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「べネルフィアの頃と何も変わらない」

「アルゴン、あなた王都の祭りは初めてよね?」


 ルクスアウラ王女が隣に立つ俺に尋ねてきた。

 彼女は今、自室でお茶とお菓子を楽しんでいる。で、例によって俺はその側に立ってお菓子アーンタイムを待っているわけだ。


「そうですね。初めてです」


 言っておくが、これは断じて俺が望んだことではない。王女がそうしろと言うからそうしているだけだ。


「そうなのね。でも、私の護衛で自由に見て回れないのでしょ?」

「はい、それが任務ですので」

「残念ねぇ……」


 ルクスアウラはカップに口をつける。


 彼女が言う祭りとは、この王都で毎年開催される尤王祭のことだ。

 なんでも、古代に侵攻して来た魔王とその軍勢を食い止めた初代尤者マグナシウスたちに感謝を捧げるのが目的らしい。


 王都あげての祭りなので、とても盛り上がるらしい。


「私も、ヲイド教の行事に参加しないといけないモノね。はぁ、つまらないわ」


 ため息を吐くルクスアウラ。

 そのしぐさ1つとってもこう、人をドキリとさせるものがある。


「いっそ抜け出しちゃおうかしら」


 彼女はニッコリと笑みを浮かべ、お菓子を一口食べた。


 この人、見た目の割にお茶目なところがあるんだよなぁ。


 ◆


 その日は近衛伐士の仕事が早く終わった。

 いつもならこういう時は群牢同盟の活動に向かうのだが、今日は違う。


 久しぶりにルシアンやクリスソフィア、そしてジーンキララと飯を食うことになっていた。

 お互い自由な時間が取りずらいからね、こうやってみんなで集まれるのは貴重なのだ。


 もう陽が沈み掛けている時刻。

 俺たちは王都の西地区にあるレストランで食事をとっていた。


 そのレストランは湖の側にある高層ビルの中程にあった。

 ルシアンが結構高級な店を予約しやがったんだ。まぁ、俺やジーンキララは金に余裕があるし、クリスの分はルシアンが出すとかカッコつけているから問題はないんだよね。


「ここの店は美味しいってランスさんが言っていたんだ」


 ルシアンが得意げに言う。

 俺たちは店の窓側の円形テーブル席に腰かけていた。

 大きな窓からは湖が見渡せた。

 湖の上を歪曲して設立されている場所用道路や、中央の島にある教会の尖塔などがライトアップされている。


「ランスさんは女たらしだからね、こういう良い店を良く知っているんだね」

「ジーン! 何てことをいうんだ!?」


 ルシアンがギョっとした顔をしてジーンキララの言葉を否定する。


「ランスさんはそんなんじゃない……たぶん」


 ただしその否定の言葉は自信なさげであった。


「ほう、つまりルシアンは女性の口説き方を教えてもらっているわけか? くぅー、羨ましいねぇ!」

「なっ! 違うってアルゴン、お前じゃあるまいし!」


 茶化す俺にむきになって言い返すルシアン。


「ちょっとみんな、場所を考えて」


 そしてそんな俺らを窘めるクリス。

 そんなやり取りを見て笑っているジーンキララ。


 べネルフィアの頃と何も変わらない。穏やかな時間を過ごした。


 店から出た俺たち。


「この後、どうする?」


 ルシアンがのびをしながら言う。


「ごめん、あたし明日は実習で早いから。後はみんなで楽しんで」


 クリスが残念そうに言った。

 俺ら並みとはいかないまでも、クリスも忙しそうだ。一流の職人になるのは、想像しているよりも遥かに難しいってことなんだろうな。


「そっか、そうだな俺たちも明日は早いし」


 というわけで今日はもうお開きになった。


「ルシアン、クリスのことちゃんと送ってあげなよ?」

「えっ? お前らは来ないのか?」

「うん、ちょっとアルゴンに話があってね」


 ジーンキララが俺の肩を掴んだ。

 なるほど、ルシアンとクリスを二人っきりにさせようという作戦だな?


 しょうがないから俺も乗っかろう。


「そういうことだから、お前が責任を持ってちゃんとクリスちゃんを送り届けろや」

「お、おう」


 戸惑いながらも頷くルシアン。


「それじゃ、2人ともまたね」

「また明日なジーン。それとアルも頑張れよ」


 俺たちは手を振って別れた。


「それで、愛の告白でもされるのかな?」

「さぁ。どうかな。とりあえずこっちで話そうかな」


 ジーンキララは俺を、湖岸にある公園に連れて行った。

 公園と言っても、特に遊具などない殺風景なものだった。


 彼女は手すりから身を乗り出して湖を眺めている。


「それで、話って何かな?」

「ねぇ、アルゴン……」


 ジーンキララが俺の方に顔を向ける。


「もうあたしが魔人だってこと、気づいているよね?」






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