの奴ウ父は村の支配者みたいなモノなんだろうよ」
「ふーん」
ジーンキララは急に枝から飛び降りた。
俺もそのあとを追う。
「おっとジーンちゃん、何をするつもりだい?」
そう問いかけると彼女は怪訝な顔つきで俺の方を見る。
「何って、あいつをぶっ倒すつもりだけど。まさかアーティ、やめろって言いたいの?」
「まさか……」
俺は魔手羅を近くの草むらの中に突き立てた。
草むらから引き抜くと、先端部分にゴーレムが突き刺さっている。
「気づいてた?」
「もちろん」
ジーンキララはニッコリと笑って言った。
彼女の肩辺りから紫色の魔手羅が木々の間に伸びていた。
それが引っ張り出されると、同じくゴーレムが突き刺さっている。
「気づいてた?」
ジーンキララが先ほどの俺の言葉を繰り返す。
ぐぬぬ、カッコよくキマッたと思ったのに……
「も、もちろんさ。よし、行こうかね」
俺たちは村の方に向かって歩き出した。
それに気づいた奴ウ父が怪訝な顔でこちらを睨みつける。
「だ、誰だお前たち!?」
「あんたをぶっ飛ばしにきたんだけど」
「なっ!?」
ジーンキララの言葉に反応するかのように村のあちこちからゴーレムが飛び出してきた。
「そいつらは任せたよ!」
俺はゴーレムの相手をジーンキララに任せて、奴ウ父に向かって突進した。
「ひぃぃっ!」
恐れおののく奴ウ父を庇うように例のフード野郎が立ち塞がる。
想定済みだ。むしろ、最初から俺はフード野郎を無力化するつもりだったわけだし。
「おやすみしたまえよ!」
俺は飛び膝蹴りをフード野郎の顔面に叩き込んでやった。
鈍い音ともにフード野郎は建物の壁まで吹っ飛んだ。
「よーし……で、あんたに用があるのさ」
「な、何のつもりだ!私は神聖なるヲイド教の奴ウ父であるぞ!」
「やかましい!!」
俺は奴の両肩を掴んで、思いっきり股間を蹴り上げてやった。
「オギョモ!!」
奇声を発する奴ウ父。
チャ◯グムかよ。
「さーて、あんたには色々と聞きたいことがあ――」
何かが突進してくる気配を感じた。
俺が後方に飛び退くと同時にフード野郎の鋭い爪が空を切った。
「君……」
フード野郎はすぐさまこちらに向き直って、追撃してくる。
「タフなヤツだな」
俺は飛び上がって野郎の攻撃を避けた。
「えー、手こずってんの?」
ジーンキララがからかい気味に喋りかけてくる。彼女は既にほとんどのゴーレムを破壊していた。
「これで終わらすさ」
俺は片方の魔手羅を展開した。
≪軍隊竜の尾≫!!
黒い棘が無数に生えた魔手羅を野郎に叩きつける。
鈍い音と共にフード野郎は地面に崩折れた。
「ひえぁ!」
奴ウ父は叫び声をあげて逃げ出した。
「あ、おい待ていや!」
そんな彼を追いかけようとしたが、その瞬間奴ウ父の首がすっぱりと吹き飛びやがった。
紫色の魔手羅が持ち主の元へと戻っていく。
「ジーンちゃん、なんで殺したん?」
「え? ダメだった?」
キョトンとした顔をしているジーンキララ。
「こんなクズ生きている価値はないでしょ?」
「まぁそれは同意するけど、色々と情報を聞き出すつもりだったのよ」
「あぁ、なるほど。最初から言ってくれれば良かったのに。でもね、たぶんこの男からは対して情報を得られなかったと思うよ」
うーむ、言わなかった俺が悪いのか。それともわざとなのか。
「確かにそうかもだけど、少しでも情報を集めたかったん……」
「あぁ、ごめんね。次から気をつけるよ」
ジーンキララは腕を広げて周りを示した。
「で、これからどうするの?」
周囲にはいつの間にか村人たちが集まっていた。
みな不安な顔つきで俺たちを見ている。
「みなさん、心配しないで。我々はあなた方に危害を加えるつもりはありません」
宥めるように言いながら、俺はフード野郎に近づき、そのフードをサッと剥ぎ取った。
そこに現れたのは到底人間の顔モノではなかった。爬虫類の鱗に覆われ、鼻梁がやけにのっぺりしている。
「こいつは一体……?」
俺は現数力を使って男のステータスを確認した。
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ロッシオ 28歳 男 レベル:55
種族:合成魔人
【基礎体力】
生命力:58 奴力:4
攻撃力:240 防御力:260 速力:200
【奴ウ力】
適正なし
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ゴウマムゥ?
なんじゃそりゃ?




